2010/6/14

  2010年6月14日(月)
  大胆予測・ユーロの反騰は株価反騰の指標。

(一)大戦争と大相場には共通点が多い。

(1)大戦争と大相場は緒戦から大逆転を経て決着するまで、経過が酷似している。
(2)例えば第二次世界大戦でドイツと日本は 1.緒戦で連戦連勝し、圧倒的優位に立った。2.しかし勝てば勝つほど戦線が拡大し、3.補給が困難となった。
(3)これに対して、4.緒戦で出遅れた連合軍は結束して戦力を強化し、5.補給路を断って反撃に打って出た。6.日独軍は前線で孤立し、7.戦況は大逆転した。8.日独は降伏し、9.惨憺たる荒廃が残った。
(4)2年前にリーマンショックが発生するまで、1.米国の投資銀行は住宅ローン債権などを次々に証券化して世界中の金融機関に販売し、2.空前の利益を計上していた。しかし 3.サブプライムローンの破綻をきっかけに、4.リーマン・ブラザーズは繁栄の頂点から一転して倒産した。5.投資銀行が発行した証券類を保有する金融機関に信用不安が連鎖し、6.米国経済に金融不安が広がり、7.世界的な金融危機に発展した。
(5)8.米政府はシティグループとAIGを救済し、9.FRB(米中央銀行)はゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどすべての投資銀行に直接、無制限の緊急融資を断行し、10.金融恐慌を瀬戸際で食い止めた。
(6)リーマンショックで主役を演じたリーマン・ブラザーズと第二次世界大戦で主役を演じた日独両国の盛衰は、1.緒戦の連戦連勝、2.戦線の急拡大による補給困難、3.攻守の大逆転、4.倒産、敗戦に至る経過が酷似している。

(二)今回の金融不況の仕掛け人はヘッジファンドか。

(1)リーマンショックの悪夢がさめやらぬうちに、世界の金融市場は再び信用不安の連鎖に襲われている。今回の信用不安の震源地はヨーロッパのユーロ圏16カ国である。1.ギリシャの財政破綻が2.ユーロの急落を招き、3.スペイン、ポルトガルの国債売りに飛び火し、4.世界的株安へと連鎖した。
(2)一連のユーロ危機の主要な仕掛け人は一部のヘッジファンドと推定される。
(3)一口にヘッジファンドといっても世界の個人投資家の資金を集めて多角的に運用する堅実なファンドもあれば、投機的に運用するハイリスク、ハイリターンのファンドもある。
(4)リーマンショック時には投資銀行がヘッジファンドの最大のスポンサーであったが、投資銀行は現在、金融規制法案を巡ってオバマ政権と対立状態にあり、ヘッジファンドへの融資を手控えている。
(5)それならば、資金力に限界があるヘッジファンドがなぜ、いかにしてユーロとユーロ債の売り崩しに成功したのだろう。以下に推定を交えて私見を述べたい。

(三)緒戦で連戦連勝したヘッジファンド。

(1)ヘッジファンドの勝利の第1弾はユーロ売りの大成功であった。
(2)為替先物は丁半ばくちに近い投機的市場で、個人投資家でも担保の40倍の相場が張れる。
(3)ヘッジファンドはギリシャの財政破綻を見て、ユーロの売りくずしに出た。ユーロは急落し、ヘッジファンドは緒戦で資金量の数百倍を稼ぎ出す戦果を上げたと思われる。
(4)勝利の第2弾は、ギリシャ国債に次ぐスペイン、ポルトガル国債の売り崩しである。ヘッジファンドは実質無担保で空売りしたから、資金効率がきわめて高かった。
(5)ちなみに、一般の投資家は空売りする場合に担保を要求されるが、ヘッジファンドは担保なしの空売りを黙認されてきた。後述するようにドイツのメルケル首相は現物の裏付けを持たないヘッジファンドの空売り禁止を強硬に主張している。
(6)今回の世界的な相場下落をリードしたのは常にユーロ安であった。私はユーロの売り崩しこそヘッジファンドが成功した最大のキーポイントだと思う。

