2010/5/17

  2010年5月17日(月)
  大材料相次ぐ日本ケミカル。

(一)チャートと新たな大材料。

日本ケミカルの日足

(1)株価はギリシャ問題と無縁の上昇トレンドを維持している。
(2)日本ケミカルは昨年来、グラクソとキッセイ薬品に40%弱の株式を安定工作して浮動株を一掃したから、需給関係の悪化による下値不安は乏しい。
(3)先週末には、1. 製薬世界3位の英グラクソが持ち株を17%から25%に増やす、2. グラクソは6月の株主総会で会長と技術担当取締役の2名を日本ケミカルの社外取締役に送り込む、という二つの大材料が飛び出した。グラクソは事実上日本ケミカルを傘下に入れてアルファJCRの販売に全力投球する姿勢を鮮明にした。
(4)日本ケミカルは5月末にバイオ医薬品・アルファJCRの発売を開始する。業績の変化に注目したい。
(5)日本ケミカルはアルファJCRを量産するための設備投資を完了しているから、利益の伸びは売上高の伸びを大幅に上回るだろう。

(二)日本ケミカル支配を鮮明にしたグラクソ。

(1)先週末、日本ケミカルに2つの大材料が出現した。
(2)第1に、三井物産企業投資組合は保有していた優先株308万株を普通株に転換し、18日付でグラクソ・グループ・リミテッドに売却する。その結果、グラクソ・スミスクラインの持ち株は17%(491万株)から25%(800万株)に増加し、2位のキッセイ薬品の380万株に大差をつけてダントツの筆頭大株主となる。
(3)第2に、日本ケミカルは6月の株主総会でグラクソのマーク・デュノワイエ会長と杉本技術担当取締役を社外取締役に選任する。新任取締役候補は2名ともグラクソが占めるから、グラクソの本格的な経営参加を促すための株主総会となる。
(4)グラクソは日本ケミカルの250倍の売上高を持つ超巨大企業である。グラクソの相次ぐ株式買い増しとデュノワイエ会長の取締役就任は、グラクソが事実上日本ケミカルを傘下に入れて、アルファJCRの販売に全力を投入する姿勢を鮮明にした、と私は感じた。
(5)自己株と優先株をグラクソとキッセイ薬品に安定工作して潜在浮動株を一掃した日本ケミカルは、最強の助っ人を得て後顧の憂いを断ち、研究開発を加速する。

(三)世界第3位のグラクソの実力。

(1)欧米の製薬業界は大買収、大合併を経て急速に寡占化した。グラクソのデュノワイエ会長は買収競争を勝ち抜いて世界第3位に躍進させた立役者である。
(2)今また世界の大手製薬会社は主力薬品の特許期限切れが集中する2010年問題に直面し、新たな買収、合併、提携を模索している。
(3)日本ケミカルが5月末に発売する「アルファJCR」は腎性貧血治療薬の後発医薬品である。市場規模は国内1,100億円、海外1兆円の巨大市場で、内外とも2社寡占状態にある。患者数は人工透析患者の増加に比例して増勢をたどっており、特に人口超大国の中国で急増している。
(4)そんな状況下で日本ケミカルは「アルファJCR」の国内販売権をキッセイ薬品に、海外の販売権をグラクソに譲渡した。
(5)決算短信で日本ケミカルは「アルファJCRは開発時における臨床試験の充実度などが勘案され、通常の後発医薬品よりも10%高い最高の薬価(77%)を取得した」「バイオ医薬品市場の規模と成長率を考慮すると、その潜在的市場はかなり大きなものと推測され、キッセイ薬品と協力し、普及に努める」と述べている。
(6)一方、グラクソは80億円を投入して日本ケミカル株の25%を取得し、デュノワイエ会長自らが社外取締役に就任する意気込みを示している。海外1兆円の市場規模、新興国市場の急拡大、グラクソの販売力から推定した売上高は3年という射程で見れば1,000億円単位となるだろう。
(7)日本ケミカルはこれまで大手製薬会社が手がけない希少疾病薬で独自分野を構築してきたが、アルファJCRの5月発売で一気に未踏の世界市場に踏み込む。売上高(144億円)は年を追って記録的な変化率を達成する可能性が高い。
(8)日本ケミカルはアルファJCRを量産するための設備投資を終えているから、増益率は増収率を大幅に上回るだろう。

(四)全面的な提携強化へ。

(1)グラクソが日本ケミカルと「バイオ医薬品に関する開発・生産・販売に関する包括的契約」を締結したもう一つの背景は日本ケミカルの開発力にある。
(2)日本ケミカルは社員の43%が研究に従事する開発型企業である。主力のヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト」は前期に86億円を販売したが、7月に大日本住友製薬との委託販売提携を解消してグラクソと販売提携する。
(3)両社は希少疾病薬の開発でも協力し、海外販売の強化、臨床試験の内外同時着手などで提携効果を追求する。
(4)グラクソの技術担当取締役の日本ケミカル取締役就任は提携関係強化の一環だろう。