2009/12/14

  2009年12月14日(月)
  I ヘッジファンドの大変身。
  II TOB後の三洋電機。

 I ヘッジファンドの大変身。
(一)大変身の背景。

(1)前回にも述べたが、過去2週間の日本株の急騰はヘッジファンドがポートフォリオを大胆に組み替えた結果として起こった。その内容は次の如くである。
 1. 日経平均先物は売りから買いへ。
 2. 新興国株買いから日本株買いへ。
 3. 石油、金買いから株式買いへ。
 4. 円買いから円売りへ。
 5. 優良株、輸出株は売りから買いへ。
(2)ヘッジファンドは売り買い両建てでサヤを取るが、資金配分が売り重視から買い重視にシフトした。日本株については強気に転換した。
(3)ヘッジファンドに変身を促したのは情報と資金の出し手である投資銀行だろう。このような大変身は昨年のリーマンショックの前にも起こった。昨年の夏まで、ヘッジファンドは元本の20〜30倍の資金を運用していたが、G・S系ファンドが突然、徹底的に株式を売却した。間もなくリーマン・ブラザーズが倒産したがG・Sは紙一重で危機を凌いだ。情報力と決断力の差である。
(4)投資銀行とヘッジファンドのつながりは深い。中でもG・Sは株式市場に大きな影響力を持ち、巨大な利益を上げ続けている。
(5)リーマンショック後に三菱UFJがモルガン・スタンレーの筆頭大株主となり、野村證券がリーマン・ブラザーズの人材を取得して、初めて投資銀行業務に踏み込んだ。モルガン・スタンレーは唯一非ユダヤ系の投資銀行で、穏健な経営手法が三菱UFJと似ている。

(二)借り株で稼ぎまくるヘッジファンド。

(1)しかし借り株を用いて株価を売り崩す手法は、日本では依然として外資系証券の独壇場である。
(2)ヘッジファンドは増資銘柄に片端からカラウリを仕掛けて稼ぎまくっている。彼らは増資の情報をかぎつけると大規模なカラウリを仕掛けるが、借り株を用いて現物株で売るから、信用取引のカラ売りに現れないばかりか、売れば売るほど取り組みが買い長となり、株価の下げを加速する。更に値決めの直前にはダメ押しの売りを浴びせるから公募価格は最低水準で決まる。その公募新株を取得して借り株を返済するから、確実にさや取りが成功する。
(3)彼らは弱気レポートと強気レポートを使い分けて投機的運用を支援するから、日本の投資家はレポートの裏にある投資戦略を見極める必要がある。利益至上主義の彼らは法律に違反しない限り、何でもやる。株式市場は「勝てば官軍」の冷徹な市場である。
(4)野村證券の今年2回目の増資ではヘッジファンドが敗退した。野村證券は公募株を国内の投資家のみに販売し、ヘッジファンドに渡さなかったから、ヘッジファンドは借り株を市場で買い戻さざるを得なくなった。
(5)借り株の情報を持たない日本の投資家は闇夜に鉄砲で撃たれるも同然で、なぜ突然株価が下がったかがわからない。日本証券業協会は金融庁や取引所と協議し、借り株情報を日証金と同様に開示し、すべての投資家が同じ条件で戦えるように改善するべきである。
(6)もっとも、カラウリはヘッジファンド限定の投資手法で、一般の投資信託は長期の投資目標を設定してポートフォリオを組む。

 II TOB後の三洋電機。
(一)ヘッジファンドのカラウリ。

(1)三洋電機もヘッジファンドのカラウリに苦しめられた。12月8日現在、外資系証券の借り株によるカラ売りは縮小に転じたが、なお4,000万株を超えている。

銀行名
株数(万株)
モルガン・スタンレー
884
ドイツ銀行
718
VICIS
694
シティグループ
1026
ドイツ信託
825

(2)カラウリは借り株を調達した銀行の名義となっているが、実際に売っているのはヘッジファンドである。外資系銀行は信託や生保から品貸し料を払って、株式を借り出す。
(3)シティやドイツ銀行はヘッジファンドにカラウリを勧める一方、100円目標の超弱気レポートを出して側面から支援した。
(4)日本の証券会社のレポートも公平だとは言えない。野村証券が目標株価130円の弱気レポートを出したのはパナソニックへのゴマスリで、異常に安いTOB価格を合法化した。三菱UFJも130円の弱気レポートを出したが、カラウリしたモルガン・スタンレーの大株主である。
(5)外資系証券のカラ売り情報は一般の投資家の目に触れない。前項でも指摘したが、日本証券業協会は日本の投資家の利益擁護のために、誰でもわかる借り株情報の開示を求めるべきである。
(6)外資系証券は三洋電機に大規模なカラウリを仕掛けたが、TOBが終わった現在では目標株価100円のレポートを恐れる投資家はいないだろう。カラウリ残高の推移に注目したい。

(四)G・Sはどう出るか。

(1)12月7日付けでゴールドマン・サックス(G・S)が開示したG・Sグループの持ち株は4社合計で8億2,367万株である。新規に取得した株式を売却した痕跡は見えない。
(2)G・Sと共に4億株を取得した大和証券は、11月5日に7,000万株を市場で売却し、1日で44円の暴落を引き起こした。しかし残りの株式は住友信託等を経由して安定株主にはめ込まれた可能性が高い。大和証券から新たな売り玉は出ないだろう。
(3)そうなると三洋電機の株価はG・Sの出方にかかっている。そのG・Sは先週のTOB終了をもって自由な売買が可能となる。
(4)G・Sは株価100円の上下で800億円の利益が増減する。買いを仕掛ける環境と条件はそろっている。
 第1に、12月7日付日経ビジネスは「パナソニック、三洋買収への執念」で、TOB価格決定に際してG・Sが270〜280円を強硬に主張したと述べている。リーマンショックに遭遇したとはいえ131円は前例のない安さであったから、G・Sは今こそ「うべかりし利益」を挽回する好機を迎えた。
 第2に、その後の1年間に電池関連株はみな暴騰したから、独歩安を演じた三洋電機の割安は歴然としている。
 第3に、前記の日経ビジネスは、パナソニック以外にトヨタと日石もTOBの意向を示したと報じている。トヨタはもちろん、提携関係にあるホンダ、フォルクスワーゲン、フォード、プジョー等、三洋電機株の取得を狙う企業は多い。
 第4に、フィデリティ投信は、傘下の小型株ファンドで日本のリチウムイオン電池関連株を買い進んでいるが、三洋電機を買いたい機関投資家は少なくないだろう。
 第5に、新春銘柄として自動車電池、太陽電池を主力業務とする三洋電機が注目を集めるだろう。
(5)私は、どこから見ても、G・Sは買って出ると思う。