2009/5/11

  2009年5月11日(月)

(一)悪材料消えたシティグループ。

チャート1 シティグループの日足(東京市場)
シティグループ

(1)日経は度々シティのストレステスト不合格説を報じたが、私はヘッジファンドが苦しまぎれに流した風説ではないかと述べていた。根拠は次の通りである。
(2)先に借り株を用いて株価を売り崩し、リーマンを倒産に追い込んだヘッジファンドは、次の標的をシティに絞り込んだ。倒産説の根拠はシティが保有する60兆円の証券化商品の評価損にあった。
(3)昨年日経が「サブプライムローンを含む証券化商品は、AA格債でさえ80%も大暴落した」と報じた時、私は即座に次の疑問を呈した。
 1. 80%の大暴落は買い手不在の中で記録した「瞬間風速の気配値」に過ぎない。
 2. 償還まで持てば70%程度は回収可能だろう。
 3. AA格債といえば日本国債かトヨタ並みの最高格付けで、80%も大暴落すれば米国の債券市場の信用構造が崩壊する。
 4. 格付け会社が投資家から訴訟を受けていない所を見ると、実体は気配値ほど悪化していないのではないか。
(4)果たして4月に米国は会計基準を変更した。証券化商品の評価方法を改正し、1〜3月期に遡って適用可能とした。具体的には私が指摘していたとおり、
 1. 瞬間風速や気配値で記録した価格は銀行の裁量で修正できる。
 2. 償還まで保有する場合には、予想される償還金を評価基準に採用できる。
(5)会計基準の変更を見て私は、シティはストレステストに合格すると確信し、以後連続して推奨株のトップにあげた。
(6)倒産の可能性がなくなれば、株価は10ドル(1,000円)を回復するだろう。
(7)シティは3月の安値1ドルから先週末には4ドルに急騰したが、一昨年の50ドル台に比べればまだ底値圏に張り付いている。
(8)かねてから私は、ヘッジファンドが売り崩しに失敗した場合に起こる凄惨な踏み上げについて、2つの事実を紹介しているので、再録して参考に供したい。
(9)欧米では巨大な借り株を用いた売り崩しが横行している。また欧米には値幅制限がないから、大暴落が起こる代わりに大暴騰も起こる。

(二)フォルクスワーゲン買収の衝撃。
  (2009年1月13日付クラブ9から再録)。

チャート1 フォルクスワーゲンの株価
ワーゲン

(1)昨年10月27日、ポルシェ財閥による買収が表面化し、フォルクスワーゲンの株価は2日間で、3.5倍に大暴騰し、瞬間風速で時価総額世界1のエクソンモービルと肩を並べた。
(2)買収した株式は74%で、ニーダーザクセン州の20%を併せると浮動株は6%しかない。
(3)これに対してヘッジファンドの空売りは12%に達していたが、借り株を用いて売り込んでいたから、空売りの実体が見えなかった。
(4)ポルシェ財閥が即座に持ち株を放出したから決済はできたたが、ヘッジファンドの損失は兆円単位で、倒産したファンドもあった。
(5)1月5日、ドイツ第5位の富豪メルクル氏が鉄道に飛び込み自殺した。新聞はフォルクスワーゲンの空売りで1,300億円の損失を出したことが原因と報じている。
(6)フォルクスワーゲンの大暴騰は世界的な株価大暴落に逆行して発生した。ポルシェ財閥による買収説は数年前から話題に上っていたが、ヘッジファンドは空売りで稼いでいたために、油断したのだろう。

(三)バークレイズ銀行の暴落と暴騰。
   (2009年2月2日付クラブ9から再録)。

チャート1:バークレイズ銀行(英)の日足
バークレイズ

(1)1月に世界の株安をリードしたのは銀行株であった。
(2)中でも欧州系銀行には業績悪化の情報が入り乱れてヘッジファンドのウリ目標となった。チャートでバークレイズ銀行の暴落暴騰をご覧頂きたい。
(3)英国政府はバークレイズに資本注入を打診したが、バークレイズは資金繰りに問題はないと断った。
(4)バークレイズの自信ある対応を見て、株価は1日で70%も急騰し、さらに1月23日の最安値から28日の戻り高値まで、立ち会い日数3日間で2.5倍に暴騰した。
(5)値幅制限があり、借り株が禁止された日本では起こりえない暴落暴騰であった。
(6)このような底値波乱は世界1のシティバンクにも起こる可能性がある。

(四)AIGも踏み上げへ。

チャート2 AIGの日足(東京市場)
AIG

(1)AIGは3月安値36円から先週末には200円台を回復した。
(2)しかし昨年の7,000円に比べれば、まだ底値圏に張り付いている。
(3)AIGは世界1の保険会社で、東京でも傘下のアリコジャパンが急成長した。
(4)しかし企業の信用リスクを保証するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)の最大手であったために、株価とCDS指数の大暴落につれて評価損が激増し、倒産の危機に追い込まれた。
(5)CDSの代表的な指数であるアイ・トラックス・ジャパン(国内50社で構成)は3月15日にマイナス565のボトムを記録したが、株価の反騰につれて先週末にはマイナス237へ、60%も回復した。
(6)AIGは1〜3月期にも赤字を計上したが、私はCDS指数から見て倒産の危機を脱出したと思う。
(7)倒産回避が鮮明となれば、ヘッジファンドの買い戻しで1,000円大台を回復するだろう。CDS指数やVIX恐怖指数の行方に注目したい。

(五)三洋電機。

(1)パナソニックは4月末に三洋電機買収の進捗状況を発表した。その内容は、次の通りであった。
 1. 数カ国でまだ独禁法問題解決の合意に達していない。
 2. 最終合意は7月にずれ込む可能性がある。
(2)一方で、5月中に合意に達し、6月末の株主総会までにTOBが終わるという情報もあるが、事実は不明である。
(3)独禁法の対象となっているのはニッケル水素電池を搭載したハイブリッドカーである。トヨタのプリウスにはパナソニックが、ホンダのインサイトには三洋電機が電池を供給しているから、パナソニックが三洋を買収すると、世界中でシェアが80%を超える。
(4)しかしパナソニックが独禁法問題の解決を急いでいるのは、技術革新の焦点がニッケル水素電池からリチウムイオン電池に移っているからだろう。ニッケル水素電池車は電気モーターとガソリンエンジンを併用するが、リチウムイオン電池車はガソリンエンジンを不要にする究極の電気自動車となる。
(5)ホンダはニッケル水素電池で三洋電機と提携しているが、リチウムイオン電池ではGSユアサと提携し、すでに合弁会社を立ち上げた。その技術革新期待がGSユアサの株価暴騰に反映している。
(6)トヨタはニッケル水素電池車の実用化計画を2年繰り延べた経緯があり、三洋電機の技術力を必要としているのではないか。
(7)三洋電機はリチウムイオン電池でもフォルクスワーゲンと提携しているから、トヨタと提携したパナソニックが三洋電気を買収すれば、リチウムイオン電池車でもトップシェアを確保するだろう。
(8)パナソニックが独禁法問題を克服して三洋電機を買収すれば、水面下で進行している次世代技術の開発に関する情報が一挙に表面化する可能性がある。三洋電機は21世紀最大の技術革新できわめて重要な鍵を握っている。