(四)ユーロ圏16カ国の反撃第1弾はユーロ債の買い支え。

(1)ヘッジファンドの売り崩しに対するユーロ圏16カ国の反撃第1弾は国債の買い支えである。
(2)ヘッジファンドはギリシャに次いで財政不安がささやかれるスペインとポルトガルの国債を空売りした。
(3)これに対してユーロ圏16カ国で構成するECB中央銀行は90兆円の資金を準備して国債の買い支えに打って出た。
(4)中央銀行の買い支えは効果を現し、先週はスペインの新発国債が債券市場で順調に消化された。
(5)ヘッジファンドが評価益を実現益に変えるためには空売りしたユーロ債を買い戻さなくてはならないが、中央銀行の買い支えでユーロ債の需給関係が好転したために安値での買い戻しが困難となった。評価益が評価損に逆転する可能性もある。

(五)ユーロ圏の反撃第2弾は、空売り禁止。

(1)2週間前にドイツのメルケル首相がヘッジファンドの空売り規制を主張した。先週にはフランスのサルコジ大統領が同調したから、今週にも16カ国の同意が成立し、実施される可能性がある。
(2)リーマンショックの際にも、欧米各国は現物の裏付けがないヘッジファンドの空売りを禁止した。
(3)ヘッジファンドだけに存在しない現物の空売りを許せば、取引条件が一方的に売り方有利、買い方不利となる。ヘッジファンドが破綻したとき決済不能となる恐れもある。
(4)もしヘッジファンドの空売りが禁止されると、ヘッジファンドは新規売りや買い戻しで現金を準備する必要が生じ、資金繰りが悪化する。空売り規制は威力を発揮するだろう。

(六)ユーロ反騰で攻守大逆転も。

(1)6月11日の為替市場で、ユーロは2%も急騰し、先週1週間では3%高となった。空売り筋が受けた打撃はきわめて大きい。
(2)例えば1億円の保証金で40億円のユーロを空売りしていた投資家は1週間で120億円の損失を受けた。
(3)思惑が外れたヘッジファンドは資金繰りが急速に悪化する。特に連戦連勝で意気上がる投資家ほど戦線を拡大しているから、致命傷を受ける場合もある。
(4)先週末のユーロの急騰が今週以降の為替相場と債券相場と株式相場にどんな波乱をもたらすか、注目したい。

(七)私の相場観。

(1)私は5月24日5月31日6月7日の3回にわたって底入れの指標が出そろっていると述べた。
(2)多数意見は「下放れ、底抜け必至」であったが、私は下値抵抗力の強さから相場が悪材料をほぼ折り込んだと見ていた。
(3)今回の弱気相場はユーロ安に引っ張られていただけに、先週末のユーロの反騰は相場全体の大逆転につながる可能性がある。
(4)もちろん、すべてのヘッジファンドが資金をユーロ売りに集中しているわけではない。ヘッジファンドはヘッジ売りを重視するが、本来は売りと買いをヘッジして相場のサヤを取るシステムである。
(5)しかしECB中央銀行のトルシェ総裁やドイツのメルケル首相は明快にヘッジファンドを仮想敵と見て防衛策を構築している。
(6)ユーロ圏16カ国対ヘッジファンドの攻防は、1.緒戦でヘッジファンドが圧勝したが、2.ECB中央銀行は90兆円をユーロ債の防戦買いに投入し、3.空売り規制も辞さないなど、4.防衛策を強化した。
(7)その結果、5.先週末には攻守が逆転した可能性がある。6.今週以降の相場次第では踏み上げを迫られるファンドも出るだろう。
(8)大戦争や大相場の歴史をひも解けば、ひとたび形勢が逆転すれば、決着まで一気呵成となる。

(八)富山化学(富士フイルム)、口蹄疫治療薬開発へ。

(1)12日付日経は、富士フイルム傘下の富山化学が口蹄疫治療薬の開発に乗り出すと報道した。
(2)口蹄疫治療に薬効範囲を広げるT-1105は、T-705の類似物質で、2005年の実験で口蹄疫に有効であることが証明されていた。富山化学は農水省から要請があれば即座に粉末剤を供給するという。
(3)宮崎県の感染拡大を受け、富山化学は改めて本格的な動物実験を開始し、2年後をメドに農水省に承認申請する。
(4)一方、臨床試験が最終段階を迎えた富山化学のT-705は、これまでに感染症学会で新型鳥インフルエンザ、B型、C型肝炎、おたふく風邪等、多くの感染症に有効であると発表している。
(5)T-705もT-1105も抗生物質ではないから耐性菌が発生しないという特性がある。
(6)新薬開発の材料豊富な富山化学を傘下に持つ富士フイルムに注目したい。