2011/6/13

  2011年6月13日(月)
 日阪製作所と上原春男氏の30年来の信頼関係。
 福島原発の破たんで隠された「不都合な真実」。

(一)福島原発を設計した上原氏自身が語る原子炉破たんの隠された真相。

(1)自由報道協会の上杉隆氏が福島原発1・3号機を設計した上原春男氏を招いて共同インタビューを開催した。
(2)インタビューには多数のジャーナリストが参加した。緊迫した一問一答をインターネット<末尾の註1>でチェックされたい。生の音声で聞くことができる。
(3)福島第1、第3号機を設計した上原春男氏は事故発生と同時に危機的状況に対する緊急対策を、政府の担当大臣と現場関係者に電話を入れて進言した。
(4)上原氏は「関係者が私の進言を即座に実行していれば破たんは未然に防げた。福島の原発破たんは人災だ」と言明している。以下は上原氏の発言の要旨である。
(5)第1に、議員会館のエレベーターで大地震に遭遇した上原氏は、即座に菅総理、玄葉戦略相、細野原発担当相、現場関係者に電話で「海水を間断なく注入し続けよ」と指図した。
(6)第2に、「復水器が停止」したと聞いた上原氏は、即座に水素爆発、メルトダウンを予測し、3月13日には玄葉大臣に即座に「循環冷却装置を作れ」と進言し、設計図を届けた。
(7)第3に、原発には復水器があり、地震直後から間断なく海水を注入していれば「復水器の停止」は起こるはずがないトラブルであった。
(8)第4に、「停止した復水器は補修に時間がかかるから、発想を変えて設計図の通りに循環冷却装置を作れ」と繰り返し伝えた。
(9)第5に、循環冷却装置は使用済み燃料棒の冷却プールと原子炉の双方に必要だ」と進言した。
(10)第6に、「原子炉に近づけない場合は、離れた場所に冷却装置を設置し、2本のパイプを延長して原子炉にくっつければよい」、と助言した。
(11)しかるに復水器が停止し、循環冷却装置がようやく稼働したのは5月31日であった。
(12)それゆえ上原氏は「私の指図が即座に実行されていれば、炉心の破たんは防止できた。破たんは人災だ」と言明するのである。
(13)最近になって、「復水器は停止したのではなく、事前に外されていた」という情報が浮上している。この点はクラブ9でも追跡したい。

(二)威力を実証した上原式循環冷却方式。

(1)上原氏が設計した循環冷却システムは驚異的な威力を発揮した。
(2)東電の発表によれば、福島第1原子力発電所2号機の使用済み核燃料プールに循環冷却装置を設置したところ、稼働2日後に水温が70度から目標の40度に急低下した。東電は1ヶ月後を予想していた。
(3)東電は1、3号機の循環冷却装置を6月中に、4号機を7月中に稼働させる予定である。
(4)東電は原子炉にも循環冷却装置の設置を進めている。
(5)上原氏はチタン製のプレート式熱交換器を用いた循環冷却装置を設計した。そのメーカーは大阪の日阪製作所で、上原氏と日阪製作所の信頼関係は30年前の海洋温度差発電に遡る。

(三)上原氏は現在も海洋温度差発電推進機構理事長である。

(1)<註2・上原春男氏略歴>の通り、上原氏は現在も「NPO法人海洋温度差発電推進機構理事長」である。
(2)およそ30年前に、当時佐賀大学助教授の上原氏は日阪製作所のチタン製プレート式熱交換器を用いて海洋温度差発電を開発し、実証プラントを沖縄県久米島で稼働させた。
(3)海洋の表面と深海の間のわずか20度の温度差を用いて発電に成功した上原教授は日本の電力供給に無限の可能性があることを証明した。
(4)上原氏の設計図に基づいてプラントを製作した日阪製作所の株価が暴騰した。
(5)当時、日阪製作所の主幹事証券で法人を担当していた私は、上原氏の開発経過とエキサイトしたマスコミ報道を鮮明に記憶している。
(6)現実には、海洋温度差発電は電力の80%を海水の汲み上げに消費したために発電効率が不十分で、実用化に至らなかった。
(7)しかし上原氏は佐賀大学学長となり、退官後も海洋温度差発電推進機構を拠点として日本の原発政策を推進し、自ら福島原発2号機、3号機を設計した。

(四)上原氏が開発した循環冷却装置。

(1)上原氏は海洋温度差発電を援用して循環冷却装置を開発し、使用済み核燃料貯蔵プールの水温をわずか2日間で70度から40度に引き下げた。
(2)上原氏は循環冷却装置を原子炉にも設置した。仏アレバ社が排水中の放射能を除去した後、循環冷却装置によって原子炉を冷却すれば、汚染水が海に流出する懸念がなくなる。

