2008/8/25

  2008年8月25日(月)

(一)富山化学 T-705 の最新情報。

(1)8月22日付け朝日新聞の「新型インフルに切り札か。治療薬 T-705 実用化期待」を重要な情報と見て、クラブ9に即日転載した。ぜひとも参照されたい。
(2)注目点は次の通りである。
  第1に、日経ではなく朝日新聞の報道である。取材した行方史郎記者の氏名を入れて責任の所在を明確にしている。
  第2に、情報の出所が富山化学でも富士フイルムでもなく、富山大学の白木公康教授(ウイルス学)による科学的分析である。
  第3に、私が独自に富山化学等に取材した情報と一致している。
(3)以下に私見を加えて問題点を整理しておきたい。
  第1に、白木教授はマウスを用いたタミフルとの比較試験で、薬効に決定的な差があることを具体的、明快に検証している。
  第2に、富山化学に対する私の取材では、T-705 の臨床試験は日米ともフェーズ2であるが、現在まで開発の障害となるデータは皆無である。
  第3に、米国ではフェーズ1とフェーズ2の区別を一々発表しないという。臨床期間の長さから推定して米国ではすでにフェーズ3に入っている可能性もある。フェーズ3では発症した患者にT-705 を投与して臨床試験を行うが、米国は東南アジアの海軍基地に病院を配置しており、人体臨床の機会がある。
(4)日本を含む各国政府のタミフル備蓄額は昨年で7,000億円に達している。T-705 が発売された場合は、国家備蓄をそっくり肩代わりする可能性がある。
(5)これに備えて、富山化学はすでに工場建設を決議している。T-705 の供給責任を果たすため、欧米の製薬会社との間でライセンス導出の交渉が進んでいる。
(6)新型鳥インフルエンザは渡り鳥が飛来する冬場に患者が増えるが、オフシーズンの現在も毎日のように感染が報じられている。ヒト−ヒト感染が疑われる集団発生もあり、パンデミック(感染爆発)のリスクは高まっている。

(二)シティグループとトール・ブラザーズ。

(1)先週も米国では金融と住宅に悪材料が集中したので、2銘柄の日足を掲載した。
(2)シティグループは嵐のような悪材料を凌ぎ切った。トール・ブラザーズは悪材料をはね返し、戻り高値を更新する構えである。
(3)2銘柄の指標性から、金融市場と住宅市場の悪材料は折り込んだと私は思う。
(4)前回にジョージ・ソロスがリーマン・ブラザーズ株1.4%を取得したという小さな情報を伝えたが、週末に韓国産業銀行がリーマンを買収かという噂で急反発した。ソロスの情報網の健在ぶりを伺わせた。
(5)韓国がもし米国を代表する投資銀行の一つであるリーマンの買収に成功すれば、八方ふさがりの韓国経済に突破口を開く可能性がある。
(6)今や日本は足下の東京株式市場でさえ欧米の投資銀行に支配された。日本の銀行は今こそ欧米の投資銀行を買収し、逆襲する好機である。日本勢は80年代に世界の金融市場で欧米勢と互角に競い合っていた。その栄光の時代を挽回する気迫がほしい。

(三)暴落したファニーメイとフレディマック。

(1)先週は半官半民の住宅公社ファニーメイとフレディマックの株価が暴落し、世界の金融市場を不安に陥れた。
(2)住宅公社の信用不安は米国の金融市場、住宅市場の前に立ちはだかる最大の難関である。
(3)ポールソン財務長官は1兆円単位の資金を投入して2社をてこ入れする決意を表明しているが、国民の税金を投入するからには株主も責任を取るべきだという批判があり、2社の株価が暴落した。
(4)ポールソン財務長官はゴールドマン・サックスの会長からブッシュ政権にスカウトされた実力者である。その実践的解決策に注目したい。

