2010/7/20

  2010年7月20日(火)

(一)米議会で金融改革法案が成立。

(1)難航していた米国の金融改革法案が先週、上下両院で可決された。今週、オバマ大統領が署名して発効する。
(2)最大の狙いは投資銀行の銀行部門と証券部門を分離する点にある。
(3)その結果、投資銀行は証券業務を分離し、ヘッジファンドへの融資を絞り、リスクが高いデリバティブ(証券化商品等の金融派生商品)から手を引くことになる。
(4)シティバンクとバンクオブアメリカは前期に証券子会社を売却したから、先週末に発表した4〜6月決算ではそれぞれ37%、3%の減益となった。
(5)4〜6月決算で76%の大幅増益を達成したJ・P・モルガンチェスは法案成立を受けて証券部門を分離するだろう。
(6)ゴールドマン・サックスも証券部門を分離するだろう。来期の利益は20%以上減少すると見る試算がある。
(7)改革法案がこれまで難航した最大の理由は、世界最大の金融機関である投資銀行は米国で最大の利益を計上しており、投資銀行の規制は米国の国際競争力と税収源を失う結果を招く、という点にあった。
(8)にもかかわらず法案が成立したのは、金融工学やアルゴリズムを駆使したハイテクが水面下でリスクと不正を肥大化しているという疑念が高まったからである。

(二)EUが空売り規制法案を準備中。

(1)かねてからEUでは、投資銀行が傘下のヘッジファンドに大量の借り株を提供し、株価を不当に暴落させたという批判があった。
(2)ドイツのメルケル首相の強硬な禁止論にフランスのサルコジ大統領が同調し、EU加盟16ヶ国が空売り規制法案を成立させる可能性が高まっている。
(3)この場合の空売りは、日本の信用取引の空売りとは全く異なり、投資銀行が株式や国債の現物を調達してヘッジファンドに提供し、ヘッジファンドが借りた現物を集中的に売り浴びせて相場を売り崩す手法を指す。
(4)ギリシャやスペインの国債と株式は、あるはずがない大量の実弾売りを浴びて暴落した。
(5)しかしECB中央銀行が予想外の90兆円を準備し、ヘッジファンドの空売りに買い向かったから、逆にヘッジファンドが予期しない伏兵の反撃を浴びて踏み上げを迫られた。中央銀行が買い出動した6月半ば以降はユーロとユーロ圏の国債と株式が急騰している。
(6)借り株を用いた空売りを禁止すれば大規模な実弾売りができにくくなる。
(7)もしEUで空売り規制が成立し、英国、米国、日本が同調すれば、米国の金融改革によって最大の資金源を失ったヘッジファンドは空売り禁止の追い打ちを受けて競争力を失うだろう。

(三)日本の円高恐怖論を笑う。

(1)日経は先週、フランス首相のユーロ安容認発言を鬼の首でも取ったように1面で報道した。しかしヨーロッパの政治家と国民は昔も今も通貨高を望んでいる。フランス首相のユーロ安容認発言は異例中の異例であればこそニュースになった。ちなみに円高を悲観する国は世界中で日本だけである。
(2)日本の異常な円高悲観論は、日経や金融機関のシンクタンクが日常的に「1円の円高で輸出企業の利益が何億円減る」という時代錯誤の試算の影響が大きいので、以下にこの種の試算がいかに非現実的であるかを指摘したい。
(3)第1に、企業は為替変動による業績悪化を避けるために、毎年海外の現地生産比率を引き上げている。今日では主要な輸出企業はみな多国籍企業である。
(4)第2に、半期ごとに想定為替レートを発表する企業は、発表した時点ですでに相当部分を先物市場でヘッジしている。その後も想定レートを上回ればすかさずヘッジ比率を増やす。
(5)第3に、総合商社は社内レートを設定し、輸出入を集計して差額を財務部がヘッジし、利益を確定している。
(6)第4に、為替で稼いでいる企業は多いが、黙っている。
(7)第5に、為替の思惑が外れた企業が円高を言い訳にしている。
(8)今どき、為替対策を持たない企業は存在しない。

(四)ヘッジファンドの「カモ」にされた東京市場。

(1)問題はヘッジファンドが日本の円高恐怖論につけ込んで東京市場を「カモ」にしているところにある。
(2)ヘッジファンドは為替市場を円高に誘導し、或いは一部の輸出株を売り崩しさえすれば、日経平均が急落することを知っている。
(3)そこであらかじめアルゴリズムを用いて為替先物、輸出株、日経平均の裁定取引を構築しておく。
(4)為替相場は小さな資金で大きく動くから、機を見て円高を仕掛ける。或いは円高局面でアルゴリズムを活用する。
(5)アルゴリズムが日本の円高と株安を増幅している可能性がある。
(6)日本には投資銀行が存在しないからリーマンショックの被害が軽微であったが、同時に投資銀行の金融工学やアルゴリズムのノウハウに無知である。そのため東京市場は投資銀行とヘッジファンドの「カモ」になりやすい。
(7)東京市場が「カモ」にされた状況は、世界の株価指数に明快に現れている。日経平均はギリシャやスペインを含む世界の大半の株価指数よりも下落幅が大きい。
(8)財政赤字が世界最大で、金利が世界1低い日本の円が投機筋の買いを集めているのも不可解である。

(五)日本も借り株を禁止せよ。

(1)米国では金融改革法案が議会を通過した。
(2)EUでは借り株禁止法案が成立する可能性が高い。
(3)日本はEUに追随して借り株を禁止する好機を迎えている。
(4)一本の法案で投資銀行とヘッジファンドの裏技を封じることができるのだから、借り株禁止で日本の国益を守るべきだと私は強く主張したい。