2010/8/9

  2010年8月9日(月)
  円安、株高へ、逆転の条件が成熟。

(一)ユーロとギリシャ・スペイン株の暴落と暴騰。

ユーロ スペイン ギリシャ

(1)チャート1を見れば一目瞭然、5月にギリシャ、スペインの財政破綻が報じられてユーロとギリシャ・スペインの株価が大暴落したが、6月上旬(赤い縦線)を境に3つのチャートはそろって大反騰に転じ、ほぼ全値戻りを達成した。
(2)大逆転はECB中央銀行が90兆円の実弾を準備してギリシャとスペインの国債を買い支えたときに始まった。その後、主要銀行がストレステストを乗り切って財務内容の健全性を証明し、国家と銀行が破綻するリスクが大幅に後退した。
(3)エコノミストと日経はその後も執拗にギリシャの財政再建は不可能、ストレステストは基準が甘過ぎる、などと批判したが、チャートはすべての弱気論を退けて全値戻りを達成した。
(4)なぜこの様な大逆転が起きたのだろうか、この様な大逆転は「円と日本株」についても起こりうるだろうか、が今回のテーマである。

(二)相場の最大の決定要因は需給関係である。

(1)ギリシャの財政破綻説を主張した主役はエコノミストであったが、実戦で空売りを実行した主役はヘッジファンドであった。
(2)5月にはヘッジファンドの連戦連勝をみて投機筋が一斉に追随したが、6月に入ると形勢は大逆転し、敗退を重ねて現在に至っている。
(3)大逆転の鍵はECB中央銀行が防戦買いに準備した90兆円の資金であったが、現実には中央銀行はギリシャとスペインの国債を下値で買い支えたに過ぎない。投機筋が90兆円の実弾をみて買い戻しに走り、相場を大逆転させたのである。
(4)つまり、暴落と暴騰は、ヘッジファンドが空売りと買い戻しによって進行させた自作自演のドラマであった。
(5)そこで「ヘッジファンドは買った分は全部売り、売った分は全部買い戻すという、単純明快な投資行動を取った」という重要な事実を確認しておきたい。
(6)ヘッジファンドとヘッジファンドに追随した投機資金は短期決戦を基本としているから、過去4ヶ月間に売った分の大半を買い戻した。
(7)チャートの暴落と暴騰は、株価を動かす最大の要因がエコノミストの理屈よりもマネーの需給関係にあることを示している。

(三)日本の「円買い、輸出株売り」にも逆転の兆し。

(1)いま、世界中の株式市場で、最先端の金融工学を駆使したアルゴリズムが猛威をふるっている。
(2)アルゴリズムを開発したのはアメリカの投資銀行である。アルゴリズムを実行しているのは投資銀行から資金とノウハウを供与されたヘッジファンドである。
(3)ヘッジファンドはユーロ市場で「ユーロ売り、ギリシャ・スペインの国債、株式売り」を組み込んだアルゴリズムを実行したが、ECB中央銀行の反撃を受けて敗退した。
(4)しかし東京市場ではヘッジファンドが成功した。彼らは東京市場では「円買い、輸出株売り」を仕組んだアルゴリズムを用いた。東京市場では過去数ヶ月、円の急騰と一群の輸出関連株の急落が完全にリンクしている。
(5)東京市場は後述するように日経の円高恐怖論に洗脳されていたから、ヘッジファンドは「円買い、輸出株売り」のアルゴリズムを仕組んで大成功したのである。
(6)しかし最近は、円高局面でも輸出株が上がり始めた。私はヘッジファンドが円買い輸出株売りのアルゴリズムを捨てて、これまでに空売りした輸出株の利食いを急いでいるのではないかと思う。理由は次項で述べる。

(四)投資手法の転換を迫られるヘッジファンド。

(1)第1に、日本企業は先週末現在、4〜6月決算で40%に達する驚異的な増益を達成した。輸出企業は見事に円高を克服したのである。これを見てヘッジファンドは円高恐怖論を利用するのは危険だと判断した。
(2)第2に、米議会は先月、オバマ政権の金融改革法案を可決した。法案を実行すれば投資銀行は運用資金量の90%を削減されるから、ヘッジファンドに融資した資金を回収しなくてはならない。
(3)第3に、米国の金融庁はプロの検査官でさえ理解できないような金融工学やアルゴリズムに厳しい規制を要求している。
(4)ヘッジファンドはこの様な状況変化を受けて運用手法の変更を迫られた。

(五)ヘッジファンドは東京市場でどう出るか。

(1)前項までに私はヘッジファンドは短期決戦で、買ったものは全部売り、売ったものは全部買い戻していると述べた。
(2)さらにヘッジファンドは投資手法そのものの転換を迫られていると述べた。
(3)二つの推定が正しければ、ヘッジファンドは今後東京市場で買った円を売り、空売りした輸出株を買い戻すだろう。
(4)エコノミストや日経は相場を理屈ばかりで判断し、資金の需給関係を無視したから、ギリシャ問題で大きな判断ミスを犯したのである。
(5)彼らはいま、円が限りなく上昇するかのように解説しているが、「買ったものは全部売る」「売ったものは全部買い戻す」という投機筋の短期投資の手法を重視すれば、円相場の逆転は近いと私は思う。
(6)それゆえ私は、需給関係から日本の「円高、株安」が「円安、株高」に逆転する可能性が高いと思う。

(六)日本の円高恐怖論を笑う。(再録)

 かねてから私は日経の円高恐怖論を「時代錯誤」だと指摘してきた。以下に7月20日付クラブ9の一部を再録して参考に供したい。
(1)日経は先週、フランス首相のユーロ安容認発言を鬼の首でも取ったように1面の囲み記事で報道した。ユーロ安歓迎論は異例中の異例であればこそ、ニュースになった。ちなみに自国の通貨高を悲観する国は日本だけである。
(2)日本の異常な円高恐怖論は日経や証券系シンクタンクが日常的に「1円の円高で輸出企業の利益が何億円減るか」という時代錯誤の試算を発表する影響が大きいと思うので、この種の試算がいかに非現実的であるかを指摘したい。
(3)第1に、企業は為替変動による業績悪化を避けるために、毎年海外の現地生産比率を引き上げている。今日では主要な輸出企業はみな多国籍企業である。
(4)第2に、半期ごとに想定為替レートを発表している企業は、発表した時点ですでに相当部分を先物市場でヘッジしている。その後も想定レートを上回ればすかさずヘッジ比率を増やす。
(5)第3に、総合商社は社内レートを設定し、輸出入を集計して差額を財務部がヘッジし、利益を確定している。
(6)第4に、為替で稼いでいる企業は多いが、黙っている。
(7)第5に、為替の思惑が外れた企業が、円高を言い訳にしている。
(8)第6に、今どき、為替対策を持たない企業は存在しない。