2008/7/28

  2008年7月28日(月)

(一)逆転したヘッジファンドの運用手法。

(1)ヘッジファンドは何かを買えば何かを売る。そのヘッジの内容が過去3週間に劇的に大転換した。
(2)すなわち、石油買い・金融株売りから、石油売り金融株買いへ、大転換したのである。石油投機と石油需要がピークを打ったと見たからだろう。
(3)世界各地でガソリンの需要が減退した。中でも米国では大型車の売上高が急減してビッグ3が巨額の赤字を計上した。ビッグ3は大型車から小型車へ生産設備の転換を急いでおり、米国のガソリン需要は構造的に減るだろう。
(4)米国の石油化学は石油ではなく中西部の天然ガスを原料としている。日本では石油の半分近くを石油化学の原料であるナフサに加工するが、米国では輸入石油の大半をガソリンに加工する。それゆえニューヨークの石油相場はガソリンの需給関係が大きな影響力を持っている。
(5)アメリカの議会は年金の石油投機を規制する法案の審議に入ったが、規制を待つまでもなく、年金が資金を引き揚げたこともあってヘッジファンドは運用方針の大転換を迫られた。
(6)石油相場は戻り売りが続くだろう。

(二)空売り規制は強化へ。

(1)日本では空売りの規制は利かないという意見があるが、私は規制がさらに強化されると思う。
(2)米国で問題となった空売りとは、架空の借り株を用いた売り崩しである。口約束だけで契約書さえ存在しない借り株を認めないのは当然で、当局は規制を緩和するどころか、19銘柄から全上場銘柄に拡大する。
(3)当局はさらに次の一手に踏み込むだろう。日本でも相場が過熱した局面でしばしば用いられる「増し担保」で、米国では特に各種先物取引の証拠金を引き上げるだろう。

(三)縮小に転じた金融機関の不良債権。

(1)マスコミは金融機関の評価損が増え続けていると報道しているが、事実ではない。4〜6月期の評価損は1〜3月期よりも大幅に縮小した。
(2)サブプライムローンの評価損が拡大しているという報道も事実ではない。
(3)米国議会は先週、ファニーメイとフレディマックのてこ入れに関する全権限を財務大臣に与えた。さらにサブプライムローンの破綻者救済に4,300億円を投入する法案を可決した。
(4)現実にはサブプライムローンの借り手の多くがすでに自己破産によって決着したから、その不良債権をかぶった地方銀行が連鎖して破たんした。先々週のインディマックに次いで先週も2つの地銀が破たんしたが、いずれもカリフォルニア州ロサンゼルス、ネバダ州ラスベガス、フロリダ州マイアミで、サブプライムローンが集中した地域である。地銀の破たんはサブプライムローンに連鎖して発生したが、全米で発生したわけではない。
(5)大手金融機関の評価損はサブプライムローンから自動車ローンやカードローン等に対する引当金に移っているが、これもまた自己破産の二次被害と推定される。
(6)4半期ベースの評価損は縮小傾向が鮮明で、私は7〜9月期には評価損が評価益に逆転する銀行が現れると思う。その場合は増益幅が急拡大する。
(7)住宅価格が下落したから住宅ローンの破たんが増えるという予想にも、私は異論がある。理由は次項で述べたい。

(四)アメリカの住宅価格。

(1)アメリカの住宅価格は節税政策に支えられて過去50年以上、上昇し続けた。特に最近の10年間は人口が急増したカリフォルニア州、フロリダ州、ネバダ州で2ケタ上昇が続いた。
(2)しかし今年は現在までに15〜16%下落した。下落地域もまた前記の3週に集中している。
(3)日本では、今から米国の住宅価格の暴落が始まるという論評が多いが、アメリカの住宅事情を知らないゆえの思い込みだろう。米国政府の持ち家促進政策と財産形成支援策は表裏一体で、アメリカ人のライフスタイルの根幹である。
(4)アメリカ人は自分で所得を申告するから、誰でも自分の納税額を知っている。住宅ローンの金利は納税額と相殺されるから、住宅ローンの金利が納税額に見合うように計算して住宅を買う。
(5)税金が還付されるから、ローンの返済は10年で終わる。そのため普通のアメリカ人は生涯に3〜4度大きな住宅に買い換える。30年の住宅ローンを定年まで営々と返済し続ける日本と比べるとシステムが全く違う。
(6)今年は住宅が値下がりして節税余力が増えたから、潜在的な買い手は買い換えを済ませた人の3倍に達している。
(7)かくしてアメリカ人は住宅ローンの3倍の含み益を蓄積している。アメリカ人は借金まみれでもなければ、住宅の値下がりで破産にい込まれてもいない。消費主導のアメリカ経済はアメリカ人の持ち家の含み益の上に築かれているのである。
(8)これに対してサブプライムローンは税金を払っていない不法移民が高利のローンに飛びついて破たんした特殊なケースで、普通のアメリカ人の住宅ローンとは峻別する必要がある。
(9)アメリカの金融不況と住宅不況はサブプライムローンの破たんに起因しているから、財政の出動で破綻者の救済が進めば、不況も終わるだろう。

