2009/1/19

  2009年1月19日(月)

(一)わが強気の相場観について。

(1)エコノミストは統計データに基づいて未来を予測するから、相場観が「景気と業績は限りなく悪化する」という異常な弱気論に傾きやすい。しかし統計データは過去の遺物であり、未来は変化と意外性に満ちている。現にオバマ新大統領は変革を掲げて政権を奪取した。
(2)現実には実体経済が悪化すればするほど政策対応のピッチが上がり、スケールが拡大する。ブッシュ政権は70兆円の予算を取得し、オバマ新政権は75兆円の予算を議会に提出する。FRBはゼロ金利政策に踏み込み、マネーをジャブジャブに放出した。
(3)投資家は経済政策がもたらす変化に賭けるから、株価は6ヶ月先の景気を先見して形成される。それゆえ株式市場の格言は「人の行く、裏に道あり、花の山」のように、ことごとく少数意見を支持している。
(4)弱気の視点で見れば弱気の現実しか見えないが、強気の視点で見れば強気の指標は随所に現れている。第1に、ジャブジャブのマネーは、現在は銀行に積み上がって産業界に回っていないが、財務省とFRBはピンポイントで住宅市場、自動車市場に資金を投入する道筋をつけた。第2に、大手銀行は全面的な財政支援を受けて抜本的な体質改善、業務の再編成に踏み込んだ。銀行に滞留したマネーが株式市場や産業界にあふれ出すのは時間の問題だろう。
(5)過去半年間のニューヨークダウと日経平均のチャートは全く同じであるが、両国が背負っている経済的条件には大差がある。第1に、内需主導の米国に対して日本は輸出主導である。第2に、銀行が受けた打撃の大きさは米国が圧倒的に大きい。
(6)しかし最大の相違点は人口である。人口が減り始めた日本に対して、米国の人口は年率300万人ペースで増加している。メキシコ国境やカリブ海を経由して入国した不法移民でも二世には米国籍が与えられるから、人口増加は止まらない。
(7)300万人は住むための住宅を必要とし、生活するために自動車を買う。米国の消費主導の経済構造は人口増加がもたらした必然的結果である。これに対して日本の人口は縮小に転じているが、アジアの一国としてみれば世界最大の人口急増圏に属している。日本がアジアの人口激増に乗じて輸出主導の経済構造を構築したのは必然的結果である。
(8)エコノミストは内需を振興できない日本はダメになると大合唱しているが、歴史的視点を欠いた自虐的悲観論である。人口3,000万人のイギリスは18世紀に産業革命を興し、その後200年間、輸出主導で世界経済に君臨した。世界1の製造業を持つ日本が輸出によってアジア経済にリンクすれば、往年のイギリスと同様に人口も景気も業績も内需も、いくらでも伸びる。歴史観こそ私の楽観論の最大の根拠である。

(二)急増した米国の住宅ローン新規申請。

(1)米財務省は昨年半官半民の住宅ローン2社、ファニーメイとフレディマックに資本を注入し、国営化した。一方FRBは年初に国営2社が保有する住宅ローン債権の買い取りを開始した。
(2)これを受けて住宅ローン2社は金利を下げ、融資枠を広げたから、年末には新規申請件数が48%も急増した。
(3)新規申請件数の拡大傾向が定着すれば、まず中古住宅の流通在庫が減少する。300万人の人口増加は年間50万戸の住宅需要を創造する。
(4)住宅需給関係が改善すれば、住宅価格が底入れする。米国の住宅価格は過去50年間上昇トレンドを維持している。
(5)住宅価格が底入れすれば新規着工件数が増加し、住宅不況は終わるだろう。住宅ローン金利の全額控除という優遇税制をうけるために、米国の納税者はみな住宅ローンを組んで財産を築いているから、住宅価格の上昇は消費復活に直結する。

