2010/9/6

  2010年9月6日(月)
  日本ケミカルリサーチに自社株買いを提案する。

(一)6月26日の株主総会と懇親会における芦田会長の発言から。

(1)6月26日の株主総会と総会後の懇親会に出席して、私は芦田会長の自信にあふれた業績見通しを聞いた。その要旨を6月28日付け『クラブ9』で次のように報告した。
(2)5月28日に日本ケミカルリサーチ(以下JCR)が発売を開始したバイオ新薬エポエチンアルファは腎性貧血治療薬で、その市場規模は国内1,000億円、海外1兆円の巨大市場である。
(3)国内ではキリン協和と中外製薬2社に次ぐ第3の新薬となり、販売権をキッセイ薬品に供与した。
(4)海外でも腎性貧血治療薬は2社が寡占する市場で、販売権を世界第3位の製薬会社である英国のグラクソ・スミスクライン(以下GSK)に供与した。
(5)腎性貧血治療薬市場は年率10%で拡大しており、高度医療時代入りした中国が新たに急拡大期を迎えた。
(6)JCRは内外両市場で、20%のシェア獲得を目指している。
(7)粗利は30%を確保する見込みである。
(8)年間売上高144億円のJCRにとって、エポエチンアルファが参入する市場規模はあまりにも巨大である。2年という射程で見れば業績が革命的に変化する可能性が高い。
(9)英国GSK(グラクソ・スミスクライン)は3度目のJCR株式取得で、持ち株が16.7%から25%に増加した。3度目の取得株式数は307万株、株価は1,310円であった。
(10)キッセイ薬品(13%)とGSK(25%)に対する株式安定工作によってよってJCRはそれまでに保有していた自己株と潜在株式を一掃した。
(11)JCRはGSKが保有株式を3分の1まで拡大することで合意している。取得予定の株式数は269万株となる。
(12)6月の株主総会ではGSKから、GSK会長マーク・デュノワイエ氏と杉本俊二郎氏の2名を取締役に迎えることを決議し、GSKはJCRの取締役8名のうち2名を占めた。両社は名実共に新薬の開発を含む全面的な提携関係を結んだ。
(13)世界第3位の巨大製薬会社GSKの急接近はエポエチンアルファの市場規模の巨大さと、JCRの新薬開発力の高さを証明している。私は7月26日付クラブ9で、GSKのマーク・デュノワイエ会長のJCR株主宛メッセージを掲載した。
(14)また株主総会では、幹部社員に割り当てるストックオプション10.3万株を決議し、その後に権利行使価格を1株1,371円と決めた。受益者は株価が高くなればなるほど多額のプレミアムを取得できる。利益成長力が高い企業ほど、ストックオプションの効果が大きい。

(二)株価急落とJCRのコメント。

(1)株主総会に出席した株主はもちろん、クラブ9の読者は芦田会長の強気発言を知って、積極的に株式を取得した。
(2)しかし株価は4月30日の1,590円を高値に、先週末には846円に暴落した。株式市場全体が弱気局面にあるとしても、JCRの暴落幅は異常である。
(3)株主から私に、「新薬で薬害が発生したのではないか」、「販売が不調ではないか」、等の質問が集中した。
(4)JCRに問いあわせたところ担当部長は、「エポエチンアルファは後発ながら先発2社に対して十二分の競争力があり、国内販売は順調なスタートを切った。現状では製品の供給力にネックがあるが、新設の神戸第二工場が稼働する12月以降は需要増加に全面的に対応できる」という回答であった。

(三)自社株買いを提案する。

(1)そこで私は次の通りに自社株買いを提案することにした。第1に、前期の決算で手元流動性が大幅に改善した。
(2)第2に、これまでJCRは自社株保有が常態化していたが、一連の安定工作によって現在は潜在株式、自社株保有ともゼロとなっている。
(3)第3に、株主総会時の会長発言によれば、前回に1,310円で307万株を取得したGSKは更に269万株を取得する約束がある。
(4)第4に、株主総会で決議したストックオプションの権利行使価格1,371円よりも株価が大幅に下落した現在、新株発行から市場買い付けに切り替えれば、権利行使価格が大幅に下がり、取得株式数を30%以上増やすことができる。ストックオプション受益社員の士気を鼓舞し、市場の浮動株を吸収する上で一石二鳥の効果が期待できる。
(5)私は、以上の提案を多くの株主の意見を聞いてまとめた。

(四)日経クイックが「株価急落が目立つ」と報道。

(1)9月3日に日経クイックが「日本ケミカルリサーチの株価が急落している」と報じた。そのコピーを複数の株主が私にFAXして来た。株価急落を心配したのは私だけではなかったので、私の自社株買いの提案をクラブ9でも開示して一般株主のご意見とご批判を仰ぐこととした。
(2)芦田会長は2ヶ月前の株主総会で、創業以来の好決算を背景にバイオ新薬エポエチンアルファの超有望性を自信満々で語られたばかりである。総会ではグラクソが1,310円で307万株を取得し、更に269万株を取得すると表明された。また幹部社員にストックオプションを賦与することを決議し、直後にその株価を1,371円と決定した。
(3)これらの事実から、芦田会長は株主総会当時には1,300円どころを地相場と見ておられたと推定される。しかし株価はあっという間に1,000円を割り込んだ。
(4)幸いにも芦田会長はオーナーである。誰よりも株価下落の痛みを受けたオーナー会長は、大株主としてすでに株価の修復策を検討しておられると思うが、私は投資家にJCRの有望性を報じた責任から、あえて自社株買いを提案した。

(五)日米で続出する自社株買い。なぜ、今、自社株買いか。

(1)ここへ来て日米で自社株買いを発表する企業が続出している。業績好調で財務内容は充実したが、大型の設備投資計画を持たないからである。
(2)JCRも前期に創業以来の好業績と特許料収入によって潤沢なキャッシュを蓄積した。12月に稼働する神戸第2工場の完成によって大型の設備投資が一巡し、資金需要が低下する。
(3)欧米では現金蓄積が増加した企業は必ず次の3点のいずれかを実行する。1. 企業買収に打って出る。2. 大型の自社株買いを行う。3. 高率配当で利益を株主に還元する。
(4)もしいずれの株主優遇策をも講じなければ、自社が蓄積したキャッシュを担保に他社から乗っ取りを仕掛けられる。つまり自社株買いは株価を高くして他社からの買収を未然に防止するための有力な手段となる。
(5)JCRにとっても、現在の株価急落は自社株買いの好機である。最小のリスクで株主価値を大きく増やすことができる。
(6)オーナー会長が早期に株主の心配を払拭されることを期待したい。