2009/3/16

  2012年3月16日(月)

(一)NYダウの反騰をリードした銀行株。

チャート1・ゴールドマンサックスとシティグループの日足

(1)私は前回のクラブ9で「ニューヨークダウはセリングクライマックスの様相を呈しており、小さな変化の情報にも急騰しやすい状況にある」と述べた。
(2)果たして先週、シティのバンデットCEOが従業員への手紙で「1〜2月の営業利益が07年の第3四半期以来、最大を記録した」と述べたのをきっかけにニューヨークダウが急騰した。さらにCEOは「シティは世界最大の自己資本を備えており、政府から新たな資本注入を受ける必要はない」と述べた。
(3)JPモルガン・チェースとバンクオブアメリカのCEOも相次いで「1〜2月の決算は好調である」「資本注入を受ける必要はない」と発言した。
(4)カードローンのこげ付き急増も銀行株暴落の要因となっていたが、最大手のアメリカンエクスプレスは業績好転が報じられて株価が急伸した。米国では銀行の不良債権が昨年末で峠を越えた可能性がある。
(5)しかし株価の上昇幅から見れば、先週米大手銀行の中で最も値上がりしたのはゴールドマンサックスとモルガンスタンレーで、最も戻りが鈍かったのは世界最大のシティグループであった。旧投資銀行系各社の復活が鮮明である。
(6)しかし今週以降は、シティの反発力に注目したい。理由は次項で述べる。

(二)シティはニューヨークダウの先行指標。

(1)シティは昨年、営業利益が一貫して黒字であったにもかかわらず最終損益が赤字となった。原因は保有する証券化商品が暴落したからである。中でも最大の赤字要因となったサブプライム関連証券は、昨年の9月にAA格債でさえ80%も大暴落し、実体価値を大幅に下回っていた。
(2)ちなみにAA格はトヨタと同格の最高格付けである。だからこそガイトナー財務長官は、1.「シティが保有証券でこれ以上の値下がり損を受けた場合は政府が保証する」ことを決定し、2. 3月に始まった大手銀行の資産査定でも、「気配値だけで付いた安値を時価と見るつもりはない」、と言明している。
(3)先週は、先に米10年国債が値上がりし、国債相場に引っ張られる形でニューヨークダウが急騰した。FRBはゼロ金利政策を推進し、金融をジャブジャブに緩和しているから、金融不況が底打ちして「不景気の株高」に発展する可能性がある。
(4)そうなれば、これまでにシティが世界最大の赤字を計上する原因となった証券化商品も底入れし、評価損が評価益に大逆転する可能性が生まれる。
(5)ちなみにシティの株価は50ドルから1ドルまで大暴落し、先週末にようやく1.7ドルに上昇したところである。銀行最大手のシティは東京市場にも上場しているから、ニューヨークダウの先行指標として反発力に注目したい。

(三)野村証券大波乱の背景を推理する。

<表1・野村証券の先週1週間の株価と出来高>

月/日
始値(円)
高値(円)
安値(円)
終値(円)
出来高(万株)
日経平均(円)
3/9
417
424
412
414
5643
7086
3/10
415
417
403
416
4701
7054
3/11
430
458
427
458
13926
7376
3/12
453
456
441
449
13622
7193
3/13
466
471
464
469
7524
7569