(五)私の相場観。

(1)9月頃に、サブプライムローンの損失処理が終わり、アメリカの住宅価格の下落は止まるだろう。
(2)7〜9月期には、評価損が評価益に逆転する銀行が現れるだろう。
(3)10〜12月期には、80%も大暴落したサブプライム関連証券の相場が上昇し、黒字幅が急拡大する銀行が現れるだろう。
(4)7月には、株価がこれを先見して2番底を形成した、と私は思う。
(5)秋以降には、景気と業績が好転し、株価は上昇傾向を鮮明にするだろう。
(6)最大の好材料はオイルマネーの株式市場参入である。産油国が1,000兆円単位のオイルマネーをいつまでも国債と現金で保有しているとは思えない。彼らが買い出動した時、ニューヨークダウは史上最高値に挑戦するだろう。

(六)資金繰りを断たれた反社会的企業。

(1)20日付日経ヴェリタス(3面)によれば、金融庁は昨年末から「反社会的勢力との関係を一切遮断する」という監督指針に基づいて銀行の行政指導を強化し、その結果、不動産、建設、サラ金等で倒産する企業が続出したのだ、と報じている。
(2)不動産業界には今春から貸し渋りの噂が流れていたが、私は日経ベリタスを見て初めて特定企業がねらい打ちにされたと知った。しかしこれもどうやら最終段階に近づいたらしい。
(3)一蓮托生で急落していた新興市場に底入れの兆しが見える。
(4)一方、全銀協の会長は余剰資金を抱えた銀行が貸し渋りするはずがないと明言していたが、確かに上場会社の大半が無借金となった現在は資金需要が乏しい。資金需要が最も旺盛な不動産業界の資金需給が正常化する時期は近いだろう。

(七)アジアメディア上場の重大な責任。

(1)アジアメディアの馬CEOは24日、「あずさ監査法人が監査意見を表明しない」と発表し、特設ポスト入りとなった。
(2)同社は昨年4月に東証マザーズに新規上場したばかりで、直近の四季報(08年第3集)は次のように記載している。「中国のテレビ番組業界のリーディング企業。テレビ広告代理業も有力。番組ガイドは上海から北京等へ拡大」と記載している。野村證券が主幹事の上に東証社長直々のお墨付きがあったから、誰もが飛びついた。
(3)東証の西室社長(当時)は上場に際して異例の記者会見を開き、中国企業の東証上場に道を開いたと胸を張った。
(4)上場時の審査の責任は主幹事の野村証券と東証とあずさ監査法人が負う。
(5)同社は東証と野村證券から太鼓判を押されて人気を集め、3,000円の高値を呼んだ。
(6)今年の2月には第3者割り当て増資を行った。増資の監査責任も野村證券とあずさ監査法人が負う。
(7)しかし風説によれば、上場直後に大株主が売却し、増資資金は全額社長の個人会社の赤字の補填に用いられた、という。これらの犯罪行為に対して東証と野村證券とあずさ監査法人は終始一貫ノーコメントを通している。世界第2位の東京証券取引所と日本1の野村證券の上場審査を信頼せずして投資家は何を信頼すればよいのだろうか。投資家は、倒産後に資産の配分があるか、再建の可能性があるか、など皆目見当がつかないから、たたき売るわけにもいかない。
(8)私はこれほど不可解な上場会社の犯罪と無責任な関係者を見たことがない。東証は中国企業の上場に道を開くどころか、中国企業の信用を完全に失墜させた。
(9)金融庁には早期に事件の内容を糾明して頂きたい。