(1)前回に私は「オバマ大統領の誤算」で、株式市場への悪影響を指摘したが、世界の株価は先週も暴落の連鎖を広げた。
(2)オバマ大統領の金融改革の最大の目標は銀行と証券の分離である。すなわち大手銀行は証券部門を、投資銀行は銀行部門を分離せよという規制論で、80年前の大恐慌時代に成立し、その後完全に廃止されたタフト・ハートレー法の復活である。
(3)しかし今日では金融市場が飛躍的に拡大し、新しい金融商品が次々に生まれて、銀行と証券と商品が垣根を越えて一体化しているから、私は先週、1点の規制は必ず規制の連鎖を生み出し、世界の金融市場を混乱させる可能性があると述べた。
(4)現に先週末、ギリシャとポルトガルの財政悪化が報じられると、即日世界の金融市場に急落の連鎖が広がった。すなわち 1.ECの国債市場を揺さぶり、2.ECの株価とユーロの急落を誘い、3.世界中の株価が急落し、4.世界の商品市場が急落し、5.日本の株価が急落し、円が急騰した。
(5)かくのごとく、オバマ大統領が金融改革を主張して以来、世界のすべての金融市場は萎縮し、暴落の連鎖におびえている。
(6)さもありなん。オバマ大統領が金融改革のリーダーに指名したボルカーは、元FRB議長とはいえ83歳の高齢で、頑固に大恐慌時代のタフト・ハートレー法の復活を主張している保守派の代表である。
(7)米国の議会は歴史的に「規制撤廃による小さな政府」を追求してきた。私は時代錯誤の金融規制が米国の議会で成立するとは思わない。オバマ大統領は健康保険制度の改革に失敗して人気が急落し、今度は金融改革を主張して人気挽回を図ったが、金融市場は暴落によって明快に「ノー」を突きつけたのである。
(8)問題はいつ金融改革案が廃案に追い込まれるかであるが、長引けば株式市場の沈滞と混乱が続く可能性がある。
(9)しかし一方で強気論も台頭している。第1に、オバマ政権が株価暴落を放置すれば大統領の支持率が急落する。第2に、世界の主要国が供給した過剰流動性はそのまま残っている。第3に、主要国家は金融緩和の出口を探るどころではなくなった。第4に、株価が底値圏に達したことを示すテクニカル指標が点滅している。
(10)私はもちろん、強気の少数意見に期待したい。