2010/2/8

  2010年2月8日(月)

(一)暴落の最大要因はオバマ大統領の金融改革。

(1)前回に私は「オバマ大統領の誤算」で、株式市場への悪影響を指摘したが、世界の株価は先週も暴落の連鎖を広げた。
(2)オバマ大統領の金融改革の最大の目標は銀行と証券の分離である。すなわち大手銀行は証券部門を、投資銀行は銀行部門を分離せよという規制論で、80年前の大恐慌時代に成立し、その後完全に廃止されたタフト・ハートレー法の復活である。
(3)しかし今日では金融市場が飛躍的に拡大し、新しい金融商品が次々に生まれて、銀行と証券と商品が垣根を越えて一体化しているから、私は先週、1点の規制は必ず規制の連鎖を生み出し、世界の金融市場を混乱させる可能性があると述べた。
(4)現に先週末、ギリシャとポルトガルの財政悪化が報じられると、即日世界の金融市場に急落の連鎖が広がった。すなわち 1.ECの国債市場を揺さぶり、2.ECの株価とユーロの急落を誘い、3.世界中の株価が急落し、4.世界の商品市場が急落し、5.日本の株価が急落し、円が急騰した。
(5)かくのごとく、オバマ大統領が金融改革を主張して以来、世界のすべての金融市場は萎縮し、暴落の連鎖におびえている。
(6)さもありなん。オバマ大統領が金融改革のリーダーに指名したボルカーは、元FRB議長とはいえ83歳の高齢で、頑固に大恐慌時代のタフト・ハートレー法の復活を主張している保守派の代表である。
(7)米国の議会は歴史的に「規制撤廃による小さな政府」を追求してきた。私は時代錯誤の金融規制が米国の議会で成立するとは思わない。オバマ大統領は健康保険制度の改革に失敗して人気が急落し、今度は金融改革を主張して人気挽回を図ったが、金融市場は暴落によって明快に「ノー」を突きつけたのである。
(8)問題はいつ金融改革案が廃案に追い込まれるかであるが、長引けば株式市場の沈滞と混乱が続く可能性がある。
(9)しかし一方で強気論も台頭している。第1に、オバマ政権が株価暴落を放置すれば大統領の支持率が急落する。第2に、世界の主要国が供給した過剰流動性はそのまま残っている。第3に、主要国家は金融緩和の出口を探るどころではなくなった。第4に、株価が底値圏に達したことを示すテクニカル指標が点滅している。
(10)私はもちろん、強気の少数意見に期待したい。

(二)三洋電機。過去を見るか未来を見るか。

(1)三洋電機は先週、今3月期決算予想を発表し、最終赤字を300億円から500億円へ、増額修正した。
(2)増加した赤字200億円の内訳はTOB関連経費と関連会社整理損などで、本業が悪化したわけではなかった。
(3)パナソニック、ソニー、シャープ、日立、東芝等の家電大手は例外なく業績悪化に苦しんできたが、ここへきてようやく回復の兆しが見える。三洋電気も家電部門は黒字に転換した。 (4)問題は昨年来大型投資を集中した太陽電池と自動車電池部門の行方である。大きな先行投資は大きな償却負担を伴うが、新工場はいずれも完成と同時にフル操業に入っており、業績への寄与は時間の問題だろう。
(5)中でも7月完成予定の兵庫新工場は世界初の自動車用リチウム電池の量産工場で、年産2万台の生産規模が一挙に20万台に拡大する。
(6)三洋電機はリチウムイオン電池で特定の自動車メーカーとの共同開発ではなく、全方位販売を宣言している。三洋電機はパソコンやケータイのリチウムイオン電池でトップシェアを強化してきた。全方位販売は、電気自動車市場でもリチウムイオン電池のトップシェアを守り抜くという決意の表明である。
(7)裏付けとなっているのは品質に対する自信である。世界の自動車大手5社がすでに三洋電機製品の採用を決めているが、大量生産とコストダウンで先行すれば、共同開発を進めている自動車メーカーも三洋電気の製品を採用せざるを得なくなる。
(8)パナソニックが三洋電機の赤字を熟知した上で買収を決意したのは、三洋電機の世界一の電池事業に自らの成長戦略を賭けたからである。急ピッチの先行投資を支援しているパナソニックから見れば、赤字増加は予想の範囲だろう。
(9)私は、自動車産業は21世紀にも世界最大の産業であり続けるが、主役の座は自動車メーカーから電池メーカーに移ると思う。さらに私は、「本格的な電気自動車時代が到来する2020年に三洋電機が40%のシェアを取る」という本間副社長の発言には十分な根拠と成算があると思う。
(10)株価が大幅下落した最大の要因は需給関係の悪化である。第1に、大和証券が取得した4億株のうち1億株を市場で売却した。第2に、ヘッジファンドが4,500万株を借り株によって売り浴びせた。しかし借り株は買い戻さなくてはならないから将来の現物買いとなる。
(11)東芝も日立もソニーもパナソニックも、外国人投資家が売りから買いに転換して株価のトレンドが逆転した。私は、三洋電機に対しても外国人投資家が買い転換する時期が近いと思う。私は、株式投資は過去ではなく未来への投資だと思う。

(三)日本ケミカル。大型新薬のインパクト。

(1)私は先週、日本ケミカルが開発した大型新薬「ヒトエリスポエチン(以下本製品)」の有望性を報じた。
(2)直後に好調な10〜12月期と今3月期通期の増額修正を発表し、株価は昨年来高値を更新した。しかし人気の背景は本製品の将来性にある。
(3)本製品の競争力、効能等については先週のクラブ9を参照されたい。最大の注目点は国内1,000億円、海外1兆円という市場のスケールである。
(4)国内市場は現在、中外製薬のエポジン(614億円)とキリンビールのネスポー(437億円)が2分しているが、海外でも両社の提携先であるロッシュとアムジェンが市場を2分している。
(5)本製品は国内では共同開発のキッセイ薬品が、海外では英グラクソ・スミスクラインが販売する。日本ケミカルはキッセイに製品を、グラクソにバルクを供給する。
(6)キリンは共同で開発したアムジェンに海外市場を支配されたが、日本ケミカルは世界第2位の製薬大手であるグラクソとバルク輸出の契約を締結し、海外市場の権益を確保している。
(7)海外市場の販売権を持たない中外とキリンに比べて、日本ケミカルは海外の1兆円市場で商圏を急拡大する可能性がある。グラクソの販売力に注目したい。