2009/7/6

  2009年7月6日(月)
  私の強気の相場観。

(一)「不景気の株高」は景気好転の先行指標である。

(1)現在は典型的な「不景気の株高」局面である。不景気の株高は次のような課程を経て現在に至っている。
(2)エコノミストは統計データから「消費が増えない」、「失業率が改善しない」と弱気論を合唱している。証券界でも2番底論が多い。彼らはあたかも水戸黄門が葵の紋の印籠をかざして「控えよ、頭が高い」と悪人をにらみ据えるように、統計データを振りかざして投資家を威嚇している。
(3)しかし世界の株価はエコノミストの弱気論を嘲笑するように、3月以降月を追って上昇した。上海市場に至っては年初来80%も大暴騰した。
(4)なぜエコノミストの弱気論が外れたかといえば、景気が悪ければ悪いほど各国の政府が協調して財政投融資を積極化し、金融をジャブジャブにゆるめたからである。
(5)確かに政府がいくら金融をゆるめても、実勢悪を恐れる企業は設備投資に踏み切るどころか人員整理を先行させている。個人も消費を絞り込んだままである。
(6)だからこそ、ジャブジャブのマネーは行き場を求めて株式市場に流入した。それが「不景気の株高」である。
(7)マネーは株式市場に次いで不動産市場に流入した。米国では、1. 先ず住宅ローンの新規申請が増勢に転じた。2. 次いで中古住宅の流通在庫が減少に転じた。3. 更に中古住宅価格が底入れする地域が増えた。ここまで来れば、4. 新築住宅の着工件数が増える、のは時間の問題である。
(8)日本でもリート(不動産投資信託)の指数が30%以上急騰した。大手不動産会社は前期末に販売用マンションの在庫評価を大幅に切り下げて赤字処理したから、4月以降は値下げしても利益が出る。大手不動産会社の株価は軒並み2倍以上に急騰した。マスコミは今、路線価格が急落したと大騒ぎしているが、そのデータは1月現在の集計で、現在の実勢との間にかい離がある。
(9)株式、不動産に次いで海運市況や商品相場も反騰に転じた。5〜6月には電子部品、半導体、テレビが底入れし、ハイブリッドカーには受注が殺到した。
(10)例え水面下にあっても、月を追って好転する業種が着実の増えている状況が重要である。財政投融資とジャブジャブ金融の効果はすでに随所に現れている。

(二)7〜9月期には景気と業績が好転する。

(1)前項で私は、統計データはマイナスでも、月次で見れば3月以降はマイナス幅が縮小していると指摘した。株価は景気好転を先見して上昇したが、7〜9月期にはどんな変化が予想されるだろうか。
(2)第1に、株価と地価が上昇すれば、企業は担保力が増える。更に在庫調整が進めば設備投資に踏み切る。個人は株価と住宅価格が底入れすれば、財産が増えるから財布のひもをゆるめる。生産と消費が増えれば景気が好転し、雇用が増える。
(3)それゆえ「不景気の株高」は景気好転の先行指標である。
(4)1920年代に大恐慌が発生したが、30年代にケインズが登場して「政府が財政投融資によって有効需要を起こせば不況を克服することができる」と主張した。ケインズ以後、人類は不況を克服する英知を学び、大きな不況を経験していない。
(5)いま、世界経済は100年に一度の不況に遭遇したが、政府が100年に一度の財政投融資とジャブジャブ金融を断行すれば、恐慌を防ぐことは可能である。
(6)私は、第3四半期(7〜9月)には景気好転を示す指標が表面化すると思う。米国では金融機の決算が好調を維持し、自動車販売が底入れするだろう。日本では製造業が在庫調整を終えて増産に転じ、電気自動車や太陽光発電関連のニュービジネスが成長力を加速するだろう。
(7)弱気に傾きやすいエコノミストに対して、投資家は金銭を賭けて先見性を競うから、株式相場は6ヶ月先の景気を先見する。「不景気の株高」はエコノミストの机上論ではなく、真剣勝負の投資家が先見した景気である。

