2009/2/23

  2009年2月23日(月)
  番外編。日本の政界異聞。

(一)中川前財務大臣の酔っぱらい。

(1)欧米、特に米国では酔っぱらいに対する社会的制裁が厳しい。中川前財務大臣はその酔っぱらい会見が海外のマスコミで袋だたきにあい、辞任に追い込まれた。しかし欧米と日本では飲酒と酔っぱらいに関する社会的批判に大差がある。
(2)そもそも白人は酒を飲んでも酔っぱらわない。白人のアル中患者は殆どが先天的体質で、日本人のような「ほろ酔い」「酩酊状態」は少ない。それゆえアメリカではアル中の噂が立つとパーティー社会から排除される。パーティーにアルコールが付きものであるが、日本のように無理強いをすることもされることもない。勧められても断れば二度と勧められない。酒量はあくまでも自己責任、自己管理である。
(3)英国で人気テレビドラマのモース主任警部はオックスフォード大学出身のインテリで、ビンテージの赤いジャガーを運転し、捜査中でも必ずパブで黒ビールを飲む。
(4)イタリアでは有名レストランがしばしば郊外の田んぼの真ん中にある。客は自家用車を30分以上も運転して来て、大いにワインを飲み、食事を楽しんだ後、平気で運転して帰る。
(5)フランス人はお茶の代わりにワインを飲む。印象派のユトリロは生まれつきアル中体質であったから子供の時からアル中で、自閉症に陥り、室内で絵はがきを手本にパリの町角を描き、人気画家となった。画商が贋作を持ち込むと酩酊状態のユトリロは簡単にサインを入れたから「サインだけが本物」の贋作が多い。
(6)中川前財務大臣は人格、識見共に傑出した政治家である。話しぶりは簡潔で過不足がないが、抑制された慎重さは、アルコールに対する弱点を自覚したゆえに身に付いたと思われる。私は財界や学会の著名人で、酒を飲むとタコみたいにくにゃくにゃになる人を何人か知っている。酒席では酒を飲まないが、まれに気がゆるみ、醜態をさらす。
(7)秘書官が中川財務大臣の飲酒癖を知らなかったはずがない。誰も止めなかったのだが私には不可解である。ちなみに、アメリカでは有能な秘書を持つことが出世の条件である。昇進する時も決して手放さない。有能な秘書を持てば仕事が何倍もこなせる。

(二)麻生首相は本音の政治家。

(1)政治家がみな平気で本音と建て前を使い分ける中で、麻生首相の言行には本音と建て前の区別がない。本音ゆえにマスコミの餌食になりやすいが、私は麻生首相ほど正直で率直で理解しやすい政治家を見たことがない。
(2)郵政民営化で「初めは賛成ではなかった」と述べてマスコミから批判されたが、当時は自民党自体が賛否で割れていた。中川財務相の罷免をためらった点でもマスコミの批判を浴びたが、私は盟友をかばおうとする人間性に好感を持った。
(3)同じ中川でも中川元幹事長は典型的な建て前の政治家である。上げ潮派の看板を掲げると潮目が代わり、郵政民営化の看板を掲げると小泉元首相がこける等、風見鶏のような変わり身に、派閥内でさえ降格された。
(4)小泉元首相は建て前に殉じた政治家である。郵政民営化の反対派を党議違反の罪で追放したが、定額給付金では党議違反の発言で孤立を招いた。一枚看板の郵政民営化も色あせてきた。
(5)麻生首相は常に本音だからマスコミがいくら批判しても、支持率がいくら落ちても、動じる気配がない。任期の9月までねばり通すことができれば、風向きがフォローに変わる可能性がある。
(6)マスコミは麻生首相がホテルのバーで酒を飲むのは贅沢だと批判するが、それならば料亭で密議をこらせと言うのだろうか。首相が縄のれんで飲めば警護に金がかかる上に人気取りと批判されるだろう。料亭の密室政治に比べれば、ホテルのバーこそ自腹を切るには安上がりで、最も透明度が高い。
(7)マスコミの世論調査では定額給付金を支持する人は20%に過ぎないが、私が聞いた限り、全員が給付金を待ち望んでいる。マスコミのアンケートはテレビや紙面でさんざんこき下ろした上で意見を聞くのだから、始めに結論ありきである。こういう手法をマッチポンプ(自分で火をつけておいて火事だと騒ぐ)という。
(8)マスコミは、首相は字が読めないと批判するが、小泉首相も海外に留学して卒業しなかった。政治家の資質は学校のお勉強とは関係がない。私が知る限り、麻生首相は国際舞台で堂々と物怖じせずに意見を述べる日本で唯一の政治家である。

(三)小沢党首の本音を聞きたい。

(1)私は、小沢一郎がいくら政党を渡り歩いても政治理念がぶれない点に敬意を払ってきた。しかし現在はぶれないゆえに時代遅れになってしまわないかを心配している。
(2)直近でも米クリントン国務長官が申し入れた対談を断った。輸出立国日本の次期首相候補が国際舞台に立つ千載一遇の好機に尻込みするようでは困る。国際化時代の内弁慶は中川前財務大臣の酔っぱらい以上に失政を招く恐れがある。
(3)昨年は財界と自民党がお膳立てした「保保連合」の構想に乗ったが、足下の民社党から総スカンを食らうと引退を表明した。なぜ初志を貫徹しなかったのだろう。小沢一郎にとって政党は理想の政治を実現するための手段に過ぎない。自民党を離党しても、自ら政党を立ち上げても、自ら政党を破壊しても、矛盾と思わない。その本音は昔も今も保保連合だと私は思う。
(4)党首に復帰してからはひたすら早期解散を主張してついに上げ潮に乗った。他を批判する時は終わった。政権を奪取した後に何をやりたいのか。小沢一郎の本音を聞きたい。

(四)鳩山総務相の存在感。

(1)鳩山総務相が「直感で」指摘したかんぽの宿のずさんな売却条件は大きな政治問題に発展し、大臣の存在感が重みを増した。
(2)15日のテレビで鳩山総務相は「オリックスの宮内会長は小泉・竹中政権下の政府諮問委員会で主要な役割を果たしていたから、かんぽ生命の不動産売却情報を優先的に取得できる立場にあった。公開入札とは名ばかりの独占入札には利益供与の疑いがある」と述べて、日本郵政に契約の白紙撤回を求めた。
(3)日本郵政はその後も売却に至った経過を小出しにしているが、総務相は追及の手をゆるめず、竹中郵政担当大臣当時に遡って「かんぽの宿を赤字=不良債権と断定した」ことに疑問を呈し、「このままゆうちょ銀行の株式を上場すれば、日本国民が営々として積み上げた360兆円に達する世界1の貯金が外国資本に乗っ取られる恐れがある」、「日本郵政の4分割と株式公開を見直す必要がある」と述べた。
(4)一波は万波を呼ぶ。麻生首相が「最終的には賛成したが、最初は郵政民営化に反対だった」と発言し、小泉元首相が血相を変えて麻生発言を批判し、「定額給付金の再採決に欠席する」という勇み足を誘発した。双方とも鳩山総務相の郵政疑惑追及が図らずもあぶり出した「本音」だろう。
(5)「かんぽの宿」は政界の外にも波紋を広げた。言論界では小泉・竹中時代の過激な構造改革の当否に論議が及び、金融界ではオリックスの株価急落を誘った。鳩山総務相が投じた一石は「これにて一件落着」といかないように見える。