2011/5/16

  2011年5月16日(月)
 日本ケミカルが世界企業に飛躍するとき。
 製薬世界2位・グラクソの全面的支援で。

(一)日本ケミカルの決算から。

(1)日本ケミカルリサーチ(以下日本ケミカル)の前期決算と今期決算予想は連続減益となった。

日本ケミカルリサーチ〔4552〕連結業績
 
売上高
営業利益
経常利益
当期純利益
百万円   %
百万円    %
百万円    %
百万円    %
23年3月期
14,457
0.5
1,407
△29.9
1,312
△29.5
 926
△28.9
24年3月期予
14,220
△1.6
1,200
△14.7
1,200
△8.6
 750
△19.0

(2)これに失望して株価が急落した。
JCR
(3)連続減益の最大の要因は、英グラクソ・スミスクライン(以下グラクソ)から取得した特許料収入が前々期15億円、前期7億円、今期4億円と減少した点にある。
(4)しかし、日本ケミカルが大変身を始めるのは今期からである。
(5)第1に、2010年1月、日本ケミカルは遺伝子組み換えの最先端技術を駆使してエポエチンアルファ(以下エポエチン)を開発し、厚労省から日本初のバイオシミラー(バイオ後続薬)の承認を受けた。
(6)第2に、2009年12月に世界第2位の巨大製薬会社グラクソと全面的な包括提携契約を結んだ。エポエチンの海外販売権を取得したグラクソは欧米各国で販売認可を申請中である。
(7)グラクソが販売権を取得してから1年半を経過した。日本ケミカルが厚労省からバイオシミラーの承認を受けてからも1年4ヶ月になる。グラクソが欧米各国で販売認可を取得する時期は近いだろう。
(8)第3に、国内の販売権を取得したキッセイ薬品は、昨年6月にエポエチンの販売を開始した。決算発表で、前期の売上高12.5億円を今期は36.9億円へ、3倍に増やすと発表した。
(9)欧米の市場規模は日本の10倍である。中国市場も急拡大している。グラクソの販売力を持ってすれば年間売上高は100億円単位となるだろう。
(10)第4に、グラクソが欧米各国で販売認可を取得した時点で日本ケミカルは特許料を取得し、さらに売上高の一定比率を特許料として取得する。海外で取得する特許料収入はこれまでに取得した特許料を桁違いに上回る。

(二)エポエチンは最先端の遺伝子工学の結晶。

(1)3月30日に、日経CNBCは<国産初のバイオ後続品が医療を変える>という見出しで、日本ケミカルが最先端の遺伝子工学を駆使して開発したエポエチンの生産工程をテレビカメラで追跡し、放映した。
(2)大型新薬の特許切れが集中する2010年問題を控えて過去数年間、世界の薬品業界はゾロ品の開発競争を演じたが、現在はゾロ品の開発が一巡し、開発競争はバイオ後発薬に移っている。
(3)しかしバイオ後発薬は1件当たり50億円以上の開発資金と、長い年月と、遺伝子工学の先端技術を必要とする。しかも成功する確率がきわめて低いから、中小製薬会社は追随できない。日本ケミカルの成功は奇跡である。
(4)現在までに日本の厚労省が承認したバイオシミラー(バイオ後発薬)は2件にすぎない。1件目は2009年6月に承認されたドイツ、サンド社の成長ホルモン製剤「ソマトロビン」である。2件目は2010年1月に承認を受けた日本ケミカルのエポエチンで、その後の承認はない。
(5)中でも日本ケミカルは世界で始めて牛の胎児から抽出した血清を使わない「完全無血清培養」に成功した。血清を使わないから生産工程がシンプルで、品質が安定し、コストが低い。内外市場で先行する2社と対等以上の競争力を備えている。
(6)日本ケミカルはエポエチンアルファの承認までに10年を費やした。エポエチンは新薬の条件を満たしていたが、早期発売を優先してバイオシミラー(バイオ後続薬)を選択した。
(7)日本ケミカルは創業以来一貫してバイオケミカルの分野で技術蓄積を進めてきた。グラクソはその傑出した技術力に注目して全面的提携関係を締結したのである。

(三)グラクソと全面的包括提携契約を締結。

(1)英国のグラクソは世界第2位の巨大製薬会社である。年間売上高は3.7兆円、日本ケミカルの260倍である。
(2)そのグラクソは一昨年12月、エポエチンの販売権ばかりか、開発中のライソゾーム病(先天性の代謝異常疾患)等を含む新薬の開発と販売で全面的な提携契約を締結した。グラクソの急接近は日本ケミカルの技術水準の高さを世界に証明した。
(3)グラクソが提携にかける意気込みの大きさは契約内容に鮮明に現れている。すなわち、1. 国内の新薬開発ですでに20億円以上の特許料を払った。2. 欧米各国で販売認可を取得するごとに特許料を支払う。3. 別途に売上高の一定比率を特許料として支払う。4. 日本ケミカルの筆頭大株主となった。5. 2名の取締役を派遣した。うち1名はマーク・デュノワイエ会長である。
(4)グラクソのマーク・デュノワイエ会長は技術系出身で、同じ技術系出身の芦田社長と意気投合し、エポエチンの海外販売権取得に成功したと言われる。

(四)エポエチンが参入する腎性貧血治療薬市場。

(1)日本ケミカルのエポエチンが参入した腎性貧血治療薬市場は、国内1,000億円、欧州5,000億円、米国5,000億円で、年率10%のペースで拡大している。
(2)その巨大市場を国内、海外ともこれまでは2社が寡占して来た。
(3)さらに中国には現在10万人の透析患者があり、潜在患者数は150万人に上るという推定がある。中国の所得水準は急上昇しており、欧米に匹敵する巨大市場に発展する時期が近い。グラクソは中国や新興国に強い販売網を構築しており、販売領域が予想外に拡大する可能性がある。
(4)昨年6月、日本ケミカルは2社が寡占する国内市場でエポエチンを発売した。販売権は開発協力で先行したキッセイ薬品が取得した。
(5)一方、海外の販売権を取得したグラクソは欧米各国で販売認可を申請中である。欧米の市場規模は日本の10倍だから、製薬世界第2位、年間売上高3.7兆円のグラクソの販売力をもってすれば売上高は年間100億円単位となるだろう。
(6)グラクソが欧米各国で販売認可を取得する都度、日本ケミカルが取得する特許料収入は国内の実績を桁違いに上回る。さらに発売後は売上高の一定比率を特許料として取得する。
(7)本稿では「特許料」という言葉を用いたが、日本ケミカルは「特許料」ではなく「開発料」として売上高に計上している。

(五)グラクソ傘下で世界企業に飛躍。

(1)グラクソがエポエチンの販売権を取得したことによって、日本ケミカルは世界企業に飛躍する好機を迎えた。
(2)グラクソが販売認可を取得する時期を特定することはできないが、販売権の取得からすでに1年半を経過した。厚労省が認可してからも1年以上が経過した。認可は時間の問題だろう。
(3)日本ケミカルの芦田会長は6月28日の株主総会でグラクソの販売計画等を開示する予定である。
(4)グラクソの販売が始まれば日本ケミカルは即座に大型の特許料収入を取得する。
(5)グラクソは、営業力と欧米の市場規模から推定して短期間に100億円単位の売上高を実現するだろう。
(6)年間売上高142億円の日本ケミカルは大変身を遂げる可能性をはらんでいる。