2010/8/2

  2010年8月2日(月)
   I パナソニックが三洋電機とパナ電工を買収。
  II 日本ケミカルリサーチは2倍超の大幅増益。

  I パナソニックが三洋電機とパナ電工を買収。
(一)三洋電機株主は買収株価に不満。

(1)7月29日付日経朝刊は、パナソニックが三洋電機とパナソニック電工を完全買収し、大合併すると発表した。
(2)株式市場はこれを大歓迎し、即日三洋電機株は149円に急騰、パナ電工株は1,124円のストップ高で大量の買い物を残して引けた。
(3)株式市場では上場企業の買収に適用される一般的な買収条件に従って30%のプレミアム上乗せを予想した。大合併を報じた日経も、買収総額をプレミアム30%を上乗せした9,000億円超と試算した。
(4)しかし引け後にパナソニックが発表した買収株価は、三洋電機138円、パナ電工1,110円であったから、失望と落胆が株式市場を支配した。
(5)パナソニックは株式市場の常識を無視した買収株価を提示したが、残念ながら条件が変更される可能性は乏しい。
(6)三洋電機を長期にわたって推奨した私としては、投資家の期待に応えられなかったことをお詫び申し上げたい。
(7)しかしパナソニックは自らの主力事業である家電を三洋電機の電池事業と入れ替えるという大転換を決断した。私が三洋電機にかけた夢とパナソニックが三洋電機にかけた夢は完全に一致したのである。
(8)「三洋電機は21世紀最大の成長企業に変身する」という私の予測は不変で、今後はパナソニックを三洋電機に変わる長期推奨銘柄としたい。

(二)大買収、大合併の時代が来た。

(1)日本の株式市場に大買収、大合併の時代が到来した。
(2)日本の企業が家電市場で過当競争を繰り広げている間に、韓国のサムスンは選択と集中を断行し、世界市場で一人勝ちした。
(3)世界の電池市場でトップシェアを独走してきた三洋電機とパナソニックは合併によってブランドを統一し、サムスンの電池事業参入に対する迎撃態勢を固める必要に迫られていた。
(4)今や日本企業でサムスンに対抗しうる企業はパナソニック以外に存在しない。
(5)多くの産業が成熟期に入った日本では、設備投資よりも合併・買収によって選択と集中を断行することが、国際市場で生き残るための唯一の選択肢となった。
(6)一方で、中国企業による日本企業の買収も急増している。
(7)大合併、大買収時代の到来は歴史的な必然である。金融機関が相次いで資金使途を明らかにしない大型増資を連発して株価を破壊したのに対し、企業の買収合併は例外なく大幅な株価上昇を実現している。
(8)パナソニックは三洋電機の買収株価を値切って評判を落としたが、パナソニックの増資は買収資金の調達だから歓迎されるだろう。
(9)投資家は千載一遇の投資の好機を迎えた。だからこそ、買収に際しては基準株価に30%以上のプレミアムを加えるという国際慣行を、官民一体で確立することを望みたい。

(三)サムスンと激突へ。

(1)パナソニックは今回の大合併によって中核事業の競争力を強化し、市場シェアと収益力を高めるだろう。その結果、パナソニックは國際市場でサムスンと競合しうる唯一の日本企業となる。
(2)間もなく激突する主戦場はリチウムイオン電池を中心とする電池事業である。この点については7月12日付クラブ9のコメントを再録して参考に供したい。(以下、7月12日付クラブ9から。)
(3)同業他社に先駆けてパナソニックはグループ内の選択と集中を進め、新規の成長分野を電池事業に絞り込んだ。そのために5,000億円を投入して三洋電機を傘下に入れた。
(4)パナソニックは三洋電機の中核事業である太陽電池と自動車電池を足場に、家丸ごと電池、工場丸ごと電池、スマート・グリッドの推進等、新規事業に対する設備投資を積極化している。
(5)これを見て、電機関連の大手が一斉にパナソニックに追随しているが、選択と集中が中途半端で設備投資に及び腰だから、パナソニックの対抗勢力とはなり得ないだろう。
(6)しかしサムスンが虎視眈々、電池事業に集中投資する機会をうかがっている。半導体、液晶で巨額の設備投資を断行し、日本企業をごぼう抜きにしたサムスンが、将来の覇権を賭けてパナソニックの電池関連事業に挑戦する日が切迫している。
(7)三洋電機の本間副社長は、ボイス8月号の伊藤元重氏との対談で、サムスンの追撃を意識した上でトップシェアの維持に強い自信を示し、「電池は世界1でなければだめです。ナンバー2では絶対に儲からないし、グローバル競争で勝ち残っていけません」と明言している。
(8)ついでながら、パナソニックが三洋電機を買収する課程で独禁法問題が浮上し、買収株式数を3分の2から2分の1に縮小した。その結果、浮動株が急増して株価を圧迫している。将来に禍根を残さないために、三洋電機に早期の株式安定工作を促したい。(私の「安定工作の催促」はパナソニックの完全買収で結実した。)

