2010/4/5

  2010年4月5日(月)

 I. 魔女狩りを克服したトヨタの実力。
(一)ハイブリッド(HV)陣営が電気自動車(EV)陣営に圧勝。

(1)日産と三菱が相次いでEV車の値下げに踏み切った。しかしEV車の普及を妨げている充電問題が改善されていないから、大量販売は期待しにくい。
(2)驚くべきことに、世界のEV陣営の盟主と目された日産が年内にHV車を発売すると表明した。
(3)HV車陣営はすでに大量生産時代に入り、新規に参入する企業が相次いでいる。トヨタ、ホンダを筆頭に、フォルクスワーゲン、フォード、現代、マツダなどに加えて、日産も参入する。
(4)現実を見れば、HV車陣営がEV車陣営に圧勝する構図が鮮明となった。

(二)充電問題を解決できないEV陣営。

(1)EV車の普及を阻んでいる理由は明快である。第1に、充電に専用スタンドが必要である。第2に、充電に長時間が必要である。第3に、充電スタンドの普及には巨額の先行投資が必要である。第4に、しかし電気代がわずかだから、充電スタンドの採算が取れない。第5に、プラグインのHV車が出現すれば、充電スタンドは廃棄される運命にある。
(2)充電問題が解決できないために、走行範囲と走行時間が限定される官公庁の特需が一巡した後は、民間需要が期待できない。
(3)1年前には米国や中国で自動車業界以外のアウトサイダーが続々とEV車市場に参入し、人気と投機資金を集めたが、今では話題にもならなくなった。

(三)充電問題を解決したHV陣営。

(1)これに対してニッケル水素を用いたHV車は、ガソリンエンジンで走行中に充電するから、充電する必要がない。
(2)トヨタはリチウムイオン電池を用いたHV車を開発したが、家庭内のプラグで充電できる。
(3)HV車でもリッター当たり走行距離は数倍に伸びるから、ユーザーはガソリン代を節約できる。
(4)ガソリンエンジン併用だから、大容量の電池がいらない。
(5)このため、HV車は着々と市場を拡大し、トヨタでは主力車種となった。

(四)公聴会という名の魔女狩り。

(1)トヨタがHV車で独走態勢を築いたために、米議会がトヨタ車の急加速問題を追及する公聴会を開催した。米国でトヨタ疑惑が沸騰し、世界中のマスコミが群がって魔女狩りを競演した。公聴会の背後でトヨタたたきの勢力が結集していたことはいうまでもない。
(2)しかしトヨタは豊田社長自ら誠実に対応した。米当局が公開実験に踏み切ったところ、急加速を証言した女性が誤ってアクセルペダルを踏んでいた事実や、賠償金を得るために悪徳弁護士と組んで虚偽の証言を行った男性など、議会証言の嘘が次々に暴露された。
(3)進退が窮まった米当局は、NASA(米航空宇宙局)の協力を得て電子制御のメカニズムを解明することで幕引きを図っている。しかしトヨタのエレクトロニクスの技術水準は突出して高いから、NASAがトヨタの技術力を証明する結果となるだろう。
(4)トヨタはHV技術をマツダに供給する契約を結んだ。今後も追随するメーカーが続出し、トヨタを盟主とするHV陣営は急拡大するだろう。
(5)もちろんトヨタの究極の目標もEV車であるが、家庭内プラグインの充電システムに到達するためにHV車の技術改良を積み重ねているのである。
(6)専門家の多数意見は本格的なEV車時代が到来する時期を2020年と見ている。逆算すれば、10年間はトヨタ優位の時代が続くことになる。

(五)株価は世界ナンバー1の実力評価へ。

(1)私は、トヨタは米議会の魔女狩りを克服したと思う。
(2)トヨタの独走を阻止したい勢力が政治力を結集して大がかりな魔女狩りを演出したが、大山鳴動してネズミは一匹も出なかった。
(3)魔女狩りに群がったマスコミはNASAが安全のお墨付きを出したとき、トヨタの実力を評価せざるを得なくなる。
(4)トヨタはニッケル水素電池に続き、次世代のリチウムイオン電池のHV車でも優位を鮮明にするだろう。
(5)自動車産業は世界で突出した超巨大産業である。トヨタの株価はその超巨大産業で世界ナンバー1の実力を織り込み始めるだろう。

