2008/9/29

  2008年9月29日(月)

(一)バフェット氏はゴールドマンの底値を買ったか?

(1)ゴールドマン・サックスは先週、投資銀行(証券会社)から銀行に変身し、1兆円の増資に踏み切った。
(2)ウォーレン・バフェット氏が半分の50億ドル(5,000億円)を出資し、筆頭株主に躍り出た。
(3)バフェット氏は株式の底値買いと長期投資で世界1の富豪にのし上がった。リスクに挑戦するバフェット氏の着眼点と実績には定評がある。
(4)住友銀行は歴史的にゴールドマンと親密であったから、今回の増資に応じる準備があると伝えたが、ゴールドマンが辞退した。バフェット氏を大株主の一枚看板に掲げることが得策と考えたからだろう。

(二)モルスタに出資した東京三菱。

(1)モルガン・スタンレーも先週、投資銀行から銀行に変身し、1兆円の増資に踏み切った。
(2)東京三菱銀行はモルスタに80億ドル(8,000億円)を出資して、筆頭株主に躍り出た。
(3)東京三菱の経営者は「千載一遇の好機」とみて即断即決した、と語っている。
(4)私は再三「日本の銀行、証券が買収や出資によって投資銀行のノウハウを取得する千載一遇の好機」と主張してきたが、東京三菱もまた「千載一遇」と述べた。経営者の意気込みが鮮明に現れている。

(三)リーマンの人材を囲い込んだ野村證券。

(1)野村證券は破たんしたリーマン・ブラザーズからアジア・中東部門の人材を一挙に取得した。投資銀行業務は一朝一夕では築けない。数学とコンピューターを駆使した先端技術と、蓄積したノウハウを使いこなす人材が必要だからである。私が期待したとおり、野村證券は躊躇せず破たんの好機を捕らえた。
(2)野村證券は1990年に証券会社で世界一の利益を上げた。しかしその後に台頭した投資銀行との競合に破れて国際的な競争力を失った。今では縄張りの東京市場でさえ現物取引の70%、先物取引の90%以上を外国証券に占拠されて手も足も出ない。閉塞状況からの脱出は野村證券の見果てぬ夢であったに違いない。
(3)私は1990年に「『円』世界制覇の秘密」(講談社)を出版し、田淵会長(当時)は世界一の利益を上げた今こそ、肉体労働から頭脳労働へ脱皮する好機だと述べた。しかし野村證券は利益世界一の成功体験に陶酔してセブンイレブン(朝7時から晩11時まで)の肉体労働を止めなかった。私は、これでは頭脳重視の欧米の投資銀行との競争に破れると思ったのである。
(4)それから苦節18年、野村證券はついに買収によって投資銀行を補足する好機をつかんだ。経営者は快哉を叫んだに違いない。
(5)リーマンの人材が離散するかどうかは、野村證券が本気で投資銀行部門進出を目指すかどうかにかかっている。

(四)銀行に変身した投資銀行(証券会社)。

(1)ゴールドマン・サックスとモルガン・スタンレーは先週持ち株会社を設立して投資銀行から銀行に変身した。
(2)米国の投資銀行5行のうちリーマン・ブラザーズは倒産し、ベアースターンズはJPモルガン・チェスに合併された。メリル・リンチもバンクオブアメリカに買収されたから、独立を維持した投資銀行はゴールドマンとモルスタの2社のみとなった。
(3)先週、その2社が銀行に変身したために、米国固有の投資銀行は消滅した。
(4)銀行の中でもシティバンク、HSBC(イギリス)、UBS(スイス)等の巨大銀行はすでに投資銀行部門を保有している。
(5)投資銀行は資金を何十倍にも膨らませて利益の極大化を追求したために、保有資産が劣化すると資金繰りが悪化した。FRBは3月に緊急措置として、傘下のニューヨーク連銀に投資銀行の口座を開かせて、30兆円の融資枠を供与した。
(6)しかしいつまでも緊急融資を続けるわけにはいかないから、FRBは投資銀行を銀行に変身させることによって大手銀行並みの直接取引に移行したのである。

