2009/4/27

  2009年4月27日(月)

(一)「不景気の株高」の銘柄選定。

(1)世界中の株式市場はほぼ同時に大底を固めた。株価反騰の条件が日に日に成熟している。
(2)米国では、連休中にストレステストの情報を開示する。金融市場をおおっていた霧が晴れる。
(3)米国では、住宅ローンの申請件数が増勢に転じ、中古住宅の在庫が減少に転じた。住宅市場は最悪期を過ぎた。
(4)自動車のビッグ3も、クライスラーの破たん処理、GMの救済、フォードの株価急伸で、3社3様の決着が見えてきた。
(5)世界的に自動車の在庫整理が終わり、ドイツでは受注残が急増している。日本では電気自動車の技術革新が、買い換え需要を刺激している。
(6)半導体や液晶パネルを始め、広範な電子部品の在庫調整が最終段階を迎えた。5月には部品や原材料で増産の動きが続出するだろう。
(7)世界中のエコノミストの景気分析は弱気一色であるが、弱気見通しが強ければ強いほど、政府は財政投融資を拡大し、中央銀行は金融をジャブジャブに緩和する。その結果、世界的に「不景気の株高が」進行した。
(8)弱気論者は景気や業績の悪化を弱気の根拠としているが、株価は実勢悪を周知の事実として折り込んでいる。決算発表を見れば一目瞭然、株価は大幅な赤字決算の発表を受けて急騰し、小さな変化の情報にも鋭く反応する。
(9)しかし現在は「不景気の株高」の局面だから、強弱感が対立しやすい。銘柄の絞り込みが必要である。今回は技術革新の本命と目される三洋電機、弱気派の標的となって売り込まれたシティグループとAIG、緊急の材料株として富士フイルムを選んだ。

(二)需給大逆転で売り方窮地に。

(1)景気と業績は不透明であるが、需給関係に関する限り、株価は急騰前夜の様相を呈している。
(2)史上最大の財政投融資とジャブジャブ金融が巨大な過剰流動性を生み出し、「不景気の株高」をもたらした。
(3)しかし実勢悪を確信する弱気論者が売り向かうから、東京市場でも信用売りが増勢一途をたどり、逆日歩銘柄が続出している。30日には8日分の逆日歩がまとめて売り方に課せられる。
(4)欧米の株式市場では信用取引のカラ売りに加えてヘッジファンドが巨大な借り株を用いて執拗に売り崩しを狙っている。中でも借り株が集中している銀行株は浮動株が激増して、連日出来高上位を独占している。世界中で銀行株が仕手株となった。
(5)土俵際に追いつめられていた買い方がジャブジャブ金融で息を吹き返し、反撃に打って出た。売り方には連戦連勝のおごりがあり、需給関係が逆転して袋のネズミとなりつつある状況に気がついていない。
(6)欧米市場には値幅制限がないから、暴落も急であったが暴騰も急となる。肥大し過ぎた売り方は、ボトルネックに阻まれて脱出が困難となり、踏み上げを迫られる可能性が高まっている。
(7)私はトルストイが大長編小説『戦争と平和』で活写したナポレオン皇帝のモスクワ遠征を想起する。ナポレオンはヨーロッパ大陸を制覇した余勢を駆って長躯ロシアに遠征し、連戦連勝して首都モスクワを陥落させた。戦力に劣るロシアのクトーゾフ将軍はひたすら冬の到来を待って、雪に埋もれたモスクワに火を放つ。冬の荒野で補給を断たれ、撤退するナポレオンをクトーゾフは執拗に追尾する。ナポレオンがパリにたどり着いた時には数万人の大軍は数百人に消滅していた。

