2009/11/24

  2009年11月24日(火)
  三洋電機の株価と実力。

(一)住友信託等2社が2億株余を取得。

(1)財務省は11月20日、住友信託と日興アセットが合計2.1億株(発行株式の6.22%)を取得したと開示した。
(2)発行株式数の5%を超える株式を売買した当事者はその名義を1週間以内に財務省に報告する義務がある。財務省はさらに1週間以内に投資家にその名義を開示する義務がある。つまり投資家が売買の事実を知るのはおよそ2週間後となるから、今回の約定は5日、6日、9日のいずれかに行われたと推定される。
(3)今回の2億株余の売却は安定化の第1弾で、残りの大半も前後して安定株主に譲渡された可能性が高い。今週の財務省の情報開示に注目したい。
(4)そうなれば、予想外の大量売却で暴落した株価は落ち着きを取り戻すだろう。

(二)4,800万株のカラ売り(借り株)の行方。

(1)もう一つの波乱要因は4,800万株のカラ売り(借り株を用いた実弾売り)の行方である。ヘッジファンドがさらに売り乗せるか、或いは買い戻しに転じるか。今、分岐点を迎えている。
(2)外資系証券は、顧客であるヘッジファンドの売り叩きと買い戻しを支援するために強気レポートと弱気レポートを平気で使い分ける。今回も、ドイツ証券とシティグループが11月2日にそろって目標株価100円の超弱気レポートを出した。
(3)その2社は三洋電機カラ売りの1位と2位である。18日現在、外資系証券のカラ売り(借り株)は4,800万株に達しているが、そのうちドイツ証券とドイツ信託が2,500万株、シティグループが1,192万株と、両社で過半数を占めている。
(4)裏を読めば、信用買いの投げ売りを誘うために両社は共同で超弱気レポートを出したが、実は目標株価の100円はあり得ない。この時点ではマスコミの一斉報道でパナソニックが5日にTOBを開始し、131円で無制限に買うことが明らかであったから、130円以下の安値はつくはずがない。
(5)つくはずがない安値を目標に挙げて買い方の動揺を狙った粗雑な調査レポートは外資系証券がヘッジファンドを支援する時に用いる常套手段である。
(6)20日には日証金の取り組みが好転した。私はヘッジファンドの買い戻しと信用取引の投げ売りが交錯した結果とみた。100円レポートで買い方が動揺した隙にヘッジファンドが買い戻しに転じた可能性がある。ヘッジファンドは借りた4,800万株を約束した期日に返さなくてはならない。ヘッジファンドはカラ売りも現物、買い戻しも現物だから、買い戻しに転じれば信用取引の取り組みが好転する。
(7)ヘッジファンドの横暴は腹立たしいが、現実に三洋電機の株価は外資系証券とヘッジファンドの思惑にほんろうされている。
(8)しかし短期的に波乱があっても、株価を決定するのは将来の成長力である。以下に私が知っている三洋電機の近況を述べてご参考に供したい。

(三)自動車電池で独走態勢に。

(1)数ヶ月前に、本間副社長は次のように述べた。
 第1に、2012年3月までに2,900億円の設備投資を行う。
 第2に、銀行団から2,000億円の融資枠を取得している。
 第3に、電気自動車時代が本格到来する2020年に世界シェア40%を取る。
(2)現実は本間副社長のコメントを上回るスピードで進行している。現在までに三洋電機とパナソニックがトヨタとホンダのHV車に供給したニッケル水素電池は300万台以上で市場シェアは100%である。
(3)三洋電機はトヨタ、ホンダに加えて、フォルクスワーゲン、フォード、プジョーともHV車の開発で提携している。
(4)来年7月に操業を開始する加西新工場はリチウムイオン電池で世界初の量産工場となる。リチウムイオン電池は安定性に課題があり、特に量産は至難である。
(5)ちなみに、中国のBYDは世界1のカリスマ投資家であるウォーレン・バフェットの投資を受けて株価が大暴騰したが、リチウムイオン電池の開発が難航し、株価が急落した。これらの現実は三洋電機が築いたトップシェアが偶然の所産ではないことを示している。
(6)年内発売のトヨタに続いてホンダもリチウムイオン電池搭載車の発売が近い。両社ともEV車(電池のみで走行)ではなく、HV車(ガソリンエンジン併用)である。
(7)EV車の本格的発売を予告するメーカーは多いが、リチウムイオン電池の大量生産が前提条件となる。EV車の走行に不可欠の充電スタンドの普及が進まないのも障害となる。
(8)これに比べて三洋電機陣営の戦略は実戦的で、HV車で先ず量産体制を構築する。HV車はガソリンエンジンを併用するからリチウムイオン電池の負荷を軽減する。HV車は走行地域に制約がなく、販売価格もEV車より100万円以上安い。
(9)三洋電気は全方位販売を宣言しているから、加西の量産工場が稼働する来年7月以降には世界中のEV車メーカーがリチウムイオン電池の供給を申し入れる可能性がある。
(10)大量生産で先行すれば、コストダウンでも先行するから、三洋電機は競争力を一段と強化するだろう。

(四)連続無充電走行で世界新記録。

(1)日本EVクラブは17日、ダイハツのミラに三洋電機製リチウムイオン電池を搭載したEV車で連続無充電走行560キロの世界新記録を樹立した。雨中走行でワイパーを用いたが、50キロ以上の余力を残した。
(2)今回はノートパソコン用電池を使用し、蓄電池の技術水準の高さを証明した。
(3)東京日本橋から大阪日本橋まで、EVクラブが走行状況をリアルタイムで報道し、ホームページに記録的なアクセスが集中した。
(4)三洋電機は太陽電池でも電気転換効率の世界記録を連続して更新している。

(五)太陽電池も世界ビッグ3へ。

(1)太陽電池でも設備投資が急ピッチで進行している。太陽電池用セルを二色の浜、鳥取で。モジュールを大津、二色の浜、ハンガリー、メキシコで大増産し、4年間で生産を4.4倍に拡大し、世界ベスト3入りを目指す。
(2)パナソニックは三洋電気の太陽電池をベースに新規事業「家丸ごと電池」を立ち上げて、販売に注力する。
(3)三洋電機もエナジーソリューションの新規事業を立ち上げて加西工場を「工場丸ごと電池」のモデル工場とし、4年後に1,000億円の売り上げを目指す。

(六)電池を制する企業が世界を制する時代。

(1)クリーンエネルギーの追求は21世紀に生きる世界人類共通の目標である。今や電池を制する企業が世界を制する時代となった。
(2)太陽電池と自動車電池に経営資源を集中した三洋電機は電池で世界屈指の競争力を鮮明にしている。