2009/10/19

  2009年10月19日(月)
  フィディリティの投資哲学。
  私の相場観。

 I フィディリティの投資哲学。
(一)電池関連に集中投資始まる。

(1)フィディリティ投信が電池関連銘柄に集中投資を始めた。フィディリティの大量保有報告書によれば、下記3銘柄は5%突破後も買い増しを続けており、直近の保有株式は次の通りである。

田中化学研究所
6.55%
811,300株
関東電化工業所
6.31%
3,634,000株
戸田工業
6.31%
2,846,000株

(2)株価は何れも数倍に急騰したが、高値圏で超然としており、買い増しが続いていると見える。
(3)3銘柄以外でもステラケミファ、日本電工、日立化成等、電池の素材関連株がそろって急騰している。買い手不在といわれる東京市場で、自動車電池の素材関連株への集中投資が衰える気配は見えない。
(4)フィディリティが上記の3銘柄以外にも関与している可能性は十分ある。フィディリティ投信の歴史を見れば、「悪材料で買い好材料で売る」「悪環境で買い好環境で売る」という固有の投資哲学が一貫しているからである。

(二)ピーター・リンチの伝説。

(1)フィディリティは過去数十年間、世界最大の投資信託会社の地位を維持している。
(2)フィディリティは傑出したファンドマネージャーを擁しているが、採用条件に「変人である」という一風変わった項目がある。
(3)フィディリティは運用資金が巨大ゆえに池の中の鯨となり、好材料を追えば天井買いとなり、悪材料を追えば底値売りとなりやすい。これを避けるためにファンドマネージャーは悪材料で買い、好材料で売るという常識に逆行した運用手法が要求される。これには綿密な調査や会社訪問の他に並み外れた度胸が必要となる。
(4)フィディリティの旗艦ファンド「マゼラン」の運用で不動の名声を確立したピーター・リンチは、1978年の第2次オイルショックで倒産の危機に瀕したファニーメイやクライスラーの底値を一手に買い向かい、株価20倍の大当たりを取ってトゥエンティバーガーと賞賛された。当時マクドナルドが2階建てハンバーガーを売り出して人気を集めていたのにちなんで「20階建てハンバーガー」という尊称を奉られたのである。
(5)しかしピーター・リンチといえども、名声を確立するまでに並はずれた度胸と忍耐の期間が必要であったことを忘れるべきではない。

 II 私の相場観。
(一)相場観と相場解説。

(1)マスコミで言う「相場観」は、相場観とは無縁の「結果論」、或いは「結果の解説」に過ぎない。エコノミストは過去のデータを分析して解説するから的中するのは当たり前であるが、未来は必ずしも過去の延長線上にはない。先見性を競う相場の世界では「周知の事実」は相場が折り込んでしまっているから、結果論に従うと「高値づかみ・底値売り」となりやすい。
(2)だからこそ「人の行く、裏に道あり、花の山」が不滅の格言となったのである。
(3)巨大資金を運用するフィディリティは結果論を排除して先見性に賭けるためにあえて「変人」をファンドマネージャーの採用条件に加えた。そしてピーター・リンチは「変人」ゆえにマゼランファンドの名声を高め、伝説の人となったのである。
(4)株式投資は今やグローバル投資の時代となった。日本の投資家は資源大国ブラジルや、新興経済大国中国の投信を自由に売買することができる。しかしブラジルや中国にも斜陽産業があり、日本にも成長産業がある。
(5)私は、日本はもちろん世界中を見渡して、自動車電池ほど今後数十年にわたる高度成長を約束された産業はないと思う。人類は今、生き残りを賭けてクリーンエネルギーを追求し始めた。これを受けて世界ダントツの超巨大産業である自動車で、ガソリンエンジンから電気モーターへという技術革新が始まった。
(6)時代の変化を好機と見てフィディリティが静かに電池関連株を買い始めたのは当然である。

(二)電気自動車時代をけん引する京阪神。

(1)電気自動の技術革新は安価で高性能の電池の開発競争に絞り込まれている。
(2)自動車電池とその関連産業の大半が日本の、京阪神に集積している。中核を占める電池メーカーは三洋電機、パナソニック、GSユアサ、新神戸電機である。さらにその外周に多彩な素材メーカーの生産設備や電池関連の研究拠点が集中している。将来も京阪神は世界的な生産、開発の先端地域であり続けるだろう。
(3)電池の本命がニッケル水素電池、リチウムイオン電池、燃料電池のいずれに固まるかはまだ不明である。本格的な電気自動車時代が始まると見られる2020年まではハイブリッドカー優位の時代が続くという意見も有力である。
(4)自動車電池でどのシステムが勝つとしても、現に世界の蓄電池の市場シェアで1位、2位を占める三洋電機とパナソニックが不動の本命であることに変わりはない。だからこそ両社の資本提携が独禁法の事前審査で難航したのである。
(5)その独禁法審査は最終局面を迎えたが、TOBが完了するまで、三洋電機とパナソニックは新しい情報開示を控えるだろう。しかし素材供給メーカーの間では生産能力を4倍に引き上げる大型の設備投資計画が次々に表面化している。
(6)電池銘柄も、新神戸電機とGSユアサは年初来5〜6倍に暴騰したが、現在も高値圏で超然としている。背後に大口投資家の存在が感じられる。
(7)これに対して本命の三洋電機は数ヶ月前に、2020年に世界の電池シェア40%を目指す、2011年3月までに太陽電池と自動車電池等で2,900億円の設備投資を行う、銀行団から協調融資枠を確保した、と発表した後、独禁法の交渉が進行するにつれて情報開示が停止し、株価が反落した。
(8)しかし大型の設備投資に踏み切った素材メーカーの最大の納入先である三洋電機とパナソニックが手をこまねいて何もしていないとは考えられない。私はTOBの完了をまって両社の生産体制の進捗状況が一挙に開示されると思う。
(9)現在の相場環境はピーター・リンチが名声を確立した第2次オイルショック時よりもはるかに厳しい。しかしピンチをチャンスに変えるフィディリティの投資哲学をもってすれば電池関連株に集中投資を始めたのは当然だろう。地元の日本の証券会社が電池関連株ファンドを競って設定する日も近いと私は思う。