2011/11/21

  2011年11月21日(月)
  オリンパス問題は氷山の一角。

(一)80年代は狂気の時代。

(1)私は1981年から88年まで和光証券(現みずほ証券)常務として大阪支店で法人、引受部門を担当していた。当時はバブルの最盛期で、企業は増資によって欲しいままに自己資本を調達し、余剰資金を持ち合いや資金運用に投入していた。
(2)資金運用の破たんを警戒していた私は、退任を決意したとき、担当者を連れずに1人で取引先を回り、トラブルがないことを自分の目で確認した。
(3)私は1990年に評論家に転身し、「『円』世界制覇の秘密(講談社)」を出版した。
(4)同書で私は「日本証券業協会会長、野村證券会長、田淵節也氏への期待」という見出しで、田淵会長は史上最大の利益3,000億円を計上した今こそ、残業を全廃するべきだと訴えた。
(5)証券界は繁栄を謳歌していたが、中でも頂点を極めた野村證券の経営者は「セブンイレブン(午前7時から午後11時まで)」と呼ばれる連日の過酷な肉体労働を自慢したばかりか、「考える役割は野村総研が果たす。営業社員は手数料収入のみを競え」と叱咤激励していた。
(6)それゆえ私は「世界中で最も知的な仕事である証券業務を野村證券は肉体労働に変えてしまった」と批判し、「野村證券が今にして投資家不在の利益至上主義を改めなければ、日本の証券市場に禍根を残す」と訴えたのである。
(7)果たして株価の暴落が始まり、時価会計が導入されるに及んで多数の上場企業で赤字が表面化した。証券界では山一証券が破たんし、その他の大手証券でも多数の法人担当役員や法人部長が引責辞任した。
(8)バブル時代の狂気のような資金運用競争を渦中で体験した私の目から見れば、オリンパス問題は氷山の一角に過ぎない。
(9)そもそも資金運用で発生した赤字をタックスヘイブンに隠し、隠した赤字を企業買収を装って償却するなどという発想はオリンパスにあるはずがない。野村證券と野村證券の元担当者の指南に従ったに過ぎないだろう。
(10)金融庁と東証と第三者委員会は、主役を演じた野村證券の責任を裁かなければ片手落ちとなるばかりか、事件の真相が解明できないだろう。

(二)暴落した株価と不動の実態価値。

(1)東京電力では1兆円の株主代表訴訟が起こされたが、訴訟の対象は東京電力ではなく、東京電力の歴代経営者と監査法人である。オリンパスも同様だろう。
(2)まして株主にはいかなる責任もない。海外の投資家団体がオリンパスの上場維持要望書を提出したのは当然で、オリンパスは上場を維持するだろう。
(3)オリンパスの株価は暴落したが、オリンパスの主力製品である内視鏡の受注高と売上高は減らない。ユーザーである医師と病院がオリンパスの内視鏡に絶対的な信頼を寄せているからである。
(4)例えばこれまで日本の電機を代表してきたソニーとパナソニックは韓国サムスンとの競争に敗退して大幅な赤字に転落し、時価総額が大逆転した。自動車、鉄鋼、造船でも逆転現象が進行しているが、世界市場の70%を占めるオリンパスの世界一の座は全く揺るいでいない。驚異的な技術力、競争力である。
(5)実態価値が損なわれていないにもかかわらずオリンパスの時価総額は6,000億円から2,000億円以下に大暴落した。
(6)当然、世界中の優良企業が水面下で買収の条件とタイミングを探っているだろう。

(三)軽薄なロイターとNYタイムズ。

(1)先週末にロイターが「ニューヨークタイムズの記事」として「日本の捜査当局は『オリンパスから3,750億が犯罪組織に流れたと見ている』」と報じたのを受けて、株価が急落した。
(2)私は金額、内容ともに常識で考えられない情報だと直感したが、驚くべきことにニューヨークタイムズ紙とロイター通信は共に情報源に確認した形跡がなかった。両紙が「情報源」と名指しした「捜査当局」は現在までいかなる公式発表をも行っていない。国内の各紙も無視している。
(3)ニューヨークタイムズは世界屈指のクオリティー紙であり、ロイター通信は世界1の通信会社である。両社の報道がもしガセネタであったとすれば、ガセネタの発信者こそ「犯罪組織」であり、ニューヨークタイムズとロイターは「犯罪組織」に荷担した共犯者となる。
(4)両社は名誉にかけて情報の出所を確認し、真偽を明らかにする責任がある。