(四)大暴落した仕組み証券を買うカルパース。

(1)日経が無視している情報の中に、私が注目する大材料がある。
(2)世界最大の私的年金であるカルパース(カリフォルニア州教職員年金)がサブプライム関連証券など、大暴落した仕組み証券に25億ドル(2,700億円)を投資すると表明した。
(3)サブプライムローンを組み込んだ証券はAA格債でさえ80%も大暴落した。AAという格付けは日本の国債やトヨタに匹敵する。サブプライムローン関連とはいえ、大部分は正常なローンで組成しているからこそ高い格付けを取得したのである。
(4)それらの仕組み証券は6月に80%安に暴落した後は横ばいである。私は7〜9月期には底値を脱出すると予想していた。
(5)カルパースの買い出動は私の期待を裏づける有力な徴候である。すなわちカルパースは80%も大暴落したAA格証券がさらに下落するよりも反騰に転じる可能性の方が高いと判断したのだろう。
(6)先見性に定評があるカルパースに追随する機関投資家が増えれば、大暴落した仕組み証券は宝の山となる。
(7)ちなみに、評価損が評価益に大逆転した場合のインパクトの強烈さを私たちは竹中大臣の金融政策で経験した。竹中大臣は銀行の大口融資を片端から不良債権と認定したために日債銀や長銀が倒産し、UFJ銀行は三菱銀行に吸収合併された。しかし2年後に不良債権は優良債券に大逆転し、大手銀行は巨額の評価益を計上して銀行株が暴騰した。日経平均も戻り高値を記録した。

(五)アメリカの政治経済のダイナミズム。

(1)9月までに、ポールソンの決断で住宅公社の再建が軌道に乗るだろう。これを契機に住宅ローンの申請が増えて住宅相場が底入れするだろう。
(2)10月までに、カルパースの買い出動を契機に、仕組み証券の一角が反騰に転じるだろう。
(3)欧米の金融機関がこれまでに計上した10兆円単位の評価損が評価益に逆転するにつれて、巨大なデッドストックが流動化する。
(4)時期と速度の予想にズレがあっても、住宅公社のてこ入れと仕組み証券の流動化は金融不況脱出の重要な契機になると私は思う。
(5)アメリカの政治経済にはヨーロッパや日本に欠落したダイナミズムがある。ニューヨークダウの先見性に注目したい。

(六)社長の犯罪で上場廃止となったアジアメディア。
   東証と野村證券は投資家に対する責任を果たせ。

(1)東証はアジアメディアの上場廃止を決定した。
(2)アジアメディアの馬駐日代表は事実を検証中と述べたままで、何も発表していない。しかし倒産していないから資金繰りはついているのだろう。
(3)東証の西室社長は昨年、中国企業の東証誘致に成功したとお祭り騒ぎで記者会見を開いた。それからわずか1年4ヶ月で上場廃止を決定すると、社長は逃げの一手で、顧客である投資家に対する説明責任を果たさない。
(4)主幹事の野村證券に至っては上場9ヶ月目に増資を強行させた。野村證券は上場と増資で2重の審査責任があるにもかかわらず、投資家に情報を全く開示しない。
(5)新規公開株の売出しに際しては投資家に必ず目論見書を届ける。東証と野村證券が審査した目論見書が嘘っぱちでは、投資家は何を頼りに投資すればよいのだろう。
(6)東証と野村證券は被害者ではない。明白な加害者である。加害者は被害者の投資家を2階に上げてはしごを外した。火の手が上がっても救援活動すらしない。これほど白昼公然たる企業の犯罪は前代未聞である。
(7)東証と野村證券が訴訟を恐れて逃げ回っているうちに、投資家の被害は拡大一途となった。投資家は売りか買いかを決断するための情報を必要としているのである。
(8)投資家が即座に知りたい情報は次の如くだろう。
  第1に、経営者の犯罪によって資産がどこまで毀損されたのか。
  第2に、倒産するのか。倒産した場合に、解散価値はあるのか。
  第3に、買収等によって事業を継承する企業があるのか。
  第4に、電通を初めとする日本の大株主は現状をどのように把握しているのか。保有株式を現在も持続しているのか。
(9)中国の冷凍ギョウザ事件よりも悪質で反社会的な巨大企業の犯罪を、投資家を読者とする日経は物言えぬ投資家に代わって追跡する使命があるのではないか。