2006/6/5

  2006年6月5日(月)

(一)セリングクライマックスについて。

(1)6月2日に株式相場は全面安の暴落から全面高の暴騰へ、大逆転した。日経ダウ採用225銘柄から新興市場の小型株に至るまで、大半のチャートが軒並みに長い下ひげを引いて大陽線を記録した。大商いを伴った大反騰は典型的なセリングクライマックスで、大底を示す指標である。
(2)アメリカでは大商いで大底を記録することが多いから、この現象をセリングクライマックスと呼ぶが、日本では大底を薄商いで形成する場合が多い。
(3)日本では大商いで大天井を形成するバイイングクライマックスがあっても、セリングクライマックスが現れる事は少ない。今回はアメリカ型 のセリングクライマックスを見たから、よほどの悪材料が出ない限り東京市場は陰の極に達したと思う。
(4)大底を示す指標はほかにもある。弱気局面では週末の金曜日に株を買って翌週に備える気力がわきにくい。その金曜日に「金曜日の後場高」を演じたことも相場の転機を示す指標である。縁起を担ぐ人にとって、2日は大安であった。
(5)強気を堅持したクラブ9としては、何はともあれ読者と共に喜びを分かちたい。

(二)強気の条件と弱気の条件。

(1)私は滅多に弱気を主張しないが、一度だけ例外があった。
(2)1999年から2000年前半にかけて世界中で熱狂的なネット株人気が起こり、東京市場も大暴騰を演じていた。そのとき私はネットバブルの崩壊を予見して毎週断固として弱気の論陣を張っていた。
(3)当時はソフトバンク、ヤフー、光通信などが熱狂的な人気を集めて、IT関連株のPERはみな数百倍に達していた。マスコミはインターネット時代の到来をはやし、森首相は国会で「IT」を「イット」と発音して失笑を買っていた。
(4)しかし私は異常な理想買いに警告を発し、特に2000年4月18日から3週間にわたって株式新聞で「不動産バブルとネットバブルにおける熱狂と賞賛と羨望と嫉妬と憎悪の研究」を連載した。
(5)私が「熱狂は賞賛、羨望、嫉妬という課程を一挙に駆け抜けて、激しい憎悪に変わるだろう」と述べた直後にネットバブルは崩壊した。崩壊は私の予想通りの過程をたどり、ソフトバンクの孫氏と光通信の重田氏は投資家の憎悪と怨嗟を集めた。
(6)これに対して今回の急落局面では相場が崩壊する理由が見当たらなかった 。企業業績は好調である。日本経済は回復初期で、公定歩合はまだゼロ金利を脱していない。不動産相場は欧米に比べて大きく出遅れている。地球上の人口の半分を占めるBRICs4ヶ国の高度成長に陰りが見えず商品市況は高値圏を維持している。
(7)よって私は強気を堅持している。下げ過ぎた相場は猛反発する可能性が高い。

(三)指標3銘柄は不変。

(1)3銘柄のうち最も下げ幅が厳しかったジャスダックのNIF SMBCは2日にストップ安からストップ高に大逆転した。底入れ完了だろう。
(2)住友金属鉱山は株価が反落した間にも主力3品目のうち、銅とニッケルが史上最高値を更新し、金も高値圏を維持している。それゆえ期間利益、含み益とも拡大一途をたどっているだろう。
(3)富山化学はアメリカに次いで日本でもガレノキサシンの製造認可を申請した。売上高がピークに2500億円を超えると予想される超大型抗生物質が売り上げに立つ来期以降は、収益が飛躍的な拡大期を迎える。
(4)三菱UFJ証券の坂倉氏は5月16日付で富山化学のT-705に関する詳細なレポートを出した。鳥インフルエンザばかりかインフルエンザ全般とC型肝炎に著効があること、成功した場合の 市場規模は超大型であること、アメリカのFDAの指導の下に来年の臨床に向けて準備作業に入っていること、などを報じている。
(5)3銘柄を今年の指標株とする方針は不変である。

(四)崩壊前夜の村上ファンド。

(1)5月19日付クラブ9で、私は「村上ファンドは資金源が細り、空中分解する可能性がある。村上ファンドが関与している他の銘柄にも影響が出る」と述べた。果たして6月2日に村上銘柄は軒並みにストップ安、売り気配となった。
(2)「村上氏逮捕か」の報道を受けてマスコミが大騒ぎしているが、5月15日22日付のクラブ9の推論を超える論評は見あたらない。是非、さかのぼってごらん頂きたい。
(3)今回は2つの問題点を指摘したい。第1に、インサイダー疑惑は別件で、村上氏逮捕の真の目標は阪神電鉄の買い占めにある。第2に、村上ファンドよりもオリックスに加えられた圧力の方が大きくて効果が絶大であった。
(4)事件は村上ファンドの資本金の45%を保有するオリックスが資本提携を解消した日に表面化した。オリックスは村上ファンドの設立当初から影の主役と見られていたが、オリックスはノンバンクだから監督官庁が経産省で、株式市場を監督する金融庁は手を出すことができなかった。しかし今や金融庁の検査が村上ファンドを通してオリックスに及び、オリックスは村上ファンドを切り捨てざるを得ない状況に追い込まれた。
(5)オリックスは資本関係を解消するが融資関係は維持すると述べている。それは融資契約に期限があるからで、期限到来を待って全額を回収するだろう。オリックスの後ろ盾を失えばその他の出資者も手を引く。
(6)村上ファンドはシンガポールに拠点を移したが、新規の資金を集めるのは不可能に近い。投資ファンドは運用目的を明解に規定する必要があるが、村上ファンドはグリーンメーラーからハゲタカファンドに豹変した。村上氏は資金運用で暴走し、すでに投資家の信頼を失っている。
(7)検察庁にとって村上氏のインサイダー疑惑は別件で、本当の狙いは阪神電鉄の恐喝疑惑である。
(8)電鉄、電力、ガス等は公益事業である。経営者は利用者の生活を守る義務と責任がある。それゆえ料金は監督官庁の認可を必要とする。
(9)もし村上氏が公然と主張したように阪神タイガースや阪神百貨店等の黒字事業を切り売りし、その利益を株主で山分けすれば、有力な収益源を失った阪神電鉄は料金を値上げせざるを得なくなる。
(10)村上ファンドの反社会的行為にオリックスが荷担したから、オリックスが責任を追及されて、村上ファンドと手を切らざるを得なくなったのではないか、と私は思う。最大の後ろ盾を失えば、その他の出資者も手を引く。村上ファンドが体勢を立て直すのは困難だろう。
(11)村上ファンドは1,000円台で株価をてこ入れした上で1,200円の買い戻しを要求していたから、支配株が45%から52%に増えた。50%を超えれば完全買収で、株主総会を招集して社長以下の取締役を更迭し、事業を解体、切り売りもできる。阪神電鉄を完全支配し、抵抗できない状況に追い込んで、執拗に高値買い取りを要求したのだから、事実上の恐喝と認定される可能性がある。
(12)阪急はなぜ930円のTOB宣言を取り下げないのだろう。取り下げれば即座に阪神株は暴落する。
(13)検察庁と金融庁の包囲網を受けた今となっては、村上ファンドの保有株を高値で肩代わりする第3のファンドが現れる可能性はないだろう。
(14)検察庁と金融庁の手法は、非常手段とはいえ、将来海外から必ず批判を受けるだろう。