2008/12/8

  2008年12月8日(月)
  I  三洋電機買収の着地点を探る。
  II  富山化学(富士フイルム)の T-705 直近情報。

 I  三洋電機買収の着地点を探る。
(一)ゴールドマン・サックスの立場。

(1)パナソニックは買収株価を120円から130円に引き上げたが、ゴールドマン・サックス(以下GS)は即座に拒否した。
(2)GSが拒否した理由は私が12月1日付クラブ9で述べた予想と同じである。すなわち、1. 株式市場の実勢株価を下回る条件は受け入れられない。2. 実勢に基づくTOB株価とは、過去3ヶ月又は6ヶ月の平均株価に30%のプレミアムを上乗せした株価である。3. GSの試算ではTOB株価は240円以上となる。
(3)TOB関連業務はGSの本業である。GSがもし130円案を受け入れた場合、GS自身の株主から「得べかりし利益を失った」責任を問われかねない。
(4)GSは「今回の交渉手続きと買収条件がすべての株主にとって公平だとは思えない」と述べている。正論である。
(5)日経は、「優先株を保有する3社は相互に他の2社の持ち株を優先的に買い取る権利がある」と報じている。GSがこの権利を盾に三井住友銀行と大和証券に130円を上回る株価で肩代わりすると主張すれば、2社は拒否できない。
(6)パナソニックがGSを説得するには何らかの譲歩が必要だろう。

(二)パナソニックと三井住友銀行の立場。

(1)三洋電機は電池と太陽光発電に経営資源を集中している。しかし収益力、資金力に限界がある。
(2)パナソニックもプラズマテレビの次の主力部門として電池に注力している。
(3)住友銀行は三洋電機に社長を送り込んで再建に注力したが、難航している。そのためにパナソニックに三洋電機の買収を提案したと思われる。
(4)その際、三井住友銀行は 1.自社と大和証券の保有株を譲渡する。2.パナソニックが提示する株価を受け入れる。と約束したのではないか。
(5)しかし株式市場はパナソニックのTOB宣言を歓迎し、三洋電機はストップ高を交えて240円に急騰した。時価を基準にしたGSの要求を受け入れると買収金額は1兆円を超える。これではリスクが大きすぎる。
(6)パナソニックが2度目に提示した130円は、経営の立場から見ればぎりぎりの株価である。
(7)大和証券は住友グループの一員としてパナソニックに協力したいが、TOBのプロとして実勢株価を無視するわけにはいかない。

(三)合意点は155〜170円か。

(1)パナソニックはTOBをキャンセルして三井住友銀行と大和証券が保有する優先株を相対取引で取得し、三洋電機を連結子会社にするという選択肢がある。
(2)しかしパナソニックは経営戦略として三洋電機の買収を決定した限り、TOBによる完全買収を目指すだろう。
(3)そこで、パナソニックは130円にGSが主張するプレミアム20〜30%を加えて、155〜170円を目途に合意点を探るのではないか。
(4)世界中の株価が大暴落した現在では、GSといえども非現実的な高値にこだわるよりも、早期売却を目指す方が得策だろう。優先株のコストは70円だから十二分に採算が合う。
(5)三洋電機の株価はパナソニックとGSの攻防に一喜一憂しながら、次第に株価水準が絞られてきている。

(四)三洋電機の企業価値。

(1)太陽光発電とバッテリーは地球温暖化の防止、クリーンエネルギーの開発を目指す人類共通の希望である。
(2)三洋電機はこの分野に経営資源を特化した。しかし収益力と資金力から、自力で大型の投資を継続することが困難である。
(3)パナソニックが三洋電機を買収して経営力と資金力を投入すれば展開力が飛躍的に加速する。三洋電機の企業価値はパナソニック傘下入りで大幅に向上するだろう。
(4)株主はTOBに応じた資金をパナソニックに再投資できる。

 II  富山化学(富士フイルム) T-705 の直近情報。

(1)NHKの「インフルエンザ徹底対策 --- 第3回・ウイルスを制する治療薬」で、国立病院機構・永井部長が富山化学 T-705 に関して次のように述べた。1. 現在はインフルエンザの主たる処方薬としてタミフルが用いられているが、48時間以内に服用しなければ効果がない。耐性菌が出て来た。2. これに対して「開発中の新薬」(T-705)はウイルスの遺伝子の複製を阻害するから耐性菌が出ない。3. 新型鳥インフルエンザを含むすべてのインフルエンザに有効である。
(2)T-705 の臨床試験を担当している富山大学の白木教授は小児感染症学会で次のように述べた。1. 遺伝子の複製を阻止するから理論上ウイルスの耐性ができない。2. 薬効が広範囲で、新型鳥インフルエンザはもちろんその他のRNAウイルス(B型肝炎、C型肝炎等)にも効果がある。
(3)7日の朝日テレビ「新型インフルエンザ最前線スペシャル」によれば、1. 11月5日の海外特派員協会の会合で富山化学の「夢の新薬 T-705 の驚異的なパワー」が報告された。2. 早期服用でなくても完治が可能である。3. 米国ではH5N1型鳥インフルエンザにも有効と報告されている。
(4)T-705 は人類待望の新薬だけに認可を待望する声が強い。臨床試験の進捗状況に関する富士フイルム自身の情報開示に注目したい。