2005/10/3

  2005年10月3日(月)
    企業買収の理論と実践。
   グリーンメーラーからハゲタカまで。

(一)阪神電鉄に食らいついた村上ファンド。

(1)私は熱心な阪神ファンである。
(2)その阪神が村上ファンドに買い占められた。
(3)村上ファンドはグリーンメーラーである。グリーンメーラーは会社を買収するよりも、買い集めた株式を高値で買い取らせることが主たる目的である。
(4)ドル紙幣はすべて緑色だから、札束を用いて恐喝する者をグリーンメーラーと呼ぶ。
(5)誘拐等による恐喝をブラックメール(黒い郵便)と呼ぶのに対して、株式を買い占めて企業を恐喝することをグリーンメール(緑色の郵便)と呼び、企業恐喝を職業とする者をグリーンメーラー(緑色の郵便配達人)と呼ぶ。
(6)ブラックメーラーは犯罪者だから即座に逮捕されるが、グリーンメーラーは法律上の犯罪を巧妙に回避するから、逮捕されない。
(7)村上ファンドはこれまでに東京スタイル、フジテレビ、大阪証券取引所など、多数の企業の株式を買い占めて、企業が営々として築き上げた資産を全部、即座に株主に分配せよ、などと無理難題をふっかけて、高値で会社に買い取らせることに成功した実績がある。
(8)社長が大株主のオーナー企業であれば、自分の持ち株を高値で買い取らせるという駆け引きや逆襲が可能であるが、社長が株式を持たないサラリーマン企業の場合は、例えばフジテレビの日枝会長のように、地位を守るためにグリーンメールに屈服する場合が多い。
(9)そもそもオーナー社長は株価によって自分の財産が大幅に変動するから、いやでも平素から株価に関心を持つが、サラリーマン社長は株を持たないから、株価に関心がない。株価を割安に放置した欠陥をある日突然グリーンメーラーに突かれるのである。

(二)阪神電鉄に送られるグリーンメールに注目。

(1)それにしても26%に上る大量の株式を買い集められるまで、気がつかなかった阪神の経営者はどうかしている。
(2)5%以上の大株主は持ち株の増減を逐一開示する義務がある。それゆえ阪神は大株主の移動状況をもっと早く知りえたはずである。
(3)もし阪神が知り得なかったとすれば、転換社債を買い集めて一挙に株式に転換したか、信用取引で買い集めておいて一挙に現引きしたか、のいずれかであろう。
(4)後者であるとすれば、村上ファンドは再度信用取引の建て玉を現引きして30%以上の持ち株を表面化させる可能性がある。
(5)いずれにせよ村上ファンドは阪神電鉄の時価総額3,000億円のうち800億円を買い占めて圧倒的な発言権を確保した。
(6)勝負は始まったばかりである。これから阪神電鉄に送りつけるグリーンメールによって株価は大きな波乱を描くだろう。

(三)住友金属鉱山(別子)は大丈夫か。

(1)私は別子こそ本格買収の標的となる可能性が最も高いと思う。保有する資産に対して、株式の時価総額があまりにも小さいからである。
(2)買収者がグリーンメーラーの場合は株価次第で会社側の買い戻しに応じるが、ハゲタカファンドの場合は完全に買収し、資産を切り刻んで売り飛ばす。
(3)別子は05年3月末の保有鉱山の含み益3兆円に対して、株式の時価総額は7000億円に満たない。
(4)その含み益は04年3月期に2兆円であったから、1年で1兆円も増えた。今期に入ってからも、主力の金、銅、ニッケルがそろって高値を更新しているから、含み益は今期も1兆円幅で増加する可能性が高い。直近の含み資産を4兆円とすれば、1兆円で買収しても4倍の資産が手にはいる。
(5)石油資源を持たない日本で、別子は唯一の資源株である。別子が買収されれば、世界一の菱刈金鉱山も、海外の鉱山群も外国資本の支配下に入る。
(6)住友金属鉱山は四国の別子銅山がルーツだから現在も別子と呼ばれ、住友財閥の総本家としてグループ各社の株式を大量に保有している。
(7)期間利益や株価収益率などの投資尺度は企業価値のほんの一部に過ぎない。乗っ取りをビジネスとするハゲタカの目標は含み資産だから、別子以外の非鉄株や石油株には目もくれないだろう。
(8)私はこれまでに再三別子は買収に対してあまりにも無防備だと述べてきた。しかし別子は依然として情報開示に消極的で、株価は万年割安である。決算予想や資産内容を積極的に開示し、安定株主を充実して、株価を実態価値にふさわしい水準に保たなければ、早晩ハゲタカの餌食となるだろう。
(9)買収時代の経営者はハゲタカの手から企業を守る責任がある。株価に無関心を装うことが王者の風格と見えた時代はとっくに終わった。時代の変化に鈍感な経営者は時代の変化に報復されるだろう。

(四)西武鉄道と阪急HD。

(1)阪神電鉄の時価総額3,000億円に対して、阪急HDの時価総額は5,000億円に過ぎない。沿線の距離や保有資産にはけた違いの大差があり、阪急HDの割安は歴然としている。
(2)さらに阪急電鉄はゴルフ場などの評価損を処理するために、優良資産を大量保有する阪急不動産を合併した。
(3)もし阪急不動産が阪急電鉄と合併していなければ、他の不動産会社と同様に株価は今年に入って暴騰していただろう。阪急HDの株価は阪急電鉄と阪急不動産が保有する資産価値を全く反映していない。
(4)阪急HDがいかに過小評価されているかは、西武鉄道に対する買収提案が明快に証明している。西武鉄道は株主名簿の不実記載で上場廃止となり、株価は200円に暴落した後、400円前後で取引を終了した。しかし上場廃止の直後に村上ファンドが1株1,000円で買収を申し入れると、すかさずゴールドマンサックスが1,500円の買収価格を提示した。
(5)彼らは西武鉄道グループの財産を評価して、株式市場の3〜4倍の買収株価を提示した。企業買収は巨額の金銭を賭けた真剣勝負である。万全の資金量を準備し、全面的にリスクを取って望んでいる。
(6)もし村上ファンドが阪神電鉄に対するグリーンメールで成功すれば、或いはもしゴールドマンサックスが西武鉄道の買収に成功すれば、日本の電鉄株の株価に革命が起こるだろう。中でも阪急の割安が鮮明である。
(7)電鉄株の株価革命はすでに始まったと考えるべきだろう。
(8)アメリカの企業は自己資本のみで経営するから借金はないが含み資産もない。これに対して日本の、特にオールドエコノミーの企業は借金があるが、借金をはるかに上回る資産がある。ここへ来てオールドエコノミーの株価が暴騰したのは企業買収の時代が到来し、投資家の価値観が激変したからである。
(9)阪急HDには1兆円の借金があるが、その巨大な資産を時価で評価すれば、西武鉄道と同様に株価の居所がまるで違って来ると私は思う。

(五)相場観、銘柄観。

(1)私は先週、新興市場の再評価が始まったと感じた。
(2)これまでは資金と人気が大商い銘柄に吸い寄せられて小型株が暴落していたが、外国人の日本買いは次第に総論から各論に広がるだろう。
(3)銘柄については前々回(9月20日付)を参照されたい。