(三)押し目買いに分。

(1)3月以降、世界の株式市場は底入れ、反転が次第に鮮明となった。日本は、1. 成長力抜群の中国市場との接点が多い。2. 金融機関が受けた打撃も欧米に比べて小さい。3. 有望な電気自動車市場で先端技術と先行投資が噴出している。それゆえ景気と株価の回復力は欧米より高くて当然である。
(2)だからといって相場は一直線に動くわけではない。株価が調整局面を迎えるとすかさず弱気論が台頭するが、最大の悪材料である雇用は、さらなる悪化よりいつ好転するかを模索する段階に移っており、相場の上昇基調を逆転させるほどの力はない。
(3)ヘッジファンドは規制強化によって資金源を分断されたから、昨年末から年初にかけて恐怖の売り大手となったが、売るべき株は売り切った。外国証券による先物主導の売り仕掛けはあるが、一方的に積み上がるほどではない。日本では借り株が禁止されたから外国人の集中的な売り崩しが消えた。東京市場で70%を超えていた外国人の市場占有率は50%を割り込んだ。外資系証券のレポートも格下げより格上げが増えた。
(4)個人投資家は、暴落局面で猛威を振るったカラ売り筋が一転して窮地に追い込まれた。GSユアサを初めとする仕手株が大取り組み、大商いで大相場を形成した。信用取引の取り組みは依然として売り買い接近の銘柄が多い。
(5)大多数の個人投資家は塩漬けの株が息を吹き返して元気が出た。
(6)私はもちろん押し目買いに分があると思う。
(7)特にエコノミストの弱気論がマスコミをにぎわしている間が買いの好機である。エコノミストと大証券が強気論を合唱する時には相場のおいしい局面は終わっているだろう。

(四)過熱一途の電気自動車開発競争。

(1)三菱自に続いて、日産が2012年にアメリカでNECと共同で電気自動車を10万台生産すると発表した。日立は2015年にGM向けリチウムイオン電池70万台を供給すると発表した。
(2)日産と日立は共にハイブリッド型と思われるが、機能や充電システムなどの内容の開示に具体性が乏しく、存在感を示すために目標数字を掲げたに過ぎないと見る向きもある。
(3)そこへ4日付け日経は、トヨタがパナソニックと共同で家庭充電型ハイブリッド車を開発し、12年から年間2〜3万台を生産すると発表した。
(4)現行のハイブリッド車がブレーキを踏んだ時のエネルギーで充電するのに対して、プラグインハイブリッドは外部の電源プラグから大容量の電気を充電する。モーターによる走行時間が伸びるから排ガスやガソリンの消費を抑えることができる。しかしトヨタの技術力を用いても充電に要する時間が長く、価格が三菱自と同じ400万円台という重大な欠点が解消できないから、同じトヨタの現行のハイブリッド車の生産量とは2桁違いの大差がある。
(5)電気自動車が本格的に普及するためには、電池の大幅な価格低下と、革命的な充電時間の短縮と、充電基地の普及が不可欠で、本格的な電気自動車時代の到来は10年後の2020年以降という市場予想に大きな変化は認められない。
(6)小型車であれば現行のニッケル水素電池搭載のハイブリッドカーで十分だという。そうなると川重が開発したニッケル水素電池の10秒充電は革命的技術である。川重は車両やバスなどの大型車で5年後の実用化を目指すと発表した以外は情報開示を拒んでいるが、株価には注目が怠れない。
(7)現実には電気自動車は電池メーカーの技術開発力と大量生産によるコストダウンが競争力の決め手となる。GSユアサや古河電池や新神戸電機が自動車株の低迷を尻目に大暴騰を演じたのは開発競争が自動車メーカーではなく、電池メーカー中心の展開となることを示している。
(8)3日付毎日新聞の三洋電機本間副社長のインタビュー記事によれば、1. 2020年に自動車用電池でシェア30〜40%を目指す。2. リチウムイオン電池は年産2万台の徳島工場に続いて年産10万台の兵庫県加西工場が来年に稼働する。3. 加西で第2、第3の工場建設をパナソニックと協議中である。現実の生産量は三洋電気とパナソニックが飛び抜けており、パナソニックの傘下入りで全面的支援を受ける三洋電機が2020年までトップランナーであり続ける可能性は十二分にある。
(9)三洋電機の営業利益予想は今期250億円(前期比3倍)、来期900〜1,000億円である。2020年の予想利益を試算してみたが、販売量、販売価格、車種構成など、変動要因が多すぎて、公表するには至らない。
(10)私は、電気自動車ほど長期にわたり広範な企業を引きつけて止まない未来の超巨大市場が他に存在するとは思わない。投資家の人気と期待が大きいのは当然だろう。