2009/4/6

  2009年4月6日(月)

(一)時価会計の基準緩和でシティグループに注目。

(1)米国で先週、時価会計の緩和基準が決定した。第1四半期(1〜3月期)に遡って適用される。4月3日付日経「米、時価会計を一部緩和」を参照されたい。
(2)欧米の金融機関の決算に与える影響はきわめて大きい。私は特に次の2点から東京市場に上場しているシティグループに注目したい。
(3)第1に、銀行が売買目的で保有する金融資産の評価について、「売買の気配値に大きな開きがある場合や、十分な頻度と量の売買がない場合」は銀行自身の裁量を認める。
(4)第2に、サブプライムローンを含む証券化商品は、買い手不在の中を気配値だけで大暴落したが、満期まで保有する場合には、額面と満期時の償還金との差額だけを損金に計上すればよい。
(5)これまでに私は、「サブプライムローンを含む証券化商品はAA格債でさえ、買い手不在の中を気配値だけで80%も大暴落し、シティグループは実態以上に過大な評価損を計上している。評価損の相当部分が将来評価益に逆転する可能性が高い」と指摘し、3月にクラブ9で2度注目株に取りあげた。
(6)シティが保有する時価会計対象の金融商品は6,000億ドル(60兆円)の巨額に上る。時価会計の新基準は今年の第1四半期から適用されるから、早ければ今週にも予想外の黒字決算が表面化する可能性がある。
(7)シティは東京市場で過去3週間に安値100円から300円へ急騰したが、昨年の高値5,000円に比べれば、依然として底値圏にある。
(8)欧米には値幅制限がない。借り株を用いた売り崩しも横行しているから、値動きが激しい。中でもシティは弱気論者の売り目標となっていたから、決算内容いかんでは急騰もあり得る。

(二)会計基準の緩和でAIGにも注目。

(1)ニューヨーク連銀総裁は世界1の保険会社であるAIGについて、CDS(※注1)の相場次第で、政府の資本注入を全額返済する可能性があると述べた。
(2)AIGは日本でもアリコジャパンなどを傘下に持つ世界1の保険会社である。にもかかわらず、CDSの最大手であったから株価が暴落し、米政府とFRBの救済を受けていた。
(3)先週末にはAIGの株価も100円から120円台に急騰した。AIGもシティと同様に会計基準の変更で決算に影響が起こりうる。

※注1:「CDS」は企業が倒産した場合に発生する赤字を保証する全く新しい金融商品である。金融不況が激化すると、CDSの補償額が無制限に拡大すると見られた。

(三)「不景気の株高」が始まった。

(1)私はここ数週間、どんなに不景気でも主要国の中央銀行がこれほど金融をジャブジャブに緩和すれば、必ず「不景気の株高」になると述べてきた。
(2)多数意見はまだ「不景気の株高」を認めず、現在の株高を下げ過程の中間反騰に過ぎないと見ているが、私は株価が機関車となって企業業績と景気を回復させると思う。その過程は次の如くだろう。
 第1に、米欧日の中央銀行は景気底入れを確認するまでジャブジャブ金融を維持するから、現在の株高は本格反騰に発展する。
 第2に、企業は、株価が上がれば増資や社債の発行によって自己資金を充実し、設備投資を積極化するから、業績が伸びる。
 第3に、銀行は、長短金利差の拡大で利ざやが増えたから、貸し出しを積極化して、業績を伸ばす。
 第4に、銀行に滞留していたマネーは、不動産市場や商品市場にあふれ出て、物価を押し上げる。
 第5に、消費者は、デフレ期待がインフレ期待に変わるから、財布のひもをゆるめる。
 第6に、「株価は6ヶ月先の景気を先見する」という経験則を信頼すれば、景気は年内に底入れする。

(四)公的資金の投入は税金の無駄遣いではない。

(1)米国でも、公的資金を住宅ローン大手やシティバンクやAIGやGMの救済に投入するのは税金の無駄遣いだという批判が多い。しかし過去の日本の経験では、政府の資本投入は株価の上昇によって大きな利益をもたらした。
(2)3月には日本の公的年金が株式を大幅に買い越した。これに関しても、日本のエコノミストの中には国民の老後の生活を危うくすると批判した人が多かった。しかし公的年金は史上最大の金融不況の大底で株を買うことに成功した可能性がある。
(3)公的年金に対して企業年金の運用責任者は、前3月決算で「株価暴落のために運用資産が16%も減った。株を買うのはこりごりで、新年度には株式を大幅に減らす」と述べていた。公的年金と企業年金のいずれが正しいかは時間が経てば結論が出るが、私は公的資金のような超長期資金の運用は買い下がりを断行する以外に選択肢がないと思う。
(4)なぜならば、資本主義社会はゆるやかなインフレを前提として成立しているからである。資本主義の資本は株式会社の株式と同義だから、資本主義は株式会社主義と言い換えることができる。もし株式会社の株価が長期的に値下がりすれば資本主義社会は必ず崩壊し、年金や投資信託のシステム自体が崩壊する。それゆえ不況期には各国政府が結束してデフレを阻止し、インフレに誘導する政策を推進するのである。

(五)強気の政治家よ、出でよ。

(1)昭和40年の証券不況で、時の大蔵大臣田中角栄は宇佐見日銀総裁を励まして山一証券と大井証券に日銀特融を発動させた。次いで公的資金で共同証券を設立し、それでも株価が下げ止まらないと見るや、民間資金で保有組合を設立して株式を買い支えた。数年後に二つの買い上げ機構は巨額の利益を残して解散した。
(2)田中角栄は日本列島改造論を掲げて首相となり、日本列島の隅々まで高速道路網と新幹線網を構築した。
(3)昨今では、「地方の高速道路には閑古鳥が鳴いている。高速道路は無益な投資であった」と批判する政治家が多い。しかし私は欧米のように高速道路を無料にすれば地方が必ず活性化し、食糧の自給も可能になると主張してきた。
(4)麻生内閣が日曜日の高速道路を1,000円ぽっきりにしたところ、利用者が急増した。私は現在でも日本全国の高速道路を無料にして田中角栄の日本列島改造論を実現するべきだと思う。
(5)田中首相はロッキード社から5億円のリベートを取得したとして収賄罪に問われ、裁判の係争中に憤死した。目白に豪壮な御殿を築いたが、政治的功績によって多くの国民から愛された。田中真紀子は父君の遺徳に恵まれて今でも選挙に強い。
(6)民主党小沢党首の秘書が収賄の疑いで逮捕された。私は政治家の蓄財を否定しないが、小沢党首には師匠の田中角栄のように「政権を奪取した後に日本をどうチェンジさせるか」という志が見えない点が残念である。
(7)与謝野大臣は、新年度予算に20兆円を計上して株式買い上げ機構を準備し、1兆円の財政資金をリート(不動産投資信託)の買い上げに投入する準備を整えた。与謝野大臣は「私は財政均衡論者だが、現在は均衡論を封印して積極財政を断行する時だ」と明快に志を述べている。与謝野大臣はいま日本が最も必要とする政治家だと私は思う。