2011/4/18

  2011年4月18日(月)
 東京から大阪へ。
 リスク回避で政治経済の中枢機能を分散。

(一)リスク管理に敏感な外国企業、大使館。

(1)3月11日の東日本大震災で東電の福島原子力発電所が被災した翌日には東京の多くの外資系企業は従業員を香港、シンガポールへ移動させた。大使館、領事館は家族を帰国させた。
(2)それから1ヶ月を経過した現在では国内の巨大企業の間でも大阪等にバックアップ機能を構築する動きが見える。
(3)大震災に遭遇する以前から東京一極集中のリスクは常に問題となってきた。まして情報機器が発達した時代には不動産コストが高く、リスクも高い東京に本部機構を集中しておく必要性が乏しくなっている。
(4)群発地震が止まらない東京で高層ビルの従業員や高層マンションの住民は絶え間ない余震におびえ、エレベーター停止のリスクを身にしみて感じている。
(5)みずほ銀行のコンピューター停止は金融市場に大きな混乱を引き起こした。銀行も企業も東京以外に本部機能のバックアップ体制を構築して、リスクの分散を急ぐ必要がある。
(6)楽天のようなネット関連企業は東京に拠点を持つ利点が乏しい。ネット検索世界1のグーグルの本社はカリフォルニア州のマウンテンビューにあり、ネット通販世界1のアマゾンの本社はワシントン州のシアトルにある。
(7)ソーシャル・ネットワーキング・サービス最大手のフェイスブックは急成長につれてマサチューセッツ州ケンブリッジからカリフォルニア州バロアルトへ、さらに郊外のメロンパークへと拠点を移している。
(8)マイクロソフトの本社はワシントン州ペルビューにあり、オマハの賢人ウォーレン・バフェットはネブラスカ州を離れない。そもそも米国では成功したらニューヨークに進出したいという発想がない。

(二)「副都心」高まる気運(産経)。

(1)4月14日付け産経は表題の見出しで以下のように報じた。
(2)「超党派の『危機管理都市推進議員連盟』は13日に国会内で会合を開き、年内にも副都心建設に着手すべく検討を急ぐ」。
(3)「内閣府の中央防災会議のシミュレーションによれば、東京湾北部にマグニチュード7.3の地震が発生した場合、死者1.1万人、負傷者21万人、全壊、火災喪失建物85万棟。インフラ被害と生産額低下の間接被害を加味した経済被害は112兆円に及ぶ」。
(4)「議連は政治経済の中枢機能が集中する首都の大混乱を避ける副都心の候補地として大阪の伊丹空港跡地、関西文化学術研究都市、万博公園、名古屋空港跡地等を検討し、総合評価した結果、伊丹空港跡地が最有力となった。議連参加者は200人に上り、各党の足並みはそろいつつある」。

(三)大阪の不動産に引き合いが急増。

(1)大阪駅北側の国鉄操車場跡を再開発した梅田北ヤードは人気が高く、伊藤忠、丸紅等の入居で高層ビルは即座に満杯となった。
(2)不動産業界は梅田の阪急百貨店が40階建てに大増築したオフィスビルのテナント募集に注目している。現在のテナントは30%程度で、空室がいつ埋まるかが大阪の需給関係の指標になるからである。
(3)そこで阪急不動産に問い合わせたところ、ここへ来てテナントは30%から60%に増加した。増加分はすべて地元企業であるが、現在は東京から30件以上の引き合いが来ており、まだ成約に至っていないが期待しているという。
(4)京阪神不動産にも問い合わせたところ、現在でも空室率は10%にすぎないが、阪急不動産と同様に東京からの問い合わせが急増しているという。
(5)中小の仲介業者にも東京から空室ビルのデータが欲しいという依頼が急増しているという。

(四)東京一極集中は戦後に始まった。

(1)伊藤忠、丸紅、日商岩井等の総合商社や住友銀行、三和銀行、野村證券、大和証券等の金融機関を含む多くの企業が本社を東京に移転したのは第2次世界大戦の戦後であった。戦前は政府と政治を除けば日本の人口、産業、流通、金融の中心は大阪であった。
(2)敗戦で国土が荒廃し、資源と資金が枯渇した結果、財務省、通産省、農林省等の主要官庁は戦時体制そのままに物資と物価の統制を維持したから主要な企業が役所の許認可を取るために次々に本社を東京に移した。東京一極集中は霞が関の肥大化が原因となって進行したのである。
(3)今もし金融庁が大阪に移転すれば、大手金融機関は続々と本部機構を大阪に移すだろう。東京一極集中は霞ヶ関の中央省庁を全国に分散すれば簡単に解消する。
(4)マスコミは今、群がって東電の危機対応の甘さを批判しているが、巨大企業が早急に東京一極集中のリスク回避を決断しなければ東電と同じ危機を招きかねない。
(5)戦後の物不足の時代は遠い昔となった。現在は設備過剰、モノ余りの時代で統制とは無縁の社会である。iPhoneやiPadが普及した情報化社会では、どこにいても、誰でも情報をリアルタイムで取得することができる。
(6)肥大した官僚支配の弊害は誰の目にも明らかとなった。東京一極集中は物理的な飽和点に達した。オフィスビルやマンションは高層化したが、都民は大災害に直面して地震や停電の恐怖にさらされた。
(7)戦後の復興時代、高度成長時代を経て東京一極集中は臨界点に達し、弊害ばかりが目立つ。「東京一極集中から首都機能の分散へ」という歴史的な逆流現象は大きな流れとなるだろう。

(五)指標は首都圏と大阪の不動産相場。

(1)東京から大阪へ、首都機能の逆流現象が起こるという私の指摘が正しければ、その兆候は先ず不動産相場に現れるだろう。
(2)オフィスビルやマンションはもちろん、リート(不動産投信)の相場動向に注目が怠れない。

(六)京阪神不動産。

(1)意外にも大手の不動産会社もまた東京1極集中となっていた。大阪の不動産を中心に扱う上場会社は京阪神不動産と大阪港振興以外に見つからなかった。
(2)阪急不動産は阪急阪神ホールディングスに吸収合併された。ダイビルは東京の比率が50%を超えた。
(3)京阪神不動産はデータセンター、オフィスビル、場外馬券売り場を主力に、大阪市内の物件が80%以上を占めている。三井住友銀行系の優良企業で1株利益45円に対して株価は400円。東京の不動産会社に比べて割安感がある。
(4)オフィスビルやデータセンターも需給関係は西高東低へ、変化が予想される。業績と株価の推移に注目したい。

京阪神不動産