 II. スマートグリッド時代を創造するパナソニック。

(1)スマートグリッドとは、1.家庭が昼間に太陽電池で発電した電力を、2.蓄電池で蓄えて、3.夜間にも消費し、4.さらに余った電力を地域内で貸し借りするシステムである。
(2)現在の太陽電池は昼間に集めた電力を安値で電力会社に売り、夜間に使用する電力を高値で電力会社から買っているから、投資効率が悪く、設備の償却に長い年月が必要である。しかし、1.昼間に集めた電力を、2.電池で蓄電し、3.24時間使用すれば、4.発電効率が飛躍的に高まる。
(3)さらに、5.余剰電力を地域内で貸し借りするスマートグリッドのシステムを構築すれば、発電効率はさらに高くなる。その時初めて本格的な太陽電池によるクリーンエネルギー時代が到来する。
(4)前回に私は、三洋電機が太陽電池工場を世界各地で建設する一方、パナソニックが世界最大のリチウムイオン電池工場を建設していると述べた。パナソニックはさらに傘下のパナソニック電工やパナホームを加えて、自力でスマートグリッドのシステムを構築する体制を整えた。
(5)ここへ来て、株式市場で急騰する関連銘柄が続出している。スマートグリッドは電力会社の送配電網を借りて運用するから、自家発電部分と電力会社の電力使用部分を別々に計測するメーターが必要である。そこで昨年の大崎電気に続いて、今年はGEと提携した富士電機が急騰した。
(6)しかしメーターの推定市場規模は400億円に過ぎないから、関連企業の大きな業績変化は期待できない。日立の関与を指摘する意見もあるが、これも確認できない。材料としては過大評価が明らかであるが、富士電機や日立は多数の子会社や孫会社を擁する資産株で、資産規模に比べて時価総額が小さいから、過大評価と見て売り込んだ目先筋が締め上げられて仕手相場に発展している。資産や需給関係もまた株式相場を占う上で重要な視点である。
(7)本筋の利益成長力から見れば、「家丸ごと」スマートグリッドを推進するパナソニックの優位は鮮明で、巨大市場を創造する可能性はきわめて高い。
(8)パナソニックは21世紀の成長分野を太陽電池と自動車電池と見て、昨年三洋電機を買収し、前期に両市場でそれぞれ1,000億円規模の設備投資を断行した。パナソニックは成長企業に変身する足場を固めたと私は思う。
(9)自動車を代表するトヨタと電機を代表するパナソニックの株価は、実力が著しく過小評価されている。両銘柄は日本を代表するハイテクの指標株となるだろう。

 III. 主力事業を成長分野に絞り込んだ三洋電機。

(1)私は株式投資の基本を成長力においている。成長力の評価を間違わなければ株価は短期的な波乱を乗り越えて上昇する確率が高いからである。
(2)三洋電機は前期までに主力事業を自動車電池と太陽電池に集約したから、業績と株価の両面でトヨタ、パナソニックとの相関関係が高くなった。しかし電池の構成比が高いから、変化率はトヨタ、パナソニックを上回るだろう。
(3)自動車電池では、ライバル各社が特定の自動車メーカーと合弁で生産しているのに対して、三洋電機は自力生産、全方位販売を選択しているから、HV陣営のすべてに高性能の電池を供給できる。すなわちHV陣営の生産拡大がそのまま三洋電機の生産拡大につながる。
(4)7月には加西工場の量産設備が竣工し、徳島工場と併せたリチウムイオン電池の生産量は自動車換算20万台となり、ライバル各社に桁違いの大差をつける。
(5)桁違いの生産量は大幅なコストダウンに直結する。世界中のHV車、EV車メーカーにとって最大の競争力はリチウムイオン電池の品質と価格だから、三洋電機に受注が集中する。本間副社長の「本格的な電気自動車時代が来る2020年にシェア40%を取る」という目標宣言は現実味を帯びてきた。
(6)一方、新興成長市場のスマートグリッドでは、パナソニックの優位がそのまま太陽電池を供給する三洋電機の優位となる。
(7)また三洋電機の加西工場はパナソニックの「家丸ごと電池」に対応した「工場丸ごと電池」のモデル工場である。三洋電機はこの新事業で1,000億円の営業利益を目標にしている。
(8)三洋電機は前期で赤字決算と決別した。太陽電池と自動車電池を中核事業に育成するために断行した大型の先行投資が、今期以降に収穫期を迎えるだろう。