2010/5/31

  2010年5月31日(月)

(一)相場観。続セリングクライマックス。

(1)前回に私はセリングクライマックスを示す条件が成熟していると述べた。そして今回はセリングクライマックスに達した可能性が高いと感じている。前回と併せてごらんいただきたい。
(2)株式市場には「弱気論者が理路整然と弱気の理由を述べるようになれば相場は底入れする」という格言がある。今やギリシャはもちろん、スペインやポルトガルの財政赤字は周知の事実となった。赤字国の財政再建案と赤字国に対するECとIMFの支援態勢も鮮明となった。どんな大材料でも、周知の情報は相場が折り込んでしまっている。
(3)リーマンショック時にはどの銀行とどのヘッジファンドが、どれくらいの不良債権を抱えているかが全くわからなかったから、恐怖心と不信感が世界の金融市場をおおっていたが、今回は問題点の所在と対応策が明快である。
(4)一方、景気と企業業績は世界的に回復が鮮明となっている。主要国の中央銀行はそろって過剰流動性を供給しているから、ユーロや株式や国債を売って換金しても新たな投資先を見つけるのは難しい。
(5)先週、中国政府が備蓄したユーロを売るという情報が流れてユーロと株式が連鎖して急落したが、翌日には虚報とわかった。それもそのはずで、中国は輸出で稼いだ外貨をドルとユーロで運用する以外に選択肢がない。
(6)ヘッジファンドのユーロ売り、国債売り、株式売りは、現在までは増勢一途であるが、各国政府が空売り規制で協調しつつある。ちなみに欧米で問題となっている空売りは日本の信用取引の空売りとは全く別で、ヘッジファンドが現物の裏付けなしに売り崩すきわめて投機的行為を指している。
(7)ゴールドマン・サックスを初めとする投資銀行は金融規制法案成立を受けて米政府との妥協点を探っており、投資銀行傘下のヘッジファンドが空売りの買い戻しに転じる時期は近いだろう。
(8)私は株価が底値圏に達したことを示す条件が一段と成熟したと思う。

(二)日本ケミカル。アルファJCRの生産能力5倍へ、30億円投入。

(1)神戸新聞は5月27日、日本ケミカルが「腎性貧血治療薬アルファJCRの生産体制を強化する」ために「30億円を投じて神戸工場に新棟を建設し、今年12月をめどに生産能力を5倍に引き上げる」と報じた。大証2部上場、売上高144億円の日本ケミカルとしては大胆な投資である。
(2)日本ケミカルはアルファJCRの大型受注に対応した大量生産態勢をすでに完了しているから、今回の設備投資は注射薬等を製剤するための投資と思われる。
(3)ところが5月14日発表の今期業績予想では腎性貧血治療薬アルファJCRの売上げ寄与を国内15億円、海外ゼロと予想し、さらに前期の特許料収入15億円が今期は見込めないから減益になると予想している。
(4)消極的な決算予想と大胆な設備投資は相反する情報であるが、私は、日本ケミカルは超大型受注の獲得にメドをつけていると思う。
(5)最大の根拠は6月の株主総会で取締役に就任するグラクソ・スミスクラインのデュノワイエ会長の実力にある。デュノワイエ会長は大合併、大買収を次々に成功させてグラクソを世界第3位、売上高3.5兆円の巨大製薬会社に急成長させた。そして今、日本の小型の製薬会社に急接近した。
(6)過去半年間の経過は、1. 日本ケミカルが開発した新薬の販売権に十数億円を投じると共に 2. 全面的な提携契約を締結した。3. 80億円を投入して25%の株式を取得し、4. ダントツの筆頭大株主となった。5. さらに6月の株主総会でグラクソは会長と技術担当取締役の2名を日本ケミカルの取締役に送り込む。
(7)グラクソが販売権を取得した海外の腎性貧血治療薬市場では、現在1兆円市場をロシュとシェリング・プラウが2分しており、さらに中国市場が急拡大期を迎えた。デュノワイエ会長が電光石火で日本ケミカルの取締役に就任するからには巨大市場で相当のシェアを取るめどをつけたと見るべきだろう。日本ケミカルもまた新規受注にめどをつけたからこそ大型の設備投資に踏みきったのだろう。
(8)今日では、買収、合併、提携は欧米の経営者に不可欠のノウハウである。しかも実力者のデュノワイエ会長が自ら投資と出資のリスクを取って取締役に就任したのである。日本ケミカルにどんな変化が起こるか、注目したい。