2008/9/16

  2008年9月16日(火)

(一)リーマン・ブラザーズ倒産の衝撃。

(1)リーマン・ブラザーズが倒産した。
(2)先週末にはバンクオブアメリカやHSBC等、内外大手金融機関による買収が成立か、との観測が強まっていただけに、週明けの株式市場に大きな衝撃が走った。
(3)欧米の株式市場は軒並みに4〜5%の急落となった。少なくとも寄りつき段階での東京市場への影響は避けられないだろう。
(4)リーマンは倒産したが、バンクオブアメリカに買収されたメリル・リンチの株価は上昇した。
(5)ニューヨーク市場の引け後に、FRBがJPモルガンとゴールドマン・サックスに対し、保険大手AIGに対する750億ドル(8兆円)の融資枠のとりまとめを要請した。大手銀行と投資銀行はFRBとの間に直接取引の窓口を開設しており、無制限の融資枠を与えられているから、融資を代行することになると見られる。
(6)残された最大の注目点はリーマンの債権債務の決済が順調に進むか否かである。

(二)ねらい打ちされた投資銀行。

(1)米国の投資銀行5行のランキングは次の通りである。
    1位。ゴールドマン・サックス。
    2位。モルガン・スタンレー。
    3位。メリル・リンチ。
    4位。リーマン・ブラザーズ。
    5位。ベアー・スターンズ。
(2)5社のうちメリルとベアーは買収によって救済されたが、リーマンは倒産した。ゴールドマンとモルスタは収益力が高く、救済、合併を必要としない。投資銀行の新たな破たんはないだろう。
(3)投資銀行は資金運用、ヘッジファンド支援、投資信託や証券化商品の組成等に特化した金融の卸売業である。メリル以外は個人営業部門を持たない。
(4)投資銀行は金融工学に基づくデリバティブを駆使して巨大なマネーを運用し、販売しているから、債権債務の実体が見えにくい。
(5)米国の投資銀行はウォール街に集中しているが、シティバンク(米国)やUBS(スイス)等の大手銀行は投資銀行部門を兼営している。JPモルガン・チェスとバンクオブアメリカは今回の買収によって待望の投資銀行分野に進出した。
(6)日本の銀行は預金、貸出業務と投信の小売りが中心である。野村證券も投資銀行部門を持たないから、縄張りの東京証券取引所でさえ、欧米勢に対抗できない。
(7)今回の金融不況で日本の銀行と証券は投資銀行部門を持たないために大きな損失をかぶらなかったが、世界の金融市場で欧米勢と戦うために、倒産したリーマンのノウハウと人材を獲得する好機である。

(三)金融市場の注目点。

(1)リーマンの倒産は大きなショックであったが、私は金融不安、金融不況は最終段階を迎えていると思う。理由は以下の通りである。
(2)リーマンは倒産したが、大手10社が700億ドル(7兆円の)のファンドを設立し、破たん企業が保有する証券の買い取りに宛てる。
(3)合併、買収による金融機関の再編成が急速に進む。
(4)米財務省はサブプライムローンの救済に4,000億円の資金を引き当てており、破たんの震源地は断たれている。
(5)米財務省は住宅公社2社を国営化し、さらに20兆円の資金を投入して住宅ローン関連証券を買い取る。これでデッドストックとなった不良債権の流動化が進む。
(6)住宅公社の国営化を受けて住宅ローンの新規申し込み件数が急増している。住宅ローン市場が拡大すれば、住宅価格、住宅販売の回復につながる。
(7)中国が政策金利2.7%の引き下げを発表した。石油相場の急落でインフレ懸念が後退しており、米国も早期に政策金利を引き下げる可能性が高い。FRBがベアー救済直後に政策金利を0.5%引き下げた時にはダウが急騰した。
(8)欧州と米国の中央銀行はリーマン倒産の直後に大幅な過剰流動性を供給し、融資条件も緩和した。
(9)AIGに対する救済融資は過剰流動性を用いた民金融機関間同士の救済適用第1号となった。大手10行による700億ドルのファンド設立も相互扶助の融資システムの一貫だろう。
(10)かくしてAIGをもって大手金融機関の破たん問題はピークを過ぎた。ワシントンミューチュアルとワコビアに噂があるが、小粒である。
(11)問題はリーマンの債権債務を解消する過程で、2次倒産、2次被害が広がらないかである。FRBの大規模な過剰流動性供給によって危機を回避する目途が立つかどうかに注目したい。