2008/6/23

  2008年6月23日(月)

(一)正念場迎えたニューヨークダウ。

(1)ニューヨークダウが12,000ドル大台を割り込んで、11,842ドルに急落した。3月10日の11,740ドルを下回って新たな下落局面に入るか、踏ん張って2番底を形成するかの正念場を迎えた。
(2)東京市場も3月には弱気一色でマスコミは日本経済の斜陽論を競っていたが、私は強気の条件が成熟していると指摘した。
(3)現在のニューヨーク市場も弱気論に覆われているが、私は反騰の可能性の方が高いと思う。以下にあえて強気の条件を指摘しておきたい。

(二)アメリカは世界1の資源大国。

(1)アメリカはアラスカとメキシコ湾に210億バーレルに達する巨大な石油資源を保有している。しかしアラスカは野生動物保護のために、フロリダ沖のメキシコ湾は珊瑚礁や人魚の保護のために、議会が採掘を禁止している。
(2)ブッシュ大統領は先週、議会に対してアラスカとメキシコ湾の油井開発の認可を要請した。
(3)車社会のアメリカでは油田開発を望む世論が過半数に達しており、共和党のマケイン大統領候補は開発支持を表明した。開発に反対する民主党のオバマ候補との間で、大統領選挙の大きな争点に浮上している。
(4)アメリカはテキサスの大油田を発見して一気に世界1の超大国に躍進した。現在はテキサスの油井は枯渇したが、細々と採掘されているWTI(テキサス産の軽質原油)が今なお世界の石油相場の指標となっている。
(5)アメリカが新たな油井の開発に着手しても軌道に乗るまでには数年の歳月を必要とするが、開発すれば米国の国内需要を満たし、貿易収支の赤字は消滅する。それよりも世界最大の石油消費国であるアメリカの埋蔵資源の存在が石油相場に与える心理的なインパクトはきわめて大きい。
(6)アメリカは穀物資源でも世界ダントツである。
(7)アメリカは金の保有高でも世界ダントツである。
(8)アメリカは金融でも世界ダントツである。
(9)しかしアメリカは今石油の大半を輸入に頼り、世界最強の金融機関が赤字に陥ったために窮地に追い込まれているが、埋蔵資源を開発し、金融不況を克服すれば、世界最強のアメリカが復活する。アメリカ経済を過小評価するのは危険だ。

(三)ピーター・リンチの名声に学ぶ。

(1)日本には、アメリカの住宅ローンに関して大きな誤解がある。第1に、住宅価格の暴落でアメリカ人の住宅ローンが破綻するという誤解。第2に、アメリカ人は借金まみれで、過大な消費にうつつを抜かしているという誤解。この種の誤解に捕らわれた人にはアメリカの豊かな消費社会の実体が見えない。
(2)アメリカ人は住宅ローンの利息と税金を相殺することが出来る。月々の支払いは全部元本の返済に充てるから、10年でローンを完済する。住宅ローンの返済に30年を要する日本とは税金のシステムが根本的に違う。
(3)住宅ローンの返済が終わっても、より大きな住宅に買い換えたり、別荘を買ったりして節税の権利を行使するから、平均的なアメリカ人は定年までに住宅ローンの3倍の含み益を蓄積する。
(4)節税ローンによって蓄積した含み益こそがアメリカ人の貯蓄で、その含み益がアメリカの豊かな消費社会とアメリカ人の豊かな老後の源泉である。住宅価格が10%や20%下がったくらいではアメリカ人はびくともしない。それどころか新たな財産形成の好機が到来したと待ちかまえている。
(5)1980年代のアメリカの不況時に、住宅ローン大手のファニーメイとフレディマックが大幅な赤字を計上して、株価が暴落した。その時マゼランファンドのファンドマネージャーであったピーター・リンチは住宅ローンのシステムを分析し、確信を持って集中買いを入れた。彼は同時に暴落していたクライスラーにも集中買いを入れた。
(6)3銘柄はその後20倍に大暴騰し、ピーター・リンチは当時人気を集めていた「2階建てハンバーグ」にちなんで「20階建てハンバーガー」の尊称を奉られた。ピーター・リンチとマゼランファンドは不況を好機として不動の名声を確立したのである。
(7)格言にいわく。「人の行く、裏に道あり、花の山」。

(四)サブプライムローンは特殊で限定的。

(1)サブプライムローンは普通のアメリカ人の住宅ローンとは別物である。すなわち税金を払っていない不法移民等が目先の値上がり益を狙って高金利の住宅ローンに手を出した結果、住宅価格が下落するとたちまち返済不能となった。
(2)財務省はサブプライムローンの破綻者を救済するために30兆円の予算枠を設定したが、投機に失敗した人たちを国民の税金で救済するのは公平ではないという反対論が強く、実行面で難航している。
(3)現実には、サブプライムローンの大半が自己破産となった。債務者の破産によって発生した赤字を銀行がかぶり、株価が80%以上暴落した地方銀行も少なくない。
(4)しかしサブプライムローンの破綻とサブプライムローン関連証券の暴落によって深刻化した金融不況はすでに最悪期を過ぎた。
(5)特に80%も大暴落したAA格債は投資の好機である。金融機関が計上した30兆円の損失の過半を占める評価損はサブプライム関連証券の相場が回復すれば評価益に逆転する。その時期は近い、と私は思う。
(6)現在の金融不況は第2段階に移っている。貸出先の業績悪化に対応して銀行が貸倒引当金を積み増すなど、景気や業績の悪化が主たる原因となっている。
(7)金融機関はさらなる自己資本の充実や資産の圧縮を迫られており、修復には時間が必要であるが、金融不況は緩やかながら終息に向かっている。
(8)株価には通常6ヶ月の先見性がある。株価はいつ反騰に転じてもおかしくないと私は思う。

(五)増加する資金、好転する需給。

(1)サブプライム問題が表面化した時、大手金融機関は一斉に増資による自己資本の増加と資産の圧縮に走った。この時、大規模な第3者割り当て増資を引き受けて窮地を救ったのは政府系ファンドとオイルマネーであった。
(2)先週、住友銀行はバークレイ銀行の第3者割当て増資1,000億円を引き受けた。日本の金融機関はサブプライム被害が軽微であったから、資本提携、業務提携によって主導権を握る好機である。
(3)オイルマネーはアメリカの有名商業ビルの買い付けに乗り出した。再度大手金融機関の第3者割り当て増資を引き受ける可能性もある。
(4)欧米の金融機関は30兆円の赤字を計上して資金不足に陥ったが、政府系ファンドの資金量だけでも年間200兆円ベースで急増している。
(5)私は株価を決定する最大の要因は景気や業績よりも需給関係だと確信している。現に過去2ヶ月間に数兆円の外国資金が東京市場に流入しただけで日経平均は急騰し、エコノミストの弱気論を粉砕した。
(6)暴騰した石油相場に比べれば、暴落した株式、不動産、サブプライム関連証券はオイルマネーや政府系ファンドにとって買いの好機である。
(7)「知ったらしまい」という格言がある。ニューヨークダウを圧迫してきた悪材料は周知の事実となり、鮮度の高い悪材料は石油相場の暴騰くらいだろう。こうなると株価は小さな好材料にも反応しやすい。
(8)もしニューヨークダウが反騰に転じれば、孤立無援の日経平均にとって強い味方となる。