(五)投資銀行とはどんな金融機関か。

(1)投資銀行は日本には存在しない。割債と利付債を発行する興銀がかつて日本の投資銀行を目指したが、富士銀行、勧銀との3行合併で埋没した。モルガン・スタンレーは真っ先にみずほ銀行に出資を要請したが、断ったという報道を見て、私は旧興銀の人脈が発言力を失ったのではないかと懸念している。
(2)日本の金融機関が古くさい経営のカラに閉じこもっている間に、欧米の投資銀行は次々に革命的なノウハウを開発し、巨大市場を創造した。投資銀行が開発した業務は次の如くである。
 1. 自らリスクを取って資金を運用する。(日本の銀行は預金を集めて企業に貸し付ける機能しか持たない。)
 2. 企業に合併・買収を提案し、経営革新を支援する。
 3. 仕組み債、仕組み証券、各種投信を組成し、銀行や証券に卸売りする。
 4. 資金運用の市場は株式、不動産、商品、為替等、多岐にわたる。
 5. 資金運用の手法は現物と先物、国家と国境を問わない。
 6. ヘッジファンドを顧客とし、自らもヘッジファンドを組成する。
 7. 何かを買えば何かを売る。例えばニューヨーク石油の先物を買って日本の銀行株を売るというように、時間と空間を超えたヘッジを組んで利ザヤを確定する。
 8. 時間と空間を超えたヘッジを瞬時に行うためには数学とコンピューターを駆使したノウハウが必要である。日進月歩のノウハウを使いこなす人材も必要である。
 9. 今日ではノーベル経済学賞の大半を数学者が受賞している。ケインズ以来、欧米の経済学部は理数系で、テキストは数学ばかりである。
(3)今、欧米の投資銀行は窮地に陥っているが、彼らはリスクを乗り越えるノウハウを開発し、1年後には金融不安なんてどこ吹く風とばかり飽くなき利益追求を競っていると私は思う。
(4)現に、今でも東京市場を投資銀行が占拠し、日本の証券会社は先物市場の大口売買に振り回されている。彼らは過去も現在も未来も強い影響力を維持するだろう。

(六)製造業も金融業もハイテクが鍵。

(1)1990年にも世界中で不動産バブルが崩壊し、金融機関が窮地に追い込まれた経験がある。
(2)そのとき米国の金融機関は即座に不動産のデッドストックをリート(不動産投信)に組み替えて株式市場に上場し、不動産不況を克服したばかりか、リートの巨大市場を創造した。
(3)かくして欧米では、金融機関が国家の中核を占める巨大産業に成長した。
(4)短期間に不況を克服した欧米の金融機関は暴落した日本の不動産と株式を片端から買い占めて巨額の利益を独占したばかりか、日本の金融市場の支配力を強化した。
(5)今や、日本の銀行は欧米の投資銀行が組成した投信を販売する下請けに転落した。
(6)今や、人海戦術の日本の保険は情報によって販売するAIGに完敗した。アリコやエジソン生命やスター生命は破たんしたAIGの子会社である。
(7)今や、東証を外国人に占拠された日本の証券会社は、投資銀行の大口売買に右往左往している。
(8)しかし1990年に日本の銀行は世界の銀行ランキングのベスト10を独占するという栄光を記録した。野村證券も同年に証券会社の利益利世界1を記録した。
(9)日本の家電、自動車、精密等の製造業はバブル崩壊後もハイテクを駆使して世界市場で覇権を確立したが、日本の金融機関はバブル崩壊後の近代化に遅れ、ハイテクを追求した欧米の金融機関に大差をつけられたのである。

(七)大逆転の好機迎えた株式市場。

(1)幸運にも日本の金融機関はハイテク化に遅れたために、欧米の金融危機に巻き込まれずに済んだ。
(2)今こそ買収や資本参加によって欧米勢を追撃する千載一遇の好機である。
(3)買収には大きなリスクが伴うという批判が多いが、私はそうは思わない。資本主義社会ではリスクのないところに利益はない。今にして何もしなければ、日本の金融機関は早晩ユダヤ資本の軍門に下るだろう。
(4)欧米の投資銀行は、形はどうあれ、必ず復活するだろう。その時、バフェット氏や東京三菱銀行や野村證券は大きな果実を手に入れる。
(5)私はもちろんバフェット氏の決断に従うが、バフェット氏といえども神様ではない。そこのところが悩ましい。