2009/9/28

  2009年9月28日(月)
  今、なぜ、三洋電機か。

(一)三洋電機の週足。

(1)25日の大引け直前に今3月決算の減額修正(300億円の赤字)がもれて、株価は安値引けとなった。
(2)しかし、決算内容は悪くなかった。洗濯機の欠陥で100億円の赤字を計上した以外に、割増退職金で111億円、TOBの資料作成と弁護士料50億円等、営業外の費用がかさんだが、肝心の営業利益は250億円の黒字を据え置いた。
(3)株価は13週移動平均線の230円にタッチし、下限に達したのではないか。
(4)枝葉末節よりも、パナソニックのTOBを阻んでいた条件が、次項の通りに決着した点に注目したい。

(二)TOB開始は目前。

(1)大株主3社の売却条件が確定した。
(2)三井住友銀行と大和証券は、それぞれ全優先株(普通株換算16億株)をTOBに応じて131円で売却する。両社の推定利益は1,000億円である。
(3)ゴールドマン・サックスは半分(8億株)をTOBで売却するが、半分を市場で売却する。
(4)パナソニックは独禁法審査の過程で三洋電機を合併せず、子会社にする、と発表していた。
(5)今回の発表は、パナソニックがTOBによって取得する株式数を全発行株式の3分の2以下(60%)に縮小することで妥結したことを示している。これをもって10ヶ月に及んだ独禁法の事前交渉が決着したと推定される。
(6)ゴールドマン・サックスは手元に残す優先株を即日普通株式に転換した。その8億株の売却方法について次項で私見を述べたい。

(三)ゴールドマン・サックスの8億株の行方。

(1)第1の選択肢は、市場での逐次売却である。三洋電機は大型株であるが、浮動株は10〜20億株程度だろう。パナソニックが取得する60%は絶対的安定株だから、ゴールドマンが手にした12%、8億株は三洋電機の株価を支配するに足る株式数である。私は、100戦錬磨のゴールドマンがようやく手に入れた金の卵を市場でたたき売る愚策を選ぶとは思わない。
(2)第2の選択肢は、トヨタ、ホンダを含む世界中の自動車大手や電気大手や機関投資家への売却である。三洋電機自身は10年後の世界シェアを40%と見ているが、パナソニックの後ろ盾を確保すればさらに拡大する可能性が高い。21世紀最大の成長分野における最有望企業の株式を取得したい投資家はいくらでもある。
(3)第3の選択肢は、ゴールドマン自身が8億株を種玉に大相場を演出する。私は第3の可能性が高いと思うので、その理由と背景を以下に詳述したい。

(四)暴騰した電池関連株。

(1)パナソニックが11ヶ国・地域との独禁法事前審査で苦闘している10ヶ月間に、電池関連株が軒並みに暴騰し、株価水準が様変わりとなった。
(2)131円のTOB株価は10ヶ月前でも割安であったが、今となっては非現実的な株価である。それだけにゴールドマンが手にした8億株は宝の山となる。
(3)折しも先週、世界最大の投資信託会社であるフィデリティが田中化研株6%に次いで戸田工業株5%を取得したと発表し、株価急騰の主役の一角が姿を現した。
(4)さらに25日に、NY市場に新規上場したA123は1度も黒字を計上したことがないベンチャー企業であるにもかかわらず、13ドルの公募株価に対して一時は21ドルの高値を記録した。ちなみにA123は戸田工業と同業で、米国での工場建設で戸田工業と共に米国政府から大型の資金援助を受けている。
(5)自動車用電池で日本の独走を許していた米国で、政府が開発支援に本腰を入れ始めたという観測を受けてA123が人気を集めたのである。
(6)悪環境の東京市場で、先週もステラケミファ、関東電化等の電池関連株が連続して高値を更新した。自動車用電池メーカーの新神戸電機やGSユアサは、下押したとはいえ4倍以上の年初来高値を維持している。
(7)そんな環境下で、蓄電池で世界1、自動車用電池でも世界1が確実視される三洋電機が独禁法審査に阻まれて安値圏に取り残されている。ゴールドマンがこれほどの好機を見逃すとは、私には思えない。

(五)電池を制する企業が電気自動車を制する。

(1)第1に、ケータイ、パソコン等の蓄電池市場で三洋電機は世界1位、パナソニックが世界2位である。
(2)第2に、両社は自動車用ニッケル水素電池で独占的地位を確立した。
(3)第3に、次世代のリチウムイオン電池でも三洋電機の生産規模はダントツで、トヨタの受注を確定している。
(4)三洋電機とパナソニックが合併すれば市場シェアが高くなり過ぎると見たからこそ、独占禁止法の事前審査でTOBに待ったがかかったのである。
(5)三洋電機と提携しているフォルクスワーゲンやフォードの他、多くの自動車メーカーが電気自動車に先立ってハイブリッドカーに進出する意向を示している。ハイブリッドカー時代は2020年まで続くという観測が有力で、その場合、ニッケル水素電池で圧勝した三洋電機とパナソニックの優位がますます鮮明となる。そこまでは勝負がついた。
(6)ニッケル水素電池に次いで電気自動車時代の主流と見られるリチウムイオン電池でも両社が圧勝する可能性は高い。
(7)ちなみに三菱自動車のアイ・ミーブは400万円の製造コストのうち250万円が電池代である。すでに大量生産時代に入ったハイブリッドカーの販売価格は200万円以下だから、電気自動車が本格的に普及するためにはリチウムイオン電池が100万円以下に値下がりする必要がある。
(8)このような開発状況を見れば、電気自動車時代の主導権を握る企業は自動車メーカーではなく、電池メーカーだろう。

(六)三洋電機の優位は鮮明。

(1)三洋電機の本間副社長(日本電池工業会会長)はそこまでを見通した上で、電気自動車時代が本格化する2020年に世界シェア40%を目指すと表明している。
(2)現に、2011年3月までの三洋電機の設備投資計画は2,900億円で、競合各社の投資計画を桁違いに上回っている。
(3)三洋電機がパナソニックの傘下に入れば、両者を合わせた世界の自動車用電池シェアは50%を超えるだろう。
(4)TOBの終了を待って、パナソニックと三洋電機は水面下で進行中の自動車用電池と太陽光発電の共同開発計画を次々に開示するだろう。
(5)実戦面では、TOB終了後のゴールドマン・サックスの出方に注目したい。
(6)1年後、3年後、10年後と射程距離を長く取れば取るほど、三洋電機の優位は鮮明だと私は思う。