2010/4/12

  2010年4月12日(月)

(一)日本を急追する韓国。

(1)韓国のGDPは日本の5分の1に過ぎないが、1業種1社に集中しており、多数企業の競争で疲弊した日本企業を撃破し、急成長した。
(2)鉄鋼、造船、半導体、自動車、液晶、TV等、日本の高度成長を牽引した分野で、韓国企業が日本勢を追い上げた。今や新幹線、原子力発電でも、官民一体で受注活動を展開している。
(3)中でもサムソンは半導体、液晶、TVで世界ダントツとなった。サムソンの年間利益は1兆円で、日本企業が束になっても勝てない。
(4)サムソンの戦略は明快である。技術開発が一巡した成熟段階を見計らって、一挙に世界最大の量産工場を建設し、価格競争を挑む。
(5)薄型テレビの開発で後れを取ったソニーがサムソンの軍門に下り、日本のノウハウが一気に流出した報じられたケースもある。
(6)今や官民一体の販売戦略は世界政治の常識である。米議会はトヨタの独走を阻止するために公聴会という名の魔女裁判を行った。
(7)大統領や首相のトップセールスが常識となった時代に、民主党政権は有効な対策を講じる余裕がない。
(8)しかし日本で唯一、サムソンと同じ戦略を用いて世界市場を制覇した経営者がいる。日本電産の永守社長である。
(9)小型モーター市場でライバル企業を次々に買収し、世界的な独占体制を築いた。買収した電産コパル、電産サーボ、電産サンキョー、電産トーソク、電産リードはすべて優良企業に変身した。株価は1万円の高値圏にある。

(二)巨大企業のサラリーマン社長に重要な欠陥。

(1)サムソンの会長と日本電産の永守会長は共にオーナー創業者で、経営力が傑出している。二人に比べて、日本の巨大企業は皆小粒のサラリーマン社長となり、経営力の衰退が鮮明である。
(2)例えばパナソニックがスマートグリッドの構想を具体化すると、多くの巨大企業があわてて追随した。しかしパナソニックは異例の抜擢人事を断行し、傑出した経営者を排出している。
(3)大坪社長は自動車電池と太陽電池を21世紀最大の成長分野と見て、7,000億円を投入して業界首位の三洋電機を買収した。さらに買収の進行中に1,000億円を投入して世界各地で太陽電池5工場を増設させた。パナソニック自身も1,000億円を投入して世界最大の事務機用リチウム電池工場を建設している。
(4)乾電池市場は久しく三洋電機が1位、パナソニックが2位であった。2位のパナソニックが1位の三洋電機を買収し、大坪社長は即座に9,000億円を投入してスマートグリッドのシステムを立ち上げたのである。傘下のパナソニック電工やパナホームを動員し、自力でシステムを完結する体制も整えた。
(5)勝敗の帰趨はすでに大坪社長の勝ちと決まっている。
(6)しかし多数の巨大企業があわてて追随した。後発企業には確たる構想もなければ巨額の開発資金を投じる度胸も見えない。
(7)私は、数年後にはスマートグリッドの競争に敗れた後発企業が又しても韓国企業に設備やノウハウを売り渡す愚を繰り返すのではないかと恐れている。

(三)新たな局面迎えた自動車電池。

(1)オバマ大統領が2012年に新たに厳しい排気ガス規制を打ち出す。ガソリンの需要が落ちると心配する米石油資本に対して、米東海岸の海底油田の開発を認可する妥協案も提示した。
(2)日産ルノーとベンツの資本業務提携の主たる狙いはハイブリッド車(HV)の開発だろう。日産は電気自動車(EV)の盟主を自認してきたが、早期普及は困難と見てHVの販売に踏み切る。
(3)先に製薬業界が巨額の新薬開発資金を早期に償却するために大合併を繰り返したように、HV車の開発資金を早期に償却するためには大量生産、大量販売が不可欠の条件となる。
(4)トヨタはマツダにハイブリッドシステムを供与する。トヨタは量産によって開発資金を償却し、マツダは開発資金を節約する。
(5)前期には車種別販売量で、トヨタのプリウスがトップに躍り出た。HVの燃費効率が圧倒的に高いから、参入する自動車メーカーが増えるだろう。
(6)そうなると三洋電機の存在感が高まる。
(7)7月に兵庫県加西のリチウムイオン電池新工場が竣工すると、EV換算年産20万台、世界最大の量産工場が出現する。ユーザーにはトヨタ、ホンダを始め、フォルクスワーゲン、フォード、プジョー、マツダ、韓国現代等の社名が上がっている。
(8)国内の競合メーカーは皆自動車会社との合弁で、生産量はEV換算1,000台程度だから、自力生産、全方位販売を貫いた三洋電機の圧倒的優位が鮮明となる。大量生産はコストダウンに直結するから、三洋電機の競争力がますます強くなる。
(9)本間副社長が宣言した通り、EV車が本格的に普及する2020年に世界の電池シェア40%を獲得すれば、三洋電機は間違いなく世界の自動車産業の中核を占める超優良企業となる。

(四)独占企業だけが国際競争で勝ち残る。

(1)太陽電池と電気自動車は21世紀最大の成長市場である。人類は生き残りを賭けてクリーンエネルギーの開発に乗り出した。
(2)日本は少なくとも今日現在、両市場で世界をリードするパナソニックと三洋電機を生み出した。
(3)しかし問題は残る。安易に参入し、競争に敗れた企業が韓国や中国の企業に日本の設備とノウハウを流出させる恐れがあるからである。
(4)鉄鋼や海運や化学は大合併を経て国際競争力を維持しているが、電気は東芝のウエスチングハウス買収を除けば大合併,大買収に消極的で、国際競争力を強化する意欲とパワーに欠ける。緊張感を欠いた経営はアメリカのビッグ3と同じ運命をたどる可能性がある。
(5)私はパナソニックと三洋電機が電池市場を独占することによって日本の国際競争力を確立することを期待したい。

(五)富山化学(富士フイルム)が大型新薬発売へ。

(1)10日付け日経は、富山化学がT-705の年内発売を目指していると報じた。韓国、台湾を含めて治験件数を確保する。
(2)6月までに富山工場内に10億円を投入して今冬向けに1,000万人分を確保する。
(3)T-705はタミフルを圧倒する臨床データが確認されている。またタミフルは世界各地で耐性菌が多発しているが、T-705は抗生物質ではないから将来も耐性菌が発生しない。
(4)学会では新型鳥インフルエンザを含む大半の感染症にも有効と発表されており、富士フイルムの業態を一変させる超大型新薬に発展する可能性が高い。

(六)日本ケミカルとキッセイ薬品の株価。

キッセイと日ケミカル

(1)キッセイ薬品は先週一気に高値を更新したが、日本ケミカルは急騰した後の調整課程にある。
(2)日本ケミカルは腎性貧血治療の後発薬「アルファJCR」を開発し、1月に製造認可が下りた。薬価収載は4月で、今来週にも発表される。発売は2ヶ月以内となる。
(3)日本ケミカルはアルファJCRの販売権をキッセイ薬品(国内)と英グラクソ・スミスクライン(海外)に供与している。
(4)内外1兆1千億円の巨大市場に参入する日本ケミカルに注目したい。