(五)上原氏の次の目標は地熱発電か。

(1)原発がメルトダウンした現在、自然エネルギーを用いた太陽光発電、風力発電、地熱発電等が次世代の発電方式として注目を集めている。
(2)上原氏は海洋温度差発電、原子力発電に次いで、地熱発電を企業化すると私は思う。
(3)わずか20度の温度差でタービンを回す海洋温度差発電に比べれば、高温の蒸気や温水を用いる地熱発電は発電効率が圧倒的に高く、開発も容易である。
(4)上原氏の発想の原点はプレート式熱交換器である。
(5)大型のチタン製プレートを用いた熱交換器は日阪製作所の独壇場で、同社は染色、食品、薬品等の民生用熱交換器市場でダントツのシェアを維持している。

(六)停止中の原発29基の再稼働を巡る紛糾。

(1)日本の原発54基の内、29基が現在定期点検のために操業を停止している。稼働中の25基も半年以内に定期点検に入る。
(2)浜岡原発の停止を受けて地方自治体は29基の再稼働に強く抵抗しており、電力会社はバックアップ用に「新たに免震機能を備えた冷却装置を増設する」という条件を提示して再開を要請している。
(3)多数の原発を保有する関西電力は先週、再開できない場合には夏場に15%の節電を要請せざるを得ないと発表した。
(4)「免震機能を備えた」熱交換器は日阪製作所が唯一のメーカーだから、54基全部を受注する可能性がある。

(七)何も語らない日阪製作所と第一線を走り続ける上原氏。

(1)原発危機の発生を受けて、日阪製作所のプレート式熱交換に対する需要が急増していると思われるが、日阪製作所自身は何も語らない。「電力会社に機器を納入するのは東芝や日立で、日阪はその下請けだから」、という理由である。
(2)しかし上原春男氏の発言を見れば、上原氏が開発した原発関連機器に日阪製作所のチタン製プレート式熱交換器が用いられていることは明らかである。
(3)30年前に海洋温度差発電を開発してから現在まで、上原氏は日本の電力開発の第一線を走り続けて来た。
(4)今後も日阪製作所のチタン製プレート式熱交換器を用いて、上原氏は新たな開発に挑戦し続けるだろう。
(5)今回のコラムは、上原春男氏のインタビューで原発事故の隠された真相を知り、私の古い体験と知識を加えて構成した。しかし私の理解や記憶に間違いがあるかもしれないことをお断りしておきたい。

<注1>
【自由報道協会・上杉隆氏】

原発設計者(福島第1・3号機) 上原春男氏共同インタビュー

パート1
http://www.youtube.com/watch?v=B1aAYwCnRt8

パート2
http://www.youtube.com/watch?v=42glnjDbHg0

パート3
http://www.youtube.com/watch?v=VS0JufTbRto&feature=related

パート4
http://www.youtube.com/watch?v=txkDYIYIc1s&feature=related

パート5
http://www.youtube.com/watch?v=UvVndLGt-ec&feature=related

パート6
http://www.youtube.com/watch?v=v3zg8mt6ll0&feature=related

ラスト
http://www.youtube.com/watch?v=6nBnId_HS70&NR=1
<注2>
上原春男(うえはら はるお)
昭和15年3月28日生

出  身  地
長崎県対馬市

学    歴
昭和38年 3月 山口大学文理学部(物理学専攻)卒業

職    歴
昭和38年 4月 九州大学助手(生産科学研究所)
昭和47年 9月 九州大学講師(生産科学研究所)
昭和48年 4月 佐賀大学助教授(理工学部)
昭和57年 5月 佐賀大学理工学部附属海洋熱エネルギー変換実験施設長
昭和60年 4月 佐賀大学教授(理工学部)
昭和61年 4月 佐賀大学評議員
平成 4年 4月 佐賀大学理工学部附属海洋温度差エネルギー実験施設長
平成 8年 4月 佐賀大学理工学部長(平成10年11月30日まで)
平成10年12月 佐賀大学教授(理工学部)
平成14年 2月 佐賀大学長
平成15年 9月 佐賀大学 退職
平成15年11月 佐賀大学海洋エネルギー研究センター 教授
平成17年 4月 NPO法人海洋温度差発電推進機構 理事長
現在に至る

【NPO法人海洋温度差発電推進機構】
http://www.opotec.jp/japanese/index.html