2011/6/20

  2011年6月20日(月)
 日阪製作所と上原春男氏の古くて変わらない関係。
  上原氏、日阪の熱交換器で海洋温度差発電に再度挑戦。
  破たん原発の修復で大量受注を獲得した日阪製作所。
  日阪製作所と上原春男氏の古くて変わらない関係。

(一)上原氏、日阪の熱交換器で海洋温度差発電に再挑戦。

(1)上原氏は自由報道協会主催の第2回記者会見<註1参照>で、20年前に成功した海洋温度差発電に再度挑戦すると表明した。
(2)経済産業省の支援を受けて2年後に対馬沖でプラントを建設し、パイロットプラントは今年中に建設するという。
(3)上原氏は20年前に沖縄県久米島で、日阪製作所の熱交換器を用いて海洋温度差発電に成功した。当時マスコミは資源を持たない日本でも海洋から無制限に発電することができるとエキサイティングに報道し、日阪製作所の株価が暴騰した。
(4)海洋温度差発電は表層の海水でアンモニアを蒸発させてタービンを回し、深海の海水を汲み上げてアンモニアを冷却し、液化する循環システムである。
(5)海洋温度差発電で深海の水を汲み上げるとプランクトンが大量に浮上して基地は格好の魚礁になる。海中の発電は地震や津波のリスクを回避できる。海洋温度差発電は完全な国産技術だ。などと上原氏は胸を張っている。
(6)当時熱交換器を提供した日阪製作所は鴻池工場内にパイロットプラントを建設したから、主幹事証券に在籍した私も度々見学し、上原氏の話も聞いた。
(7)当時佐賀大学教授であった上原氏はこれを機に「NPO法人海洋温度差発電推進機構理事長」に就任し、佐賀大学退官後も原子力発電の開発に参画した。
(8)しかし福島原発の破たんをきっかけに、世界の世論は自然エネルギーを用いた電力の開発に向かった。風力発電、太陽光発電、地熱発電など、自然に優しい電力は火力や原子力に比べて発電コストが高いが、世論は原発に潜在するリスクを拒否し、自然に優しい電力の開発を求めている。
(9)今や脱原発、反原発は世界的な新しい潮流となった。海洋温度差発電は時代の要請を受けて20年ぶりに復活し、表舞台に登場しようとしている。

(二)破たん原発の修復で大型受注を獲得した日阪製作所。

(1)福島第一原発の循環注水冷却装置が今日(6月20日)から始動する。設計は上原春男氏、熱交換器は日阪製作所製である。
(2)福島原発が破たんしたとき、上原春男氏は即座に玄葉大臣と東電に使用済み核燃料プールと原子炉に循環注水冷却装置を設置する必要性を助言し、自ら設計図を書いた。プルトニウム等の汚染の除去では米、仏の技術を借りたが、循環注水冷却装置は日本の技術である。3社に支払われた費用は早晩明らかになるだろう。
(3)前記の自由報道協会における質疑応答<註2参照>で、上原氏は破たん当初の緊迫した状況を生々しく語っている。
(4)上原氏が自らの設計図を元に3日間徹夜で冷却システムのための熱交換器を制作したこと。その重量は5トンに達していたこと。待機していた数機のヘリコプターで搬送したこと。等々。
(5)5トンの熱交換器といえばかなりの大型で、4基の冷却プールと原子炉に設置したとすれば、日阪の受注額は業績を一変させる金額に達したと推定される。
(6)日本には54基の原発があり、うち停止中の29基の再開に地元自治体が反対している。新たにバックアップ用の冷却装置を必要とする可能性がある。
(7)海洋温度差発電はもちろん、地熱発電や風力発電でも熱交換器が必要である。熱交換器には空冷式とチューブ式とプレート式の3方式があるが、自然エネルギーの開発に伴って環境に合わせた熱交換器の出番が増えるだろう。

