2009/6/15

  2009年6月15日(月)
  三洋電機と川重。

(一)川重が驚異の技術革新。
    <10秒で充電できるニッケル水素電池を開発>

(1)6月10日付け日経によれば、川重が独立行政法人・産業技術総合研究所と共同で充電時間を10秒以内に短縮するニッケル水素電池を開発した。電気自動車時代の幕開けを予感させる画期的な技術革新である。
(2)川重は5年前にすでに10分で充電できるニッケル水素電池を開発しているから、実用化のための研究開発と技術的蓄積は5年を大幅に超えている。
(3)10秒といえば停留所で停車中に瞬時に充電できるから、架線のない電車でも、ディーゼルエンジン車両でも、大型バスでも、ニッケル水素電池とモーターだけで運行することができる。実用化の時期も早いだろう。
(4)ニッケル水素電池に比べると、リチウムイオン電池は小型で充放電容量が大きいから、電気自動車時代の本命と期待されている。しかし実用化のためには、1. 電池のコストが150万円と高価である、2. 充電に長時間を要する、3. 発火のリスクがある、等の欠点を克服する必要がある。
(5)これに対してニッケル水素電池は安価で発火の恐れがない。すでにプリウスやインサイトに搭載されてそれぞれ月産2万台以上の量産体制に入っている。しかしガソリンエンジンを併用しているから本格的な電気自動車ではなく、ハイブリッドカーと呼ばれる段階にある。
(6)もし現行のハイブリッドカーに川重の10秒充電の技術を導入すれば、ガソリンエンジンを撤去し、空きスペースにスペア電池を併設することによって、そのまま実用性が高い電気自動車に変身させることができる。
(7)ニッケル水素電池は充電量で劣り、サイズも大きいが、安価で安全である。川重自身は大型の電気バスや車両の開発に注力しているから、中小型の電気自動車にも応用が可能だろう。

(二)ニッケル水素かリチウムイオンか。

(1)技術革新は多様で日進月歩である。川重の技術開発は電気自動車開発の道筋が一本だけではないことを示した。
(2)そもそも自動車は電気自動車の開発から始まったが、安価で走行距離が長いガソリンエンジンに主導権を奪われた。
(3)今日では石油相場の高騰と大気汚染を防ぐ目標から、電気自動車の開発が急務となっている。
(4)大気中から無制限に採取できる水素を燃料とするために、水素を最も効率的に吸蔵する素材としてニッケルを用いたニッケル水素電池が開発された。パナソニックは1990年に充電式ニッケル水素電池を開発し、その後も三洋電機と共同で数々の技術を開発した。プリウスにパナソニックが、インサイトに三洋電機がニッケル水素電池を供給しているのは永年の研究の成果であって、偶然ではない。
(5)さらに蓄電効率の良さと小型化でリチウムイオン電池が浮上し、電気自動車の本命と目されたから、周辺銘柄の株価が人気化した。
(6)そこへ先週、川重が充電時間を10秒以内に短縮するニッケル水素電池を開発したという情報が飛び出した。
(7)いずれが電気自動車時代の本命になるかは予断をゆるさない。大型車はニッケル水素電池、小型車はリチウムイオン電池という棲み分けの可能性もある。しかし実用化の決め手となるのは価格だろう。
(8)いずれの研究開発でも、日本が完全に主導権を握っている。電気自動車関連株がウワサだけで急騰するエキサイティングな株式市場は世界で東京だけである。

(三)三洋電機はクリーンエネルギー時代の大本命。

(1)三洋電機はニッケル水素電池をホンダに供給しており、インサイトの販売状況から逆算して年間生産台数は公表の16万台を上回るだろう。
(2)三洋電機はリチウムイオン電池の年産能力を12万台に拡大しており、トヨタの新型電気自動車に供給すると思われる。トヨタは年内発売を公表しており、台数、価格とも三菱自動車の販売台数を凌ぐ可能性が高い。
(3)三洋電機はフォルクスワーゲンとも電池の生産開発で提携している。
(4)三洋電機は太陽光発電でも発電効率の世界記録を連続して更新している。
(5)三洋電機は電池と太陽光発電の研究開発と工場建設を自力で断行した唯一の企業である。リスクを背負った自力開発は合弁とは根本的に異なり、将来の価格決定権と海外の自動車メーカーへの販売権を持つ。
(6)しかも三洋電機は2011年3月までの設備投資を2,900億円と公表している。100年に1度の不況下における突出した投資計画は技術力と販売力と収益力に自信がなければありえない決断である。
(7)パナソニックによるTOBについては、両社の首脳が7月と述べているから、独禁法問題は6月中にも解決する可能性が高い。TOBが終われば、パナソニックもまた進行中の開発情報を一挙に開示するだろう。パナソニックの株価にも注目を怠れない。
(8)パナソニックの支援を得た三洋電機は、どの角度から見てもクリーンエネルギー時代の大本命株だと私は思う。

(四)ダークホースに浮上した川重。

(1)川重は5年前にすでにニッケル水素電池の充電時間を10分に短縮する技術を開発しており、今回の10秒はその延長線上にある。車両や大型バスの実用化についても5年以上の技術開発を蓄積しているから、実用化の時期は早いだろう。
(2)川重の新型ニッケル水素電池は、電気自動車や電気車両開発の新たな道筋を示した。川重は10秒充電のノウハウを周辺業界に供与して技術革新の一方の盟主となる可能性がある。

(五)「不景気の株高」と技術革新。

(1)暴落局面で、私は終始一貫「不景気の株高が近い」と主張した。
(2)不況が深刻であればあるほど政府は財政投融資を拡大し、中央銀行はジャブジャブに金融を緩和するから、マネーと株式の需給関係が逆転して「不景気の株高」が起こることはケインズ以後の金融市場の歴史が明快に証明している。
(3)「価格は需要と供給の接点で決まる」という古典経済学の需給理論もまた、現在に生き続ける不滅の経済原則である。
(4)多くのエコノミストが統計データを分析し、現在の株価は景気の実態を反映していないから、反落は必至だと論評しているが、彼らが重視する統計データは過去の事実に過ぎない。未来は常に意外性に満ちている。
(5)特に証券界は昭和40年の証券不況を田中蔵相の財政政策と宇佐見日銀総裁の金融政策に救済された。株価の暴落時に設立した日本共同証券や保有組合が「不景気の株高」の恩恵を受けてあっという間に巨額の利益を蓄積した事実を、証券界の若い論客は忘れてしまったのだろうか。田中角栄の英断を評価しないエコノミストにはオバマ政権や麻生内閣の決断がもたらす経済効果が見えないのだろう。
(6)「株価は景気と連動する」というエコノミストの常識も株式市場では非常識である。実践的な投資家は財産を賭けて景気の先読みを競うから、株価は景気の6ヶ月先を先見する。机上で統計データを分析するエコノミストが景気に太鼓判を押した時には相場のおいしい局面は終わっている。
(7)株価が景気に与える影響も大きい。株高は株主の財産を殖やし、土地高を誘発し、企業の担保力を高めて、設備投資を活性化する。投資家は株高、土地高で財産が増えるから消費を増やす。それゆえ株高は景気を好転させる力がある。
(8)しかし好不況の波は個別の産業や企業の盛衰に重大な影響を与える。例えば電気自動車時代の到来は電池関連企業の急成長をもたらす一方で、エンジン関連企業の衰退をもたらす。
(9)電池関連でも、生き残る企業と脱落する企業がある。特に現在は理想買いが先行しており、業績を無視した人気銘柄には危うさが見える。実体価値と相場の若さから、私は三洋電機と川重を取り上げた。