2011/7/4

  2011年7月4日(月)
 日阪製作所をめぐる「夏の夜の夢」。

(一)1,300円突破からが大相場というチャート論。

日阪製作所月足

(1)私は長年、九州在住のM氏から相場の転換点について助言を受けてきた。
(2)M氏は江戸中期に栄えた山形県庄内地方の豪商本間一族の本間宗久が編み出した酒田五法を研究し、独自のチャート理論を開発された。
(3)M氏は日阪製作所について、日足よりも週足が強く、中でも月足は1,300円を超えればそこからが大相場だと指摘された。
(4)問題は1,300円を突破できるかどうかである。果たして「夏の夜の夢」が正夢となる可能性があるのだろうか。今回は番外編をお楽しみ頂きたい。

(二)今期の業績と材料。

(1)日阪はプレート式熱交換器で世界シェア50%を握る超実力企業である。
(2)7月には今12年3月期の第1四半期(4〜6月期)決算を発表するが、大型の不動産売却益や福島原発がらみの特需が加わって大幅増益となるだろう。通期予想についても大幅な増額修正が期待できるだろう。
(3)しかし株式市場が日阪に期待しているのは、単なる増益決算ではない。福島原発の破たんをきっかけとして世界の政治と世論が大転換し、一挙に脱原発、自然エネルギーの開発に向かった。問題は突如として出現した巨大なビジネスチャンスに日阪が挑戦できるかどうかにある。
(4)日阪には世界一のプレート式熱交換器があり、さらにその熱交換器を用いて循環注水冷却装置を設計した上原春男氏がいる。上原氏に対して経産省は早くも海洋温度差発電プロジェクトの支援を表明し、佐賀大学にパイロットプラントが建設された。
(5)上原氏にはかつてミスター円と謳われた榊原英資青山学院大学教授のような支持者も現れた。

(三)大本命は地熱発電。

(1)大相場には大材料の出現が不可欠である。
(2)日阪らしい大材料が出現するとすれば、自然エネルギー開発に関する成長分野で、上原春男氏の研究開発から新しいプロジェクトが派生した場合だろう。
(3)上原氏は佐賀大学教授であった20年前に日阪のプレート式熱交換器を用いて海洋温度差発電のプラントを開発した。この時日阪は鴻池工場内にテストプラントを建設し、上原氏を資金面で支援した。
(4)しかし今や上原氏は時の人となった。福島原発の破たん修復で上原氏が設計した循環注水冷却装置が抜群の性能を発揮し、一躍救世主として脚光を浴びた。
(5)上原氏が設計した福島原発の循環注水冷却装置は4キロに及ぶ長距離のパイプを用いて遠隔操作しており、基本的には20年前の海洋温度差発電の技術の延長線上にあると思われる。
(6)この先は「夢の領域」となるが、上原氏は海洋温度差発電の次に地熱発電の開発に取り組む可能性が高いと私は予想する。地熱発電には海洋温度差発電や循環注水冷却の技術がそのまま援用できるからである。
(7)自然エネルギーの開発では、太陽光発電や風力発電よりも地熱発電を最有力とする意見が圧倒的に強い。例えば立花隆氏が発表された地熱発電大本命説の根拠には次の通り強い説得力がある。
(8)第1に、地震大国日本の潜在的地熱資源はインドネシア、アメリカに次いで世界第3位である。
(9)第2に、太陽光発電や風力発電と違って昼夜を通して安定した発電が可能である。
(10)第3に、日本の地熱資源の80%は国立公園内にあり、環境省が認可すれば地代はいらない。
(11)第4に、環境省は地熱発電の開発を促すために、すでに国定公園内で開発可能な用地の選定に乗り出している。用地を探す必要も地代を払う必要もないのである。
(12)第5に、環境省の開発認可条件は次の2点である。1. 自然破壊や地盤沈下を伴わない場所を環境省自身が選定する。 2. 国定公園内の外部にプラントを建設し、目標地点に外側からパイプを打ち込んで蒸気や温泉を採取する。
(13)循環注水冷却や海洋温度差発電のシステムは、地熱発電で環境省が設定する条件にそのまま対応できる。すなわち遠隔地からパイプを打ち込んで採取した蒸気や温泉でタービンを回し、熱交換器で冷却した水をもう1本のパイプで元に戻し、その水圧で地熱を再度押し出すという循環システムである。
(14)地熱発電は採取するガスや温泉の温度が高いから、発電効率が高い。

(四)日阪製作所のIRに疑問。

(1)太陽光発電の巨大プロジェクトを掲げた孫正義氏は上原氏と会談し、大いに共鳴したとはしゃいでいるが、太陽光発電に関する限り上原氏の出番はないだろう。上原氏の技術的な原点は昔も今も日阪のプレート式熱交換器にあり、日阪との関係維持は不変だろう。
(2)福島原発の危機対応等で、上原氏は日阪ブランドの名声を世界に知らしめたばかりか、実利でも大いに貢献したと思われるが、日阪のIR担当者は「日阪製作所の会長と社長は上原春男氏と出会ったことがない。将来も出会うつもりもない」と断言している。
(3)そもそも上場会社のIRは、「企業が株主や投資家に対して投資に必要な情報を提供し、相互に理解を深めるために置くことを義務づけた役職」である。私たちはマスコミを通して上原氏の仕事ぶりや発想を聞く機会は沢山あるが、肝心の日阪からは投資家が知りたい情報が取れない。上場会社のIRとして重要な欠陥があると言わざるをえない。
(4)上原氏は口べたな学者であるが、自由報道協会主催の記者会見に2度出席し、ロングインタビューの一問一答がパソコンで開示されるや、福島原発の破たん前夜から破たん修復にいたるまでに上原氏が果たした重要な役割と率直な見解が大きな反響を呼んだ。
(5)自由報道協会は新聞社に所属しないフリーのジャーナリストの協会で、主催者の上杉氏を初め、メンバーはそれぞれテレビや週刊誌を通して上原氏の発言を喧伝したから、上原氏はたちまち時の人となった。
(6)上原氏は一貫して日阪のプレート式熱交換器を用いていると語っておられるが、肝心の日阪は上原氏とお会いするつもりはないと言う。東電に機器を納入しているのは東芝、日立で日阪はその下請けだから、表に出るわけには行かないという理由だと思うが、それでは例えば上原氏が地熱発電の開発に乗り出したときに主役の座を他社に奪われて、いつまでも下請けに甘んじる結果となる。
(7)世界の政治と世論は脱原発、自然エネルギー開発の時代へと大転換した。
(8)日本の自然エネルギーの開発のために、日本中に広がった上原春男氏のファンのために、日阪製作所の株主のために、何よりも日阪製作所自身のために、私は日阪製作所の経営者が早期に上原氏と情報交換の機会を持つことを期待したい。