2012/4/16

  2012年4月16日(月)
  独裁権力の台頭と蹉跌(さてつ)。

(一)小泉元首相の栄光と蹉跌。

(1)小泉元首相は2005年に郵政民営化の是非を掲げて解散・総選挙を断行し、大勝を博した。この時、小泉首相は政敵に刺客を送って徹底的に追い詰めた。そこまでやるところに独裁者共通の性癖がある。
(2)しかし先週、郵政民営化見直し法案が衆議院を通過した。
(3)小泉改革を熱狂的に支持した自民党議員が手のひらを返して賛成し、節を守って反対した議員は4人に過ぎなかった。
(4)小泉首相はわずか数年で消滅してしまう程度の政策で国論を二分し、権力をふるって政敵を葬ったのだから、独裁者と言うべきだろう。
(5)小泉首相の側近として絶大な権力をふるった竹中平蔵もまた金融担当大臣に大抜擢されるや、側近の木村剛を用いて借金が多い企業30社をリストアップし、借金が多いという理由だけでダイエーなどの巨大企業を倒産に追い込んだ。竹中氏は小泉元首相以上に狂気の独裁者であった。
(6)竹中氏の金融引き締めを受けて日本の株価と地価が大暴落し、大暴落した株式と不動産をユダヤ資本が一手に買い向かったばかりか、巨額の利益をタックスヘイブンのケイマンに隠したから、私は「竹中平蔵はユダヤ資本の手先か」と批判のキャンペーンを張った。
(7)このとき、竹中大臣は側近の木村剛に恩賞として日本振興銀行の設立を認可したが、木村剛は赤字と内紛にまみれてあっという間に倒産した。
(8)独裁権力者は側近を重用し、側近は権力をカサに着て巨大企業を恐喝し、自らも自滅したのである。

(二)北朝鮮の金王朝、権力世襲の誤算。

(1)北朝鮮は3代にわたる金王朝の世襲を完了し、これを祝賀するための国家イベントとして弾道ミサイルのうち上げを発表した。
(2)しかし打ち上げは失敗に終わり、恥を天下にさらしたばかりか、予定していたビジネスチャンスが泡と消えた。
(3)第1に、米国から食糧支援を取得する機会を失った。第2に、弾道ミサイルのイラン向け輸出商談が不発となった。第3に、食料が調達できなければ国民の不満が爆発する可能性がある。
(4)しかし北朝鮮の最大のリスクは情報化社会の急進展だろう。今やテレビ、ラジオ、ケータイ、iPadなどの情報機器がはんらんし、ツイッターを介して情報が瞬時に拡散する時代となった。国民を鉄の規制で縛り続けることは困難だろう。
(5)金王朝の崩壊は意外に早いかも知れない。

(三)老醜をさらした石原都知事。

(1)石原東京都知事が「新党結成なんてマスコミの作り話で、私には初めからそんなつもりは毛頭なかった」と新党結成放棄を宣言した。
(2)新党結成をちらつかせて橋下大阪市長に接近し、秋波を送っていたのは石原都知事自身である。あの手この手で同志を募ったあげく20人にも満たなかったのは当然で、今どき80歳の老人の下に若者が結集するとは思えない。
(3)自民党の石原幹事長は自民党を浸食しようとした父親をなぜ制止しなかったのだろう。石原都知事と距離を置いた橋下維新と比べれば、政治家としての見識に天地の差がある。
(4)「太陽の季節」で反社会、反権力の旗手として颯爽とデビューした石原慎太郎は、都知事の長期政権で独善に陥り、老醜をさらした。

(四)橋下大阪市長は革命家か独裁者か。

(1)橋下大阪市長は維新八策を掲げて政界にデビューした。
(2)一直線の政治改革論、官僚改革論はマスコミと国民の圧倒的な人気を集め、多数の支持者が維新の旗印に結集した。
(3)しかし総論は華々しいが、各論に入ると独裁的手法がちらつき始めた。大阪市議会で維新派議員が組合の政治的偏向を厳しく追求したが、前回選挙で組合が前市長に荷担した証拠として提出した告発文書が、維新内部者によるねつ造であったという驚くべき事実が発覚した。
(4)しかし橋下市長は謝罪するどころか、弁護士に組合の不正を調査させた。調査結果は枝葉末節ばかりで、収賄や贈賄のような法律違反は見つからなかった。
(5)自由な選挙で自由に候補者を選ぶことはすべての日本国民に与えられた基本的権利である。例えば民主党は総評や日教組を基盤とする政党で、前回の総選挙では日教組が組織を総動員して興石幹事長を支援した。
(6)まして大阪市の組合は選挙で完敗したのである。敗者に追い打ちをかける執拗さは無用であるばかりか、印象が暗い。橋下維新は過去にこだわらず、前へ前へと進むべきではないか。

(五)原発を廃止すれば大阪の製造業は壊滅する。

(1)原発廃止はすべての日本人の願いである。しかし橋下市長の主張通り原発を即時全面廃止すれば、80%を原発に依存している関西電力の電気料金は暴騰し、大阪の製造業は壊滅する。
(2)代替エネルギーの開発には時間が必要であるばかりか、現にドイツとアメリカで太陽光発電のトップ企業が相次いで倒産した。電力会社は特定企業から割高な電力を買って,その付けを産業界や家庭に回すわけにいかなかったのである。
(3)ちなみに脱原発を政策目標に掲げているドイツの原発依存度は現在も23.5%で、ようやく日本の24.1%と並んだところである。「即時、全面停止」を主張するのは簡単であるが実行は一筋縄ではいかない。
(4)中国は国際競争力を強化するために20基の原発増設を目指している。新興国も例外なく原発投資を推進している。橋下維新が原発の即時停止、停止原発の再稼働反対を主張するからには、日本企業の国際競争力と市民の生活をどう守るかという筋道を示す責任がある。

(六)堺屋太一氏が大阪府副知事を痛烈批判。

(1)大阪府の副知事がプロジェクトチームを編成して練りに練った「大阪駅前を緑に変える」大構想を発表した。
(2)その発表会の席で堺屋太一氏が「哲学がない」「絵に描いた餅だ」と真っ向から批判し、「あなたは古い」と反論する副知事との間で大激論となった。
(3)堺屋氏は橋下維新に理論的支柱を与えた生みの親である。通産官僚時代には大阪の万国博覧会を組織して異例の黒字を計上し、実戦に強い政策通としての評価と実績を残した。その堺屋氏の副知事批判は、橋下維新の経済的合理性を欠いた政策に対する懸念の表明ではないかと私は感じた。
(4)橋下維新は「経済政策」を具体化するに際して堺屋太一氏の助言を受ける必要があるのではないだろうか。

(七)「好漢惜しむべし」。

(1)私は橋下維新の鮮烈なデビューを大歓迎した。しかし経済政策が具体化するにつれてポピュリズムの政治家に特有の「光と影」が見え始めた。ポピュリズムは大衆迎合の政治手法で、人気取り政策を掲げて支持を集めるが、一旦政権を奪取するや独裁権力をふるって政敵を抹殺する。
(2)それでもなお日本はいま橋下維新の政治改革を必要としている。政治改革には政敵をなぎ倒すエネルギーが必要である。そして橋下維新はすでに大阪都構想の実現を視野に入れた。国政進出は秒読みとなった。
(3)「好漢惜しむべし」である。ここからは大衆迎合のポピュリズムを乗り越えて経済的合理性に裏打ちされた政策を展開してほしい。
(4)その時、橋下維新は保守と革新を問わず、都市と地方を問わず、老若男女を問わず、支持基盤を日本国中に広げるだろう。