(三)上原春男氏と日阪製作所の古くて変わらない関係。

(1)福島原発の破たんで日本列島が不安に沈み込んでいた5月、私は久々に「2号炉に設置した循環注水冷却装置が稼働するや、わずか2日間で水温が70度から40度に急低下した」という明るいニュースを聞いた。
(2)東電はさらに2号炉に続いて1、3、4号機にも循環注水冷却装置の設置を急いでいると発表した。
(3)循環注水冷却装置を設計したのは上原春男氏であったから、私は即座に中核を占める熱交換器は日阪製作所製だと察知し、事実を確認した上で、6月6日付けクラブ9で「原発危機救済の旗手に日阪製作所が急浮上」と報じた。しかしこれは第1弾に過ぎなかった。日阪製作所の熱交換器に関する新たな情報が次々に浮上し、3週連続で続編を報じる異例の展開となった。
(4)上杉隆氏が自由報道協会に上原春男氏を招いて交わした一問一答を見て、私は即座に上原春男氏が20年前に日阪製作所の熱交換器を用いて「海洋温度差発電」に成功した時の興奮を思い出した。
(5)上原氏の発言は意外性に満ちていた。上原氏は責任ある当事者の立場から、政府と東電が適切に対応していれば破たんは防げた、破たんは人災である、と断言していた。
(6)私は「福島原発を設計した上原春男氏自身が語る『不都合な真実』」をクラブ9に掲載した。これが第2弾となった。
(7)しかるところ、6月15日に自由報道協会は上原春男氏を招いて2度目のインタビューを行い、その記録をインターネットで開示した。
(8)驚いたことに、上原氏は、経済産業省の支援を得て再度「海洋温度差発電」に挑戦すると語っていた。
(9)20年前に佐賀大学教授であった上原氏は先ず日阪製作所の鴻池工場に海洋温度差発電のパイロットプラントを建設し、次いで沖縄県久米島沖で実証プラントを建設して海洋温度差発電に成功した。
(10)そのとき日阪製作所の社長は、パイロットプラントの建設費用の大半を自社で賄われた。当時は創業社長が輩出した時代で、「人生意気に感じる」太っ腹の社長が少なくなかった。
(11)それから20年、日阪製作所は連続注水循環装置に大量の熱交換器を納入し、20年前の先行投資を悠々と回収したのである。
(12)上原氏は過去20年間、一貫して日阪製作所の熱交換器を技術開発の原点に据えている。20年間に変わったのは上原氏でも日阪製作所でもなく、社会と政治と人の気持ちである。
(13)今や世界中が自然に優しい電力の開発を競う時代となった。20年を隔てて世論が海洋温度差発電を求める時代に回帰したのである。
(14)上原氏は再度海洋温度差発電に成功して第2、第3の基地建設に進むだろうか。或いは熱交換器を用いて新たな開発に挑戦するだろうか。未来は常に意外性に満ちている。興味を持って見守りたい。

<註1>
自由報道協会主催(2011年6月15日)
上原 春男氏 記者会見から一部を抜粋。

上原氏:水も不足する。エネルギーも不足する。食べ物も不足することは眼に見えていた。40年前にシミュレーションしたら2000年を超えると世界中で水争い、食料争いが起こる。電気分解して水素作って燃料発電を作る。リチウム使ってイオン電池作れば世界のエネルギーの大部分をまかなえる。

上原氏:海洋温度差発電で水産養殖もできる。地震が起こったときに津波を避ける方法は海に作ること。幸いこれらは全部実用化されてきた。

上原氏:私の研究を経産省はこれまで注目しなかったが突然注目してくれて今年パイロットプラント作る計画を立てた。

上原氏:海洋温度差発電はアンモニアの蒸気でモーターを回す。津波対策は発電所を海中に浮かべれば良い。突然、経産省NEDOから話があり対馬沖にプラントを2年後に完成しようと。

上原氏:世界に広めるのでエネルギーの争いがなくなる。

<註2>
自由報道協会主催(2011年6月15日)
上原 春男氏 記者会見より

質問:あのような状況下で、数日間で冷却装置を設置することが可能だったか?
上原氏:可能か不可能かはよくわからないが、何が何でもやらなければならなかった。
日本のありとあらゆる力を投入しなければならなかった。
3日間徹夜してもらって設計図から制作まで待機して貰っていた。
熱交換器は5トンある。
作ったらすぐヘリコプターを何機か派遣して貰って運べる。
日本の技術からすれば問題ない。
メルトダウンにもっていくことが絶対にダメだった。
命を捨ててもいいと思って待機していた。