(三)独禁法の解決近い三洋電機。

(1)パナソニックはTOBによって三井住友銀行、大和証券、ゴールドマン・サックス3社が保有する三洋電機の株式を、1株131円で取得することで合意済みである。
(2)三洋電機はパナソニックの傘下に入った後も上場を維持するから、一般株主はTOBの株価に拘束されない。株式市場で流通する株式数も変わらない。TOBの期間と条件が変わった背景については4月20日付クラブ9を参照されたい。
(3)パナソニックのIR(株主向け広報)担当者は私の質問に、「独禁法に関する事前申請は国別に行っており、4月中には何らかの情報を開示できるだろう」と述べていたから、今週にもコメントが出る可能性がある。
(4)少なくとも今日現在、リチウムイオン電池の実用化ほどスケールの大きな技術革新は存在しない。その歴史的な技術革新で、三洋電機が主導権を握る可能性が高い。
(5)パナソニックのTOBが成立すれば三洋電機は、第1に、開発力、技術力で圧倒的優位に立つ。第2に、パナソニックの資金力が万全の後ろ盾となる。第3に、トヨタとフォルクスワーゲンという最大の顧客に恵まれている。
(6)多くの機関投資家が、三洋電機を日本株のポートフォリオの中核に据えるだろう。しかもGSユアサの株価に比べれば、三洋電機の株価がまだ底値圏を脱していない。

(四)ストレステスト後のシティグループ。

(1)ガイトナー財務長官は繰り返し大半の銀行は財務内容が健全だと表明している。
(2)3〜6月期決算は、シティを含む米大手銀行がそろって大幅増益となった。
(3)シティは世界最大の銀行である。私は、シティは倒産の危機を脱出したと思うが、3ドルという現在の株価は倒産を前提としなければ説明できない。
(4)株価低迷の背景にはヘッジファンドによる売り崩しと情報操作があると私は推定する。NY市場で出来高が連日トップを占めているのは巨大な借り株を用いた売り崩しの後遺症だろう。
(5)政府による大規模な資金注入が必要だという情報も不可解である。昨年は「サブプライムローンを含む証券化商品」はAA格債でさえ、「瞬間風速」の「気配値」で80%も大暴落した。しかし米国は先月会計基準の緩和を決定し、「瞬間風速」や「気配値」で計上した評価損は評価益に修正してもかまわないとコメントしている。つまりシティは新たな評価損を計上するよりも、すでに計上した評価損が評価益に逆転する可能性の方が高くなったのである。
(6)倒産のリスクが解消したと確認されれば、株価は10ドル台を目指すだろう。東京市場でも1,000円大台回復を目指すだろう。

(五)CDSリスクが縮小したAIG。

(1)AIGは世界1の保険会社である。
(2)しかし企業の倒産リスクを保証するCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)が大暴落し、CDS大手のAIGが倒産の瀬戸際に追いつめられた。
(3)しかしアイ・トラックス・ジャパンが国内主要50社で構成したCDS指数は、3月12日の565をボトムに、4月14日には285まで急回復した。
(4)CDSの相場は株式相場や恐怖指数や証券化商品の相場との連動性が高い。NYダウが上昇すればCDSの倒産リスクも縮小する。
(5)AIGが倒産の危機を脱出すれば、1.5ドルという倒産株価は居所を変えるだろう。東京市場でも500円を目指すだろう。

(六)豚インフルエンザと富士フイルム。

(1)メキシコで、鳥、豚、を経由した新型インフルエンザが人から人へ感染し、81人が死亡したと報じられた。米国、ニュージーランド、カナダにも感染拡大が報じられている。
(2)豚インフルエンザがパンデミック(世界的大流行)に発展するかどうかはわからないが、私は富山化学(富士フイルム)が開発中の特効薬 T-705 を追跡してきたので、近況を述べておきたい。
(3)T-705 は昨年日米同時にフェーズ2を終了し、その後も追加臨床を行っている。副作用の報告はない。新型鳥インフルエンザに最も有効な新薬と期待されており、タミフルとの比較臨床でも圧倒的な優位が証明されている。
(4)鳥インフルエンザがパンデミック(世界的大流行)に発展すれば見切り発車で製造認可が下りると予想されており、富山化学はすでに富山第2工場内に設備投資を完了している。豚経由のインフルエンザの場合も同じだろう。
(5)米国では豚インフルエンザ患者に対する臨床試験を実施していると思われる。有効性を確認すれば、米国のFDAは製造認可に踏み切る可能性が高い。その場合には日本の厚生省も即座に追随するだろう。
(6)豚インフルエンザがパンデミックに発展すれば、数ヶ月間にわたって生産活動が停滞し、世界の株式市場が影響を受けるだろう。その場合は富士フイルムが唯一のヘッジ銘柄となるのではないか。