2010/2/1

  2010年2月1日(月)

(一)日本ケミカルリサーチの大材料。

(1)昨年12月18日に英国製薬大手グラクソ・スミスクライン(以下GSK)が医薬品の生産、開発、販売に関して日本ケミカルリサーチ(以下JCR)と包括的契約を締結し、株式350万株(12.6%)を1株800円で取得した。
(2)売上高2.8兆円、世界第2位の巨大製薬会社が売上高わずか130億円のJCRの大株主に浮上したばかりか包括的契約を締結したのは、JCRが開発した腎性貧血治療薬「ヒトエリスロポエチン(以下本製品)」の販売権を取得するためである。JCRはGSKから契約金、マイルストン収入、ロイヤリティーを取得する。
(3)本製品は遺伝子組み換えのバイオ技術を用いて完全無血清培地を作成し、工業的に製剤する医薬品である。牛の血清を使わないから血清を除去する行程が不要で、安全でコストが安い。
(4)本製品は「透析施行中の腎性貧血」、「未熟児貧血」等に効能、効果がある。腎性貧血は慢性透析患者の合併症で、国内の透析患者数は28万人。毎年1万人が増加している。
(5)最大の注目点は国内1,000億円、海外1兆円の巨大市場にある。国内は中外製薬とキリンビールの寡占市場で、前期には中外製薬のエポジンが614億円、キリンのエスポーとネスポーが437億円の売上高を計上している。
(6)本製品は1月20日付けで厚労省から製造認可が下りた。生産体制はすでに整っており、4月の薬価収載を待って発売する。海外へはバルクで輸出し、GSKが現地で製剤化する。
(7)本製品はJCRと、JCRの筆頭大株主であるキッセイ薬品との共同開発で、JCRが生産を、キッセイ薬品が販売を担当する。
(8)薬価は未定であるが、一般に後発薬品は30%安となる。そうなれば、本製品は品質、安全性、価格のすべてで強い競争力が見込まれるだけに、売上高が100億円単位で激増する可能性がある。
(9)しかし世界第2位のGSKが販売権を取得した海外市場のインパクトは桁違いに大きい。世界の製薬業界は今、主力薬品の特許期限切れが集中する2010年問題に直面している。GSKは1兆円市場に参入して1,000億円単位で市場を獲得する可能性がある。
(10)年間売上高130億円のJCRにとって国内1,000億円、海外1兆円の市場規模はあまりにも巨大である。しかし特に海外市場を担当するのは年間売上高2.8兆円、世界第2位のGSKである。
(11)JCR自身は本製品の売上高を織り込んだ来期以降の業績予想をまだ開示していないが、私は今年の4月以降に日本の上場企業がこれまでに経験したことがないほど長足の飛躍を実現すると思う。

(二)オバマ大統領の誤算。

(1)オバマ大統領の医療改革案が共和党の抵抗を受けて挫折し、国民の支持率が急降下した。
(2)日本から見れば、国民皆保険は大多数の国民の支持を受けると見えたが、アメリカ自身の選択は違った。アメリカには規制強化ではなく規制撤廃の歴史的な地下水脈がある。
(3)アメリカの民主主義、自由主義、資本主義はアメリカ人が規制撤廃を積み重ねてかち取った果実である。規制撤廃と小さな政府は一つの政策の表裏である。特に共和党は常に規制に反対し、小さな政府を最大の政策目標としてきた。
(4)オバマ大統領は医療改革を主張したが、議会と国民が規制強化と大きな政府を拒否したのである。
(5)大統領は支持率の挽回を狙って今度は金融改革を提起した。しかし即座にニューヨークダウが暴落し、世界中の株価が連鎖して暴落した。
(6)株価の暴落を放置すれば住宅価格の下落を誘発する。アメリカ人の財産である株式と住宅が下落すれば必ず消費が落ちて、景気が悪化し、失業者が増える。
(7)オバマ大統領が主張する「チェンジ」と国民が期待する「変革」との間には微妙な、しかし重要なずれが生じている。

(三)続・オバマ大統領の誤算。

(1)第二次世界大戦で、物資の不足に直面した日本の軍事政権は先ず米を統制し、配給制を敷いた。しかし一つの統制は限りない統制の連鎖を必要とする。たちまちのうちに物資は消えて、地下の闇市場に流れた。
(2)20世紀に平等を目指して社会主義国が続々と生まれたが、経済を統制した結果、例外なく階級社会を生み、反革命によって崩壊した。北朝鮮が統制経済の末路を明快に示している。統制論や規制論は論理の魅力と正当性にもかかわらず、歴史をみれば経済的な破綻を招いた。
(3)日本が統制経済から開放されたのは敗戦後、占領軍によってであった。民主主義も自由主義も資本主義も占領軍から与えられて、自力で勝ち取った思想ではないからアメリカ人の統制に対する拒絶反応の強さが理解できない。
(4)オバマ大統領は「改革」を訴えて大統領に就任した。オバマが大統領に当選したのはアメリカに規制や差別が少なく、「誰でも大統領になれる」、「誰でも金持ちになれる」自由と平等があったからである。
(5)しかしアメリカでは、かねてから大手銀行の高額ボーナスに対して議会とマスコミが一致して批判していた。人気低迷に悩むオバマ大統領は銀行と証券の垣根を築いたグラス・スティーガル法の復活論と大手銀行に対する高額ボーナス批判を結びつけて、金融改革案を提案し、人気挽回を図ったのである。
(6)フランスのサルコジ大統領が賛成し、米国内でも規制復活論が勢いを増した。

(四)続々・オバマ大統領の誤算。

(1)私は規制復活論が簡単に議会を通るとも国民の支持を集めるとも思わない。
(2)1986年に英国のサッチャー首相がビッグバンを断行し、ロンドンのシティが一躍世界の金融センターに浮上し、日本を含む世界中が争って追随した。米国でもクリントン大統領がグラス・スティーガル法を廃止して、ニューヨークのウォール街は奇跡的な発展を遂げた。
(3)中国やブラジルなどの新興国が急成長しえたのはマネーが国境を越えて必要な資金を必要なだけ供給したからである。規制から解放された金融市場は世界の経済と金融の垣根を破壊し、革命的な市場拡大を実現した。
(4)もちろん副作用も大きかった。一昨年のリーマンショックに始まる金融市場の大混乱は世界恐慌のリスクをはらんでいた。
(5)世界の政府と中央銀行は結束して危機をしのいだが、あまりの金融市場の急拡大に歯止めをかける必要性を主張する保守派が台頭した。
(6)規制論には老齢のボルカーを始め保守派の学者が結集している。もちろん現場の金融市場では規制に対する拒絶反応が圧倒的に強い。
(7)しかし巨大化した金融市場を規制によって分割することは技術的にも困難で、副作用が大きすぎる。最終的には、米国の議会と国民は規制を拒否するだろう。かりに可決されたとしても、法案は骨抜きとなっているだろう。
(8)米国の議会と国民は規制排除を積み重ねて民主主義、自由主義、資本主義の発展を勝ち取った歴史を誇りとしている。私は医療改革を拒否した市民感覚は生半可なものではないと思う。