2009/11/30

  2009年11月30日(月)
  相場観

(一)新興国の株価にリスク。

(1)ドバイ政府が5兆円の対外債務返済を5年間繰り延べると発表して、ヨーロッパの銀行株が急落した。ドバイショックは即日、世界中の株式市場に波及した。
(2)翌日にはヨーロッパ株は落ち着きを取り戻し、債権の回収は可能だという論評が紹介されたが、私はきわめて困難だと思う。
 第1に、ドバイは7ヶ国で構成するアラブ首長国連邦の1国であるが、石油資源を持っているのはアブダビだけで、ドバイの油井は枯渇している。
 第2に、そのためドバイは観光立国を目ざし、政府系企業がマンション、ホテル、ショッピングセンター等に巨額の投資を集中した。しかしバブルが崩壊すると巨大な建築群は文字どおり砂上の楼閣となった。
 第3に、住宅地を出れば酷熱の砂漠で、水道水は海水を淡水化して供給しており、メンテナンスのコストは高い。繁栄を取り戻すことは困難だろう。
 第4に、アブダビがドバイを支援するとしても限定的だろう。5兆円の過半は不良債権となるだろう。
(3)ドバイに融資した5兆円が焦げ付けば、世界の投機資金の流れにほころびが生じるから、新興国市場の株価に短期的な波乱が尾を引く恐れがある。

(二)鳩山首相の辞任は必至。

(1)民主党政権の発足と同時に日本株の独歩安が始まったのは偶然ではない。
 第1に、民主党政権はマニフェストに基づいて大型の予算を組んでいるが、大半が後ろ向きのばらまきで景気機刺激効果は殆ど期待できない。仕分け人の仕分けを必要としているのは民主党自身のマニフェストである。
 第2に、仕分け人による予算カットがノーベル賞受賞者の怒りを集めた。鳩山政権は技術立国日本の国際競争力に対する無知をさらけ出した。
 第3に、言わずもがなの円高容認論を主張した財務大臣が、円の急騰にあわてて為替介入をほのめかした。口先だけの介入は投機筋に足元を見られるが、かといって投機筋と戦う決断力があるとも見えない。
 第4に、IMFが日本経済のデフレに懸念を表明し、総裁が来日してデフレ阻止の金融政策を勧告したが、日銀総裁は何も決断しない。米国のFRBや英国のイングランド銀行に見習って日銀が大胆に過剰流動性を供給すれば、株高、土地高、金利安をもたらし、為替は円安にぶれて、企業の利益と富裕層の消費を増やし、税収入の減少に歯止めがかかる。
(2)デフレは財政赤字を増幅し、インフレは財政赤字を縮小する。政府と日銀が優柔不断でデフレ対策を講じないから、日本の株価は独歩安となり、景気が回復するどころか、デフレが深刻化した。
(3)そんな時に鳩山首相の早期退任が必至となった。鳩山家の巨額の財産を、政治資金を隠れ蓑にして脱税していたのだから、辞任をためらえばマスコミの餌食になる。
(4)普天間基地問題では、外務大臣と防衛大臣が年内決着を明言した。日米関係の悪化を恐れる閣僚が、優柔不断の鳩山首相を見限って公然と造反したのである。

(三)首相辞任は株価反騰の転機となるか。

(1)私は、鳩山首相の辞任が日本の政治と株価に転機をもたらすと期待したい。
(2)「友愛」と「労働組合」と「左翼政党」が主導する政治が日本経済の活力を阻害している。平等を政治目標に掲げた社会主義国は例外なく衰退し、崩壊した。資本主義社会、自由主義社会ではリスクに挑戦する企業と人が経済を活性化する。
(3)景気が悪化すれば雇用が減り、株安を放置すれば年金が破たんして老後の生活が保障できなくなる。資本主義社会では緩やかなインフレと株高が設備投資を刺激し、経済を拡大成長させる。株安とデフレは百害あって一利もない。

(四)パナソニック大坪社長がテレビ生出演。

(1)21世紀最大の成長産業は電気自動車である。自動車は広大な下請け群の裾野を持ち、国家の産業構造の中核を占めている。その自動車のガソリンエンジンが電池に変わるという歴史的な大革命が始まった。
(2)その電池で世界1位の三洋電機を、世界2位のパナソニックが買収する。27日のビジネスサテライトにパナソニックの大坪社長が初めて生出演し、TOBの目的と成算を語った。要旨を私流にまとめておきたい。
 第1に、ニッケル水素電池で両社の市場シェアが90%を超えていたために、11ヶ国の独禁法審査が難航した。決着までに1年の歳月を要した事実は、両社の圧倒的な競争力の証明である。
 第2に、TOBによって両社の事業の相乗効果が発揮できる。
 第3に、リチウムイオン電池は小さな電池1本にも無数の特許技術が投入されており、簡単に他社の追随を許さない。
 第4に、世界ダントツの日本の電池技術を支えている研究開発、生産設備、下請け企業の80%が大阪湾岸に集積しており、日本の国際競争力を下支えしている。
 第5に、韓国等の追い上げに備えて企業買収や情報漏洩に備える必要がある。
 第6に、自動車電池に次ぐ成長産業の太陽電池でも、シャープ、京セラ、三洋電機が強い国際競争力を持ち、その技術開発と生産の拠点も関西に集積している。
 第7に、米国のスマートグリッド構想に対してパナソニックはマイクログリッド構想を推進する。その概要は重要だから次項で述べる。

