2010/1/25

  2010年1月25日(月)
  オバマショックと株式相場。

(一)日本株独歩高の背景。

(1)オバマ大統領の金融改革案を受けて、ニューヨークダウは先週、3日間で500ドルの急落を演じた。これを受けて世界中の株価が連鎖して急落したが、その直前まで、日経平均は久々に独歩高を演じていた。先ず日本株再評価の背景を振り返っておきたい。
(2)第1に、日本には世界を代表する超優良企業が多い。特に自動車、電気、精密、機械、鉄鋼等の製造業を始め、金融、海運、総合商社等でも圧倒的な国際競争力を持つ企業がひしめいている。
(3)第2に、日本企業の財務体質は傑出しており、純資産倍率1倍を割り込む企業がゴロゴロしている。一昨年のリーマンショックで欧米の大手金融機関が軒並みに国家の救済を受けたが、日本の3大銀行は自力で乗り切った。
(4)第4に、21世の技術革新を主導するクリーンエネルギーでも、自動車電池、太陽電池、原子力発電等で圧倒的な先端技術と国際競争力を構築している。
(5)第5に、21世紀はアジアの世紀である。アジアの高度成長は中国を筆頭に、インド、インドネシア、タイ、ベトナム等アジア全域に拡大している。人口も世界の3分の2がアジアに集中している。日本はそのアジアの一員である。
(6)このような圧倒的優位にも関わらず、肝心の日本国内で自虐的弱気論が蔓延し、日本株は世界で最も割安な水準に取り残されていた。
(7)しかし昨年12月に、日本株割安論が一気に表面化した。きっかけとなったのはドバイショックに対応した日銀の積極的な追加的金融緩和であった。
(8)日銀の豹変に注目した米国系投資銀行が日本株買いのポートフォリオを組み、傘下のヘッジファンドが一斉に日本株を買って出た。
(9)その矢先にオバマショックが世界の株式市場を急襲した。以下に私は、第1に世界の株価はオバマショックを克服できるか、第2に日本株は相対的優位を維持できるかを考えてみたい。

(二)人気急落にあわてたオバマ政権。

(1)オバマ政権が突如、金融改革を発表した。伏線はあった。マスコミと議会がかねてから投資銀行の高額ボーナスを厳しく批判していたところへ、支持率急落で目玉の医療改革の実現が危うくなったオバマ政権は、投資銀行の投機的資金運用を規制する金融改革案を持ち出して支持率の挽回を図ったのである。
(2)日本には自らリスクを取って積極的に資金を運用する投資銀行が存在しないが、欧米では伝統的な投資銀行以外に、大手銀行がみな投資銀行部門を拡大し、投機的資金運用に挑戦して収益力を拡大する新しい銀行経営の時代を迎えている。
(3)投資銀行は高額のボーナスを支給して議会とマスコミの強い批判を受けていたが、歩合制を採用しなければ有能な人材が海外に流出し、かえって米国の国益を損なうと主張していた。
(4)オバマ政権は投資銀行からヘッジファンドに流れる資金を断てば高額のボーナス制度もなくなると考えて金融改革を発表した。リスクの高い資金運用を規制してリーマンショックの再来を防ぐという大義名分も準備した。
(5)しかし金融改革案は劇薬となった。ニューヨークダウの暴落は世界の株価の連鎖的暴落を誘発し、金融市場の拒絶反応に直面したのである。
(6)金融改革案を主導したボルカー元FRB議長は保守的運営で名声を博したが、いかんせん、当時と今日では金融市場そのものが変化し、ヘッジファンドの存在も大きくなった。
(7)株価が暴落すれば住宅価格も連鎖して下がる。株式と住宅が暴落すれば米国の国民は財産を失い、景気が悪化して雇用が減少する。これではオバマ政権の支持率はさらなる急落が避けられなくなる。野党の共和党は投資銀行の高額ボーナスに反対したが、株価の暴落を招く改革案には断固として反対するだろう。金融界からも反対論が噴出している。
(8)私は、金融改革案をそのまま実行することは不可能で、オバマ政権は大幅な修正を迫られると思う。

(三)金融資本主義時代の金融政策。

(1)情報化社会の進展につれて資本主義は今や金融資本主義の時代に進化した。日本では現在も製造業が産業構造の中核を占めているが、欧米の主要国家はみな金融が産業構造の圧倒的な中核を占めている。
(2)米国は自由主義、民主主義、資本主義の守護神である。金融機関が多国籍化し、世界の金融市場が一体化した時代に米国が金融政策を誤れば、世界の株価が同時に暴落し、世界経済を恐慌に陥れるリスクが発生する。
(3)医療改革に行き詰まり、支持率が落ちたオバマ政権は人気挽回を狙って金融改革を持ち出したが、株価暴落の洗礼を受けた。
(4)とは言うものの、金融市場が混乱すれば真っ先に打撃を受けるのは巨大なリスク資産を運用する投資銀行である。投資銀行もオバマ政権の主張に歩み寄る必要がある。例えば投資銀行が高額ボーナスの修正を約束すればオバマ政権との妥協が可能となる。両者は対立を避けて早期に妥協の道を探るだろう。

(四)どうなる、日本の株価。

(1)ヘッジファンドは全盛期の2008年には投資銀行から元本の30倍以上の借入金を調達して積極運用し、巨大バブルを発生させた。その結果金融引き締めに直面して株価が大暴落し、リーマン・ブラザーズが破綻した。
(2)このとき、FRBはすべての投資銀行と直接取引の口座を開設し、無制限に資金を融資してようやく大暴落を食い止めたのである。
(3)投資銀行は2年前のような過激な資金運用に走っているわけではないが、「のど元過ぎれば熱さを忘れる」恐れは確かにある。
(4)しかし世界の金融市場は今ようやく立ち直り、景気回復のための足場を固めつつある。株式市場が暴落すれば、これまでの努力が水の泡となる。株価の急落に一番驚いたのはオバマ政権自身ではないだろうか。金融市場は短期間に混乱を修復するだろう。
(5)さて、日本の株式市場では12月以降、ヘッジファンドが日本株の大幅買い越しを続けている。先週は日経平均も急落を免れなかったが、米欧で銀行株が暴落を主導したにもかかわらず、日本の3大銀行は高値圏を維持している。
(6)週初は安寄りが避けられないとしても、相対的に相場が若い日本は世界の株価反騰をリードする可能性がある。
(7)昨年末からクラブ9が取り上げた銘柄の中では、みずほ銀行、富士フイルム、プロミス、武富士、川重などの下値抵抗力に注目したい。大京とアコムは日証金が新規売りを停止したので注目株から除外したい。三洋電機はすでに底値圏内に達していると思う。