 II 日本ケミカルリサーチは2倍超の大幅増益。
(一)第1四半期の決算から。

(1)日本ケミカルが第1四半期(4〜6月)決算で劇的な大幅増益を達成した。
(2)すなわち売上高1.19倍。営業利益2.59倍、経常利益2.35倍、純利益2.18倍という記録的な増収増益を達成した。
(3)通期予想は前回のまま据え置いたが、これは同社の決算予想の通例で、全く参考とならない。
(4)それゆえ私は、株主総会における芦田会長の発言と、取締役に就任した英グラクソのマーク・デュノワイエ会長のコメントから推定した通期予想を試算した。
(5)第1四半期決算の最大の注目点は新薬エポエチンアルファの寄与であった。決算コメントでは医薬品事業の売上高増加を6億13百万円と記載しているから、新薬がその過半を占めたと推定した。
(6)エポエチンアルファの発売は5月27日であったから、4〜6月期には1ヶ月分が寄与したに過ぎない。営業活動の本格化につれて売上高は月を追って増加するだろう。当初は生産が遅れ気味であったが徐々に改善しており、12月に神戸第2工場が操業を開始すれば大量受注に対応できるという。
(7)私は、エポエチンアルファは今期100億円、来期1,000億円以上の増収効果をもたらすと思う。
(8)腎性貧血治療薬の市場規模は国内1,100億円、海外1兆円で、現在は2社が独占している。その巨大市場に第3の勢力として参入するから、この程度の増収は十分期待できる。
(9)芦田会長は粗利益を30%と述べていたから、営業利益ベースで今期30億円増が期待できる。

(二)不可解な株価形成。

(1)このところ、日本ケミカルの株価形成が異常だという意見が相次いで私に寄せられていた。
(2)確かに株価を見れば7月半ば以降、引け際に売りが集中して連日のように安値を更新している。
(3)私は、決算発表で薬害等の悪材料が飛び出すのではないかと懸念したが、開示された決算は悪材料どころか絶好調であった。
(4)株価下落の懸念は消えたが、この機会に妥当株価について考えておきたい。

(三)妥当株価を探る。

(1)第1に、6月の株主総会で決議した幹部社員に対するストックオプションの株価は1,371円であった。ストックオプションは経営者が将来の利益成長力に自信を持った時に実施するから、決定後に株価が急騰する場合が多い。
(2)第2に、筆頭株主のグラクソが大量取得した株価は1,310円であった。前回のクラブ9で紹介した通り、日本ケミカルの取締役に就任したグラクソのデュノワイエ会長はエリスロポエチンの販売に大きな自信を示している。
(3)少なくとも経営者と筆頭株主は前記の株価を下限と見て、将来の株価の上昇に強い自信を示したのである。
(4)高度成長企業を株価収益率で論じても意味がない。私は経営者と筆頭株主が実戦で用いた1,300円台を将来の株価の下限と見る。
(5)前項の「大買収、大合併の時代が来た」で述べた通り、買収・合併を経た企業の株価は例外なく急騰している。株主構成が一変した日本ケミカルにも買収企業と同じ効果が現れるだろう。