(1)野村證券は世界の株価がそろって最安値を記録した日に2,760億円、6.6億株の超大型増資を断行した。払込期日は3月10日。払い込み価格は417円であった。
(2)しかし払込期日の3月10日が安定操作の最終日であったにもかかわらず、野村證券は公募価格417円を支えることができなかった。安定操作ができなくなる11日以降は急落必至と見た外国人筋が集中売りを浴びせたのが公募価格割れの原因ではないかと思われた。
(3)しかし、ここから大逆転のドラマが始まった。問題の11日に、野村證券株は予想に反して寄りつきから大量の買い物を集め、終日大口の買いが継続した。出来高は東証第1位の1.4億株に達し、終値は公募価格を10%上回る458円の高値引けとなった。その後も株価は堅調で、週末の13日には471円の高値を記録した。
(4)しかも12日には日証金の取り組みが大量の株不足となり、5銭の逆日歩が付いた。超大型増資で大量の新株を発行したにもかかわらず、13日も日証金の大幅な株不足は解消していない。
(5)一体野村證券株に何が起こったのだろう。一体誰が野村證券を買ったのだろう。一体6.6億株の新株はどこに消えたのだろう。答えを探しあぐねていた11日の引け後に私は意外な情報を耳にした。「ニューヨーク市場で銀行株に大量売りを仕掛けていたヘッジファンドが突然の急騰で大きな評価損を被り、その評価損をヘッジするために野村証券株を大量に買った」というのである。確かに10日にニューヨークダウが急騰し、翌11日には日経平均も急騰した。
(6)言われてみれば野村證券にはヘッジ買いの条件がそろっている。第1に、世界の株式市場を見渡しても、新株発行直後の野村證券ほど株価を上げずに大量に買える大型株は存在しない。第2に、野村證券は大暴落を演じた直後で、株価が歴史的な安値に落ち込んでいる。
(7)もしヘッジファンドによる野村証券株買いの情報が正しければ、ヘッジファンドの投資スタンスに重要な変化が現れたことになる。第1に、これまで米国の金融株の空売りで連戦連勝していたヘッジファンドが、強気に大転換した。第2に、1億株を超えると推定される野村證券株を利食いするためには、株価が2倍以上に高騰する必要がある。つまり、ヘッジファンドはそこまで読んだ上で野村證券を買ったと思われるのである。
(8)野村證券は超大型増資で最悪のタイミングを選んだが、結果はすべて良しで、安定操作で買い支えた大量の自社株は大幅な利食いとなった。
(9)ヘッジファンド買いの真偽は現在も確認できない。野村證券株の大波乱をめぐる考察はあくまでも私の個人的な推論である。

(四)上放れたリート(不動産投信)。

チャート2・日本ビルファンドとJRE(ジャパンリアルエステイト)の日足

(1)チャートを見れば一目瞭然、日本のリート(不動産投信)を代表する2銘柄が明快に底値を脱出した。
(2)今回の金融不況の最大の被害者が不動産業界であることは、倒産件数や倒産金額を見れば歴然としている。
(3)補正予算で株価対策の資金枠が2兆円から20兆円に拡大したのを受けて、政府はETF(株式投信)のほかにリート(不動産投信)を買い支えの対象に入れるのだろう。リートを買い上げれば新たな資金が不動産市場に流入し、不動産相場と不動産関連株を押し上げる効果が期待できる。ちなみに日本ビルファンドは三井不動産、JREは三菱地所が組成し、売り出した。
(4)しかし欧米の政府は株式市場や不動産市場に直接介入していない。なぜ日本だけが介入するのかという疑問や批判があるので、欧米と日本の金融システムの根本的な相違点にふれておきたい。
(5)第1に、欧米の銀行は無担保融資が原則であるが、日本の銀行は歴史的に担保を取って融資する。担保は通常不動産又は株式である。
(6)欧米の銀行は株式や不動産を持たない代わりに証券化商品に投資して巨額の不良債権をかぶった。欧米の政府はその不良債券を買い上げて銀行を救済しようとしている。さらに米国では歴史的に政府が国民に持ち家を勧めて来たから、住宅ローンの負担軽減に巨額の資金を投入している。
(7)これに対して日本の銀行はサブプライム関連証券を殆ど持たない代わりに不動産や株式を保有しているから、その値下がりで含み益が急減し、貸し出し余力を失った。そこへ融資の担保に取った不動産が急落して担保不足となったから、銀行は融資を増やすどころか、融資の回収に走っている。
(8)これが中小企業の大量倒産の原因となり、銀行の融資拒否の原因となっているから、与謝野財務相が20兆円を株式市場のてこ入れに投入すると言明したのである。過去の不況時にも日本の政府は株価対策を実行し、成功し、利益を上げている。私は、株価対策と地価対策は昔も今も日本の景気対策の王道だと思う。