2010/3/1

  2010年3月1日(月)

(一)電子制御システムを防衛したトヨタ。

(1)米国議会の公聴会では、豊田社長に対する質疑の大半が電子制御システムに集中していた。電子制御システムこそトヨタがハイブリッドカー(HV車)で独走態勢を築いたハイテクの核心である。マスコミはトヨタが電子制御システムの欠陥を認めて、ブラックボックスを開示せざるを得なくなると予想していたが、豊田社長は再三の社内調査で問題は認められなかったと突っぱねた。
(2)私がこの点を重視するのは、本格的な電気自動車(EV車)時代が来るのは10年先で、それまではトヨタが主導するハイブリッドカー(HV車)の独走が続くと思うからである。トヨタはHV車に不可欠の電子制御システムを開発して圧倒的優位を確立した。
(3)トヨタとホンダは先にニッケル水素電池を用いたHV車を発売し、さらにトヨタは昨年、リチウムイオン電池を用いたHV車を発売した。
(4)HV車陣営がすでに大量生産、大量販売時代に入ったのに対して、EV車陣営は未だに低迷を脱する見通しが立たない。次項で両陣営の技術力、販売力の格差が拡大一途をたどっている現実を検証したい。

(二)難問山積の電気自動車(EV車)陣営。

(1)第1に、リチウムイオン電池の大量生産とコストダウンが難航している。
(2)第2に、150キロ走行を可能にするためには大型のリチウムイオン電池が必要であるが、高価な上に、荷物用スペースが狭くなり、販売価格が高過ぎる。
(3)第3に、3時間以上の充電時間が必要、専用の充電スタンドが必要、長時間充電のための駐車スペースが必要、といった問題を解決できない。
(4)第4に、電気料金が少額だから、高額のサービス料を取らない限り、充電スタンドがビジネスとして成立しない。
(5)第5に、充電スタンドを全国津々浦々に設置するためには巨額のインフラ投資が必要である。そして充電スタンドが普及しなければ、自由にどこへでも行けるという自動車本来の魅力がなくなる。
(6)第6に、これらの問題の解決は困難で、解決の見通しが立たない。

(三)独走態勢築いたHV陣営。

(1)難航する電気自動車(EV車)陣営を尻目に、ハイブリッドカー(HV車)陣営はすでに大量生産、大量販売時代に突入した。
(2)HV車優位の理由は明快である。第1に、燃費、パフォーマンス、居住性が優れている。第2に、価格が200万円台でこだわりのあるドライバーの支持を集めている。第3に、燃費効率が抜群で、充電の必要がない。
(3)昨年トヨタが発売したリチウムイオン電池搭載の「プリウスPHV」は、家庭内コンセントによる充電が可能で、発売前から人気を集めた。EV車が抱えている難問をすべてクリアしているから、EV車の需要を食っている。
(4)トヨタは問題点を一歩一歩クリアする現実路線を選び、その最終目標にEV車をおいているように見える。ハイテクを駆使した電子制御システムの開発に巨額の資金を投入する手法は回り道のように見えるが、EV陣営よりも先に高品質のEV車に到達する可能性がある。
(5)米議会の公聴会では質疑が電子制御システムに向かい、議員は次々にブラックボックスの開示を迫ったが、豊田社長は安全性に自信を示し、開示を拒んだ。
(6)質疑に立った議員の一人は大学教授を証人に立てて電子制御システムの欠陥を追求したが、その議員と大学教授が特定の団体から資金提供を受けていたことが暴露される一幕があった。
(7)公聴会はトヨタバッシングの意図を露骨に示したが、私は、トヨタは圧倒的な技術優位と誠実さを印象づけたと感じた。

(四)三洋電機陣営に参加した自動車大手5社。

(1)三洋電機は兵庫県加西工場でリチウムイオン電池の量産工場を建設している。7月には年産20万台というダントツの大量生産体制を確立する。
(2)三洋電機の本間副社長は特定の自動車メーカーと提携せず、自力開発、全方位販売を掲げて、電気自動車が本格的に普及する2020年に世界シェア40%を取ると宣言している。
(3)事実、トヨタ、ホンダ、フォルクスワーゲン、フォード、プジョーの大手5社が早くから三洋電気製リチウムイオン電池の購入を決めている。
(4)5社のうちフォルクスワーゲン、フォード、プジョーはトヨタ、ホンダに続いてハイブリッドカー(HV車)の開発を目指しており、電池の仕様に関する情報を共有している可能性がある。後発の3社が開発に成功すれば三洋電機は市場シェアを大幅に拡大する。
(5)そのとき三洋電機は大量生産によるコストダウンで先行し、低価格の電池はEV陣営でも需要を拡大するだろう。世界シェア40%を取るという目標は夢物語でなくなる。