2006/7/18

  2006年7月18日(火)
  ニューエコノミーとオールドエコノミー。

(一)厳格化した減損会計。

(1)中央青山監査法人がカネボウの粉飾決算に荷担した責任を問われて6ヶ月におよぶ営業停止処分を受けた。多数の企業が顧問契約を解除し、中央青山は存廃の危機に追い込まれている。
(2)これを受けて、公認会計士が一斉に会計監査を厳格化し、特に新興市場の中には来年3月決算で利益の減額修正を余儀なくされる企業が出る可能性がある。新興市場の株価が大幅安を演じ、下げ止まらないのはそのためだという噂がある。
(3)竹中氏が金融担当大臣に就任した時にも、多数の銀行と企業が不良債権、不良債務の認定を受けて倒産に追い込まれた。担保不動産の査定を極端に厳格化した結果不良債権が激増してUFJ銀行が東京三菱に救済合併を求めた事件も起こった。竹中大臣から金融庁顧問に迎えられた木村剛は借金の多い巨大企業30社を名指しでつぶせと主張したから、不動産と株式は売り一色となり、日経ダウは恐怖の7,000円にたたき落とされた。
(4)その後金融庁は2,000人の検査官を増員し、彼らの追求を受けた損保業界では長期間の営業停止が続出し、ライブドア事件の余波もあって、検査の厳格化が監査法人に及んでいるという。
(5)もっとも竹中時代に不動産の減損処理があまりにも行き過ぎた結果、不動産相場の急反騰を受けて銀行の不良債権が続々と優良債権に復し、前3月決算で銀行は巨額の貸倒準備金を営業外利益に計上し、空前の増益決算を実現した。
(6)動には必ず反動がある。しかしとりあえずは、今期末に減損処理で予想外の赤字を計上する企業が出る可能性があることを念頭に置く必要がある。
(7)次項で、予想される主要な減損会計を具体的に述べたい。ただし金融庁の指針は不明だから、あくまでも私の推測である。

(二)減損会計の注目点。

(1)第1に、投資組合は連結決算の対称となる。ライブドアは投資組合を用いて株価操作を行い、その売買益を期間利益に計上していた。商法にも不備があったから、今回ルールを明確にしたのである。私はかねてからクラブ9でライブドアと似た行為を行っている上場企業がほかにもあると指摘している。
(2)第2に、企業買収に際して、これまでは買収金額をそのまま資産に計上してきたが、今後は買収した企業の資産を洗い直し、買収金額との差額を赤字として処理する必要が生じる。そうなると買収が当期利益を圧迫する場合があり、単純に買収は買いだと言えなくなる。
(3)第3に、ベンチャー企業に投資して上場にこぎ着ければ大きな売買益と含み益を取得するが、同時に上場が見込めなくなった投資先企業は減損処理を迫られる。ちなみにNIFは上場以来4期にわたって累計114億円の損失引当金を自主的に赤字計上し、三井住友銀行の資本参加を受けて社名をNIF-SMBCに変更した。今後、ベンチャー企業に出資している企業はNIFに準じた会計処理を行う必要が生じる。
(4)このような減損会計がどこまで厳格に実行されるかは不明であるが、企業買収や投資組合やベンチャーキャピタルについては、光と影の両面に目を向けておく必要があるだろう。

(三)オールドエコノミーの復活とニューエコノミーの低迷。

(1)ニューエコノミーは一般に無借金だから、投資用以外に株式や不動産を持つ必要がない。当然含み益もない。
(2)これに対してオールドエコノミーは借金があるから、担保のために不動産や銀行株を持つ。そこで含み益が蓄積される。
(3)メーンバンク制度は日本だけで発達した金融システムである。日本のオールドエコノミーは主力銀行に金融を依存して発展したから、信用の裏付けとして不動産や銀行株を保有した。借金の利息は当期利益を圧迫したが、含み益が蓄積されて、不況抵抗力がついた。
(4)村上ファンドはその含み益を狙って株式を買い占め、高値で買い取らせるビジネスを本業としていたから、含み益のないニューエコノミーには目もくれなかった。
(5)1990年にバブルが崩壊するまで、日本の銀行は日本独自の土地本位制度によって超高度成長時代の金融をまかない、世界ランキングの上位を独占するに至った。
(6)これに危機感を持った欧米のユダヤ資本はBIS規制を設けて、貸出枠を担保不動産ではなく、自己資本の8倍以内に限定する規制を設けたのである。
(7)竹中大臣は全面的にユダヤ資本の論理に同調し、不動産担保の伝統的金融システムを破壊した。バブルが大崩壊し、不動産は10分の1に、株式は5分の1に大暴落した。
(8)しかし今や資産デフレの嵐が過ぎた。国際商品相場が暴騰し、資産インフレが復活するとオールドエコノミーが不死鳥のようによみがえった。
(9)新興企業、インターネット関連企業の株価低迷を尻目に、銀行、鉄鋼、石油、非鉄、不動産、化学、繊維、総合商社等、オールドエコノミーの株価は過去3年間に軒並み5〜10倍に暴騰した。
(10)私はこのような大逆転現象がこれからも続くと思う。

(四)物価と金利と業績。

(1)前回のチャートをごらん願いたい。
(2)私は20世紀は株式主導の時代であったが、21世紀は低開発国の一斉蜂起で商品主導の時代になると思う。
(3)商品相場の高騰は消費者物価や資産のインフレを誘発し、金利上昇を刺激する。
(4)それゆえアメリカでは石油相場の上昇を株価のマイナス要因と見る意見が多い。
(5)しかしアメリカ自身は石油の国家備蓄を増やし、アラスカやテキサスの埋蔵石油を温存しながら、石油メジャーは1兆円単位の巨大な利益を計上している。
(6)アメリカ自身が資源大国であるばかりか、アメリカ企業は多くの国際商品の生産と流通を支配している。商品相場の高騰が農産物や畜産物などに広がれば、アメリカの競争力はさらに強くなる。
(7)日本でも自動車産業はオイルショックが起こる度に省エネ技術をテコに世界シェアを拡大し、史上最大の利益を連続して更新している。輸出を牽引するもう一つの柱である家電やカメラは付加価値が高く、商品相場高騰の打撃が軽微で、世界市場で覇権を確立しつつある。商品相場の高騰に直面した市況産業は、減益どころか大幅増益を競っている。
(8)物価と金利が上がっても業績は好調を維持するだろう。それならばなぜ株価が低迷しているのだろうか。

(五)アメリカの中間選挙に注目。

(1)需給関係では買い材料が見あたらない。現在は総弱気の局面である。しかし相場は常に総弱気のうちに底値圏に達する。
(2)予想される最大の強気の要因はアメリカの中間選挙だろう。11月の中間選挙でアメリカは上院3分の1、下院全員が改選となる。
(3)ブッシュ政権が何もせずに選挙戦を迎えるとは考えられない。
(4)すでにゴールドマンサックスの会長を財務長官にスカウトした。当然景気と株価に配慮した政策を打ち出すだろう。
(5)折しもアメリカの株価は歴史的な安値圏にある。SP500の過去20年間の平均PERは19倍であるが、今年の1〜3月には15.5倍に落ち込んだ。
(6)ちなみにアメリカでは金利上昇が懸念されているが、過去20年間の10年国債の平均利回りは6.2%で、まだ平均値にさえ届いていない。
(7)このような指標を見れば、大幅高へ、一触即発の条件が熟しつつある、と見える。