2008/9/22

  2008年9月22日(月)
  歴史的大逆転のドラマが始まった。

(一)チャートで読む金融不況と住宅不況。

(1)リーマン・ブラザーズが倒産した。
(2)先週末にはバンクオブアメリカやHSBC等、内外大手金融機関による買収が成立か、との観測が強まっていただけに、週明けの株式市場に大きな衝撃が走った。
(3)欧米の株式市場は軒並みに4〜5%の急落となった。少なくとも寄りつき段階での東京市場への影響は避けられないだろう。
(4)リーマンは倒産したが、バンクオブアメリカに買収されたメリル・リンチの株価は上昇した。
(5)ニューヨーク市場の引け後に、FRBがJPモルガンとゴールドマン・サックスに対し、保険大手AIGに対する750億ドル(8兆円)の融資枠のとりまとめを要請した。大手銀行と投資銀行はFRBとの間に直接取引の窓口を開設しており、無制限の融資枠を与えられているから、融資を代行することになると見られる。
(6)残された最大の注目点はリーマンの債権債務の決済が順調に進むか否かである。

(二)豪腕見せたポールソンとバーナンキ。

(1)先週前半には暴力的なウリ崩しによって金融市場を代表する大型優良株が紙くずのように崩落し、株式市場は金融恐慌の様相を呈していた。
(2)しかし驚くべし。ポールソン財務長官とバーナンキFRB議長の昼夜を分かたぬ陣頭指揮と豪腕によって週末には恐慌のリスクを克服した。
(3)グリーンスパン前FRB議長を初め、世界中のエコノミストは金融不況の長期化と深刻化が不可避と主張していたが、70兆円に及ぶ一気呵成の財政出動と、日米欧中央銀行による無制限の流動性供給が、弱気論を粉砕したのである。
(4)架空の借り株を用いて株価を暴落させたカラ売り筋は一転、過当投機、相場操縦、風説の流布でSEC(米金融監督庁)の厳しいチェックをうけるだろう。この点は(四)を参照されたい。
(5)私は、株価は大底を入れたと思う。戻り売りは、買い向かいの好機となるだろう。

(三)米財務長官は資本主義社会の守護神。

(1)大多数のアメリカ人にとって住宅は最大の財産であり、貯蓄であり、豊かな消費生活の根元である。しかし世界中のエコノミストは一致して住宅市場の早期再建は不可能と論評していた。
(2)しかしポールソン財務長官は住宅公社2社の国有化に次いで、金融機関が保有する不良資産の買い上げに70兆円の財政資金を投入すると決断し、株価を急騰させた。彼の並はずれた精神力と果断な実行力は資本主義社会の守護神と呼ぶにふさわしい。その器量と度量のスケールは、日本の財務大臣と比較すればあまりにも歴然としている。
(3)マスコミはリーマンの倒産とAIGの救済を無原則と批判し、巨額の財政出動が米国の財政を圧迫すると懸念しているが、私は、そうは思わない。
 第1に、リーマン・ブラザーズは解体、分割、売却の過程で予想外の利益を計上するだろう。英国のHSBCに次いで、日本の三井住友銀行や野村證券も巨額を投入して買収に参加するするだろう。投資銀行業務のノウハウと人材を必要とする日本の銀行、証券にとってリーマン買収は千載一遇の好機となる。ちなみに住友銀行は20年前にゴールドマン・サックスの株式を取得して巨額の利益を得た。野村證券は縄張りの東京市場を外国証券に占拠されて手も足も出ない。
 第2に、AIGも分割、売却、再上場の過程で予想外の利益を生むだろう。時代錯誤の人海戦術から抜け出せない日本の生損保は、AIG買収に参画して先進的ノウハウを取得することができる。
 第3に、米財務省は銀行が保有する資産を入札によって買い上げると思われるが、住宅市場の再建に成功すれば、底値で買い上げた資産は宝の山に一変する。1990年に米政府はRTCを組成して不動産のデッドストックを買い上げたが、デッドストックはリート(不動産投資信託)に変身し、不動産相高騰の引き金となった。
(4)財政資金の投入が財政赤字を生み出すという論評は間違っている。資本主義社会ではリスクの大きさと利益の大きさが正比例する。日本でも数年前に政府が資本不足に陥った銀行に出資し、その直後に株価が急騰した経験が生々しい。
(5)さらに米国政府の決断を見て、100兆円単位の資金を持つオイルマネーと政府系ファンドが金融機関への資本注入を再開するだろう。その時世界の株価は本格的上昇を開始するだろう。

(四)巨大企業を倒産させた借り株の暴力。

(1)私たちは先週、歴史的な大暴落と大暴騰を体験した。
(2)大暴落の主役は、存在しない借り株を用いた売り崩しであった。
(3)今日では東京市場でも、外国証券が借り株を用いて実弾でカラ売りする。新興市場大暴落の真犯人は外国証券の借り株である。信用取引ならばカラウリは逆日歩で締め上げられるが、借り株で売れば取り組みがどんどん悪化する。
(4)欧米ではその借り株を3倍4倍に水増しして架空の借り株をでっち上げるから、どんなに巨大な銀行でも1日で半値、3日で紙くずになる。
(5)米英は先週末、ついに約定伝票の裏付けがない借り株を禁止した。その結果、ロンドンFTSEは1日で9%という史上最大の暴騰を演じ、ニューヨークダウも大反騰に転じた。
(6)今週からSEC(米国証券取引委員会)は相場操縦、風説の流布、約定伝票のない借り株を用いた売り崩し等の調査を強化する。
(7)借り株は一方的に売り方を利する。まして架空の借り株を用いて集中的に売り崩せば、巨大企業を瞬時に倒産させることができる。SECの調査に注目したい。