(五)スマートグリッドとマイクログリッド。

(1)米国でグーグルが推進するスマートグリッドは、1. 家庭が蓄積した電力情報をコンピューターにつなぎ、2. 電力会社を経由せず、3. 地域内で電力を貸し借りし、4. 電力コストを下げる、という構想である。
(2)これに対してマイクログリッド構想を推進するパナソニックは、1. 家庭単位、マンション単位、工場単位で、2. 太陽電池によって電力を創造し、3. 電気を効率よく電池に蓄えて、4. 省電力の技術を付加し、5. その上で、マイクログリッド相互間や電力会社との間で電気を貸し借りする。
(3)つまりパナソニックと三洋電機が得意とする太陽電池や畜電池や省エネの技術を結集してマイクログリッドのシステムを構築し、最適の発電効率を目指す。

(六)韓国との競合に備えよ。

(1)韓国は日本と同様に資源を持たず、人口減少に悩みながら、教育に注力し、貿易立国を目指している。
(2)韓国は日本の成長の歴史に学び、官民が一体となって、日本の成功体験を再現した。鉄鋼、造船で日本を追撃し、半導体で日本を追い抜き、液晶で肩を並べた。
(3)サムスンとLG電子の次の目標はリチウムイオン電池世界1である。現在は日本が優勢であるが、関連企業の買収や技術情報の流出に万全の対策が必要である。

(七)バーゲンセールの日本株。

(1)世界で唯一株価が低迷している日本の企業にとって最大のリスクは買収である。例えばパナソニックは三洋電機を買収して1位・2位連合を結成したが、外国資本がパナソニックを買収すれば日本は電池産業の中核2社を同時に失うことになる。その可能性は小さくない。
(2)パナソニクの時価総額は2.6兆円であるが、利益剰余金も同額の2.6兆円である。かりに外国企業が3.6兆円を投入して買収したとすれば、2.6兆円の利益剰余金が手にはいるから実質的な資金負担は1兆円に過ぎない。
(3)世界1のトヨタも時価総額10兆円に対して11.5兆円の利益剰余金を蓄積しているからタダ同然で買収できる。その上買収後に傘下の日本電装やトヨタ織機等の株式を売却すれば、巨額のおつりが来る。
(4)リチウムイオン電池に不可欠の素材関連企業にも隙が多い。例えばフィデリティ投信が発行株式の8%を取得した電解質大手の関東電化は時価総額が300億円に過ぎない。
(5)欧米の経営者は、買収を未然に防ぐために含み益で自社株を買い、時価総額を大きくして買収しにくくする。また先手を打って、含み益を競合企業の買収に投入する。
(6)ゴールドマン・サックスの最大の収益部門は企業買収である。買収を積極的に提案し斡旋するための多彩なノウハウを蓄積している。
(7)海外には、日本企業ほど内部留保が厚く、含み益が大きな企業は存在しない。あればとっくに買収されているからである。買収という視点で見れば日本は宝の山である。
(8)日本の銀行と企業が買収に備えて相互に株式を持ち合うのは当然の防衛策である。株式持ち合いを批判するエコノミストは欧米の資本市場の熾烈な買収戦略を知らない。

(八)日本経済の活路は電池にある。

(1)鳩山首相は、就任直後の国際会議で「地球温暖化防止のために日本は炭酸ガスを25%削減する」という公約を掲げて喝采を浴びた。
(2)その後の数ヶ月間に国際的な電気自動車の開発競争が熾烈化し、「21世紀は電池を制する企業が世界を制する時代」となった。
(3)その電池産業で今、世界1位の三洋電機に世界2位のパナソニックがTOBを仕掛けた。
(4)さらにパナソニックは「マイクログリッド」の構想を発表し、家庭や工場が太陽電池で集めた電気を効率的に蓄電し、相互に貸し借りするシステムを具体化した。
(5)鳩山首相は、なぜ電池産業を日本経済の成長戦略の中核に据えて炭酸ガス25%削減目標を国家プロジェクトとして推進しないのだろう。
(6)民主党政権はマニフェストに掲げた選挙公約に金縛りとなって、日本経済をデフレから脱出させるための経済政策、金融政策が打ち出す余裕を失っている。
(7)私は、世界1の電池企業、世界屈指の成長企業である三洋電機が150円にたたき売られる株式市場が正常だとは思わない。
(8)以上が現在の私の相場観である。