(三)Gマック救済の効果。

(1)昨年末には、GMの金融子会社であるGマックは資金難のためにGMが販売する新車の6%しか自動車ローンを供給できなくなっていた。
(2)国土も市街も広大な米国ではスーパーに出かけるにも自動車が必要で、年間1,300万台の安定した買い換え需要がある。GMが今年の自動車需要を1,050万台と見積もったのは過剰在庫が積み上がったからである。しかし各メーカーが一斉に大幅減産に踏み切ったから在庫整理は短期間に終わるだろう。
(3)ガソリン価格も急落した。自動車販売が40%も落ち込む状況は異常で、反動による販売増加が期待できる。
(4)Gマックのてこ入れは必ず自動車販売の復活を支援する。

(四)銀行の大型倒産は起こらない。

(1)昨年来、財務省の資本注入によって主要銀行は自己資本を十分蓄積した。
(2)資本注入に加えて財務省は年初に大手銀行が保有する証券から将来発生する損失を肩代わりすると発表した。
(3)これを受けてバンカメとシティバンクが大幅赤字を計上し、業務の再編成に乗り出した。その内容については次項で述べる。
(4)昨年、リーマン・ブラザーズが倒産した時には異常な悲観人気が噴出し、ニューヨークダウは7,000ドルに大暴落したが、今回は8,000ドル台を維持している。
(5)財務省は金融市場の安定に自信を持ったからこそ大手銀行の将来損失を肩代わりするのであって、過大なリスクを背負い込んだわけではない。
(6)つい3ヶ月前には、サブプライム関連証券の暴落で金融機関の損失が200兆円を超える、金融恐慌の到来は必至だ、投げ売り殺到でAA格債が80%も大暴落した、等の悲観情報が噴出していた。しかしサブプライムローンを救済し、銀行が資本注入を受けた現在では投げ売りが消滅し、暴落説は雨散霧消した。
(7)金融市場を震撼させたサブプライム関連証券の底入れが鮮明になれば、世界の金融機関が計上した数十兆円の評価損の一部が評価益に逆転し、金融不況そのものもが底入れする。財務省による将来損失の肩代わりは金融市場の変化を示している。

(五)シティバンクとバンクオブアメリカ(バンカメ)。

(1)シティバンクの10〜12月決算は7,500億円の赤字となった。08年通期では1兆7,000億円の赤字となる。(07年は3,300億円の黒字であった。)
(2)評価損を計上した部門の売却は順調に進むだろう。日興コーディアルと日興アセットには早くも三菱UFJとみずほが買収の意欲を示しているという。保有証券の将来損失は財務省が肩代わりするから、新たな赤字の発生は予想しにくい。
(3)バンカメも10〜12月期に1,600億円の赤字を計上した。
(4)財務省は同日、バンカメに1兆8,000億円の資本注入を実施し、10兆円の保有証券から発生する将来損失を肩代わりすると発表した。
(5)財務省は大手銀行をどこまでも支援すると宣言したのである。米2行と日本の大手3行は買いの好機だろう。

(六)相場観と銘柄観。

(1)先週末に米インテルが10〜12月期の下方修正を発表したが、今期予想を据え置いたことを好感して株価が上昇した。インテルの小さな好材料に反応して、日本でもSUMKO、東京エレクトロン、エルピーダ等の半導体関連株が急進した。
(2)半導体不況は他の産業に先行して深刻化し、世界的な業績悪化、人員整理、操業停止を招いたが、だからこそ私は半導体の在庫調整が真っ先に終わると予測した。まだ本格的な市況好転にはほど遠く、株価は総じて低迷しているが、インテルの決算に前向きに反応した点に注目したい。
(3)半導体市況の好転を示唆する情報が表面化すれば、電子部品、家電、自動車等、ハイテク株の連鎖的反騰を誘発するだろう。
(4)マスコミ報道からは不況の深刻さしか見えないが、投資家は在庫調整の進展情報に注目するときである。空売りが積み上がり、一触即発の銘柄も少なくない。
(5)中国がくず鉄の輸入を再開し、電炉製品と海運市況が急反発している。旧正月が明けて中国政府の景気てこ入れ策が本格始動する。市況関連株は徐々に下値を切り上げている。
(6)鳥インフルエンザがアジア各地からエジプト、ドイツに拡散し、中国で再発した。タミフルが利かないという報告が相次いでおり、富士フイルム(富山化学)が開発中の T-705 が注目されるだろう。株価も底入れしたように見える。