2006/5/15

  2006年5月15日(月)
  阪神電鉄の攻防は
  村上ファンド・オリックスの敗退が鮮明に。

(一)シンガポールに逃避した村上ファンド。

(1)村上ファンドは先週末、突如として本社をシンガポールに移すと表明した。
(2)村上ファンドはグリーンメーラーである。ドル札は皆グリーンだから、札束で株式を買い集め、乗っ取りをちらつかせて高値で買い取らせる者をグリーンメーラーという。ブラックメール(恐喝)は犯罪であるが、グリーンメールは合法的に恐喝するから犯罪とはならない。
(3)村上ファンド自身は合法的な投資ファンドであるが、村上ファンドが集めた資金の中にはブラックマネーが混在している可能性があるから、もし金融庁が出資者の名簿提出を求めれば、一部の資金は逃げ出す。
(4)これを嫌って村上ファンドは本社を金融庁や国税庁や検察庁の捜査権の及ばないシンガポールに移したと推定される。
(5)しかしその場合でも、日本の出資者が村上ファンドに追随して資金を海外に持ち出すことは外為法から見て不可能だろう。かといって出資者は期限を拘束されているから、資金が即座に消滅するわけではない。運用はシンガポール、日本の出資者の資金は日本に残留とならざるを得ないだろう。
(6)創業以来、村上ファンドの影の主役と見られていたオリックスは資本関係だけを解消すると述べているが、拘束期限を待って全額を引き上げるだろう。
(7)シンガポールで外国人投資家の資金を集めるのも簡単ではない。村上ファンドは資金源が細り、空中分解する可能性がある。
(8)村上ファンドが関与している他の銘柄にも影響が出るだろう。

(二)村上ファンドと手を切ったオリックス。

(1)オリックスは村上ファンドの45%の大株主であり、主要な金主であり、影の主役と見られていた。
(2)オリックスは村上ファンドとの資本関係を解消して取締役を引き上げるが、出資金は残すと述べている。しかし阪神電鉄との対決の頂点で村上ファンドと絶縁すると表明したのだからよほどの事情があったと推定される。全面的な提携解消は必至だろう。
(3)阪神電鉄は沿線住民の足となっている公益企業である。村上ファンドは公益企業に買収を仕掛けたために社会的問題に発展した。さらにグリーンメーラーの買い占めは20%程度までという節度を超えて45%も買ったためにハゲタカファンド(企業を乗っ取って解体する)と同一視された。
(4)こうなれば監督官庁は公益企業の乗っ取り解体を放置できないから、村上ファンドの資金源にメスを入れたのではないかと推定される。
(5)オリックスも大手金融機関として社会的な責任がある。阪神電鉄の買収に荷担していないという立場を鮮明にする必要が生じたのだろう。
(6)オリックスは巨大な金融機関であるがノンバンクだから、金融庁ではなく通産省の管轄に属している。金融庁の検査を受けないからこれまで銀行が手を出せない領域で奔放な融資活動を展開して急成長を遂げた。
(7)しかし村上ファンドと手を切らなければ村上ファンドに対する金融庁の捜査権がオリックスに及ぶ。この点からもオリックスは手を引かざるを得なかったのだろう。

(三)買い占め問題は阪神絶対有利に。

(1)村上ファンドの資金繰りに限界が見えた今となっては阪神電鉄の株集めが買収に発展する可能性は消えた。
(2)役所からにらまれた村上ファンドを救済する第3の投資ファンドは現れないだろう。
(3)買い戻しは阪神絶対有利の条件で決着するだろう。
(4)大胆に予想すれば、攻防の水準は800円台に下がるだろう。
(5)大胆に推定すれば、村上ファンドは政治的圧力に屈した。
(6)村上ファンドは村上氏個人の資金ではなく複数の出資者の資金によって構成されている。オリックスの後ろ盾を失えば早期に立ち直るのは困難だろう。
(7)そもそも村上ファンドが連勝の勢いに乗ってグリーンメーラーの節度をはみ出した点が敗着となった。
(8)阪神タイガースの応援団は強かった。
(9)阪神問題の解決で株式市場を覆っていた不透明な霧の一端が晴れるだろう。

(四)株式市場を覆っていた不透明な霧が晴れる。

(1)阪神電鉄の攻防の山場における村上ファンドとオリックスの決断は、事実上の撤収宣言である。有形無形の政治的圧力がよほど厳しかったと推定される。
(2)しかしこれで今年の2月以来、株式市場を覆っていた重くて不透明な霧がようやく晴れるだろう。
(3)第1に、検察庁は2月にライブドアの堀江社長以下幹部を逮捕したが、堀江社長から有効な供述を取ることができなかった。堀江社長は投資組合による資金運用の合法性を確信しており、投資組合には明解な法規制が存在しなかったからである。
(4)そのために金融庁は投資組合の出資者の名簿提出を求めたが、その途端にアングラマネーが流出し、特に新興市場の株価が大暴落した。日本の株式市場に巨額のアングラマネーが存在することをうかがわせた。
(5)金融庁は名簿提出の要求を一旦は取り下げたが、現国会で投資組合に関する法案を成立させる構えである。
(6)第2に、外資を含めた投資ファンドの資金量は投資組合よりもはるかに大きいから、一部市場銘柄を中心に運用していた。国内に拠点を持っていた村上ファンドの海外逃避は金融庁の法規制が投資ファンドにも及びつつあることを感じさせる。
(7)第3に、消費者金融に対する金融庁の厳しい罰則の適用、大阪市の外郭団体に対する司直の摘発等、これまで放置されていた不透明な商習慣にもメスが入った。
(8)これらの一連の動向は巨額のアングラマネーの存在とその形成過程の一端をのぞかせた。
(9)2月以降、新興市場の株価が大暴落し、一部市場にも重苦しい雰囲気が漂っていたが、その原因がアングラマネーの流出にあったとすれば、悪材料は悪材料なりに釈然とする。
(10)そのアングラマネーの逃避はほぼ一巡した。不透明な霧が晴れれば投資家の気持ちも明るくなるだろう。

お断り:今週のコラムは状況証拠を整理して構成した私の推論です。