2008/5/19

  2008年5月19日(月)

(一)窮地に追い込まれた弱気派。

(1)日経も、エコノミストも、証券会社も、本音はみな弱気である。強気の人でも、現在は下げ過程の中の中間反騰に過ぎないと見ている。
(2)信用取引の取り組みを見れば個人投資家の弱気も鮮明である。減少一途の買い残に対して、売り残は増勢一途で、日証金では大半の銘柄が株不足となり、逆日歩が続出している。
(3)弱気派は、出来高が20億株を上回らない限りたいした相場にならないと高をくくっていたが、先週末には20億株の壁を苦もなくに突破した。
(4)外国人投資家も3月までは弱気一色で東京市場に売りヘッジを集中していたが、現在は大幅な買い越しに転じた。
(5)弱気派の買い戻しが上げ相場の主役だとすれば、踏み上げが一巡すれば、目先は調整となる。
(6)しかし株式市場外の資金の流れに変化が見える。株式から国債に逃避していた資金が急速に株式に環流している。その結果、株価が上がり国債相場が下がっている。
(7)私は、かねてから急増するオイルマネーが株式市場に流入するのは時間の問題だと指摘していたが、サウジアラビアが政府系ファンドを立ち上げて対日投資を開始した可能性はきわめて高い。
(8)買いの主役が見えないまま、弱気派は窮地に追い込まれている。

(二)減益予想の虚と実。

(1)前3月期の決算発表が一巡した。弱気論者が主張したように、好調な前期実績に対して今期予想は7年ぶりに減益となった。素直に見れば景気と業績の悪化は今から始まるが、減益予想の中には様々な思惑が含まれている。
(2)第1に、多くの企業が自社株買いを発表した。もし経営者が本気で業績悪化を予想しているのであれば、値下がり必至の自社株を買わないだろう。
(3)第2に、みずほ銀行は前期の大幅減益と今期の大幅増益を同時に発表した。前田社長は、今期はサブプライム関連の評価損が増加しないと見ているのである。私は今期に評価損が評価益に逆転すると主張しているが、そうなればみずほ銀行の増益幅はさらに拡大する。
(4)第4に、多くの輸出企業が大幅減益予想を発表した。想定為替レートは100円に集中している。もし経営者が本気で円高を予想しているのであれば現在の105円は絶好のヘッジ売りのチャンスとなる。私は円安と見ているから、110円に下落すれば10%の増益要因となる。
(5)第5に、住友金属鉱山は非鉄市況の急落で今期の利益を30%減と予想した。それならばなぜ商品の先物市場で売りヘッジをかけないのだろう。経営者の言行が一致しない企業は外国資本に買収された方が株主の利益になる。もっとも、住友金属鉱山の経営者は毎期、利益を過小に予想する癖がある。
(6)新日鉄は過去において自動車業界と値上げ交渉に入る時には常に大幅な減益予想を出している。果たして今回もトヨタが30%の値上げを飲んだ。これで新日鉄は減益幅を大幅に縮小し、値上げを飲んだトヨタも製品値上げの大義名分が立つ。世界中の自動車メーカーは間もなく一斉に値上げに踏み切るだろう。
(7)かくのごとく、表面は大幅減益予想でも水面下では虚実が入り乱れている。日経やエコノミストは不況だ、減益だと血相を変えるが、株価は何でも知っている。新日鉄の株価は値上げを織り込んですでに大幅高していた。

(三)サブプライム問題の行方。

(1)世界の株価を大暴落させた最大の原因はサブプライムローンの破綻である。その現状と行方に関して改めて私見を述べておきたい。
(2)第1に、3月にはサブプライムローンを含んだ証券化商品の暴落が、サブプライムを含まない正常な証券化商品に波及し、軒並みに80%の大暴落となった。
(3)しかしすでに80%暴落した証券はこの先ゼロになっても、20%しか下がらない。現実には、A格債は期日まで持てばほぼ額面で償還されるから、売らなければ評価損は必ず評価益に逆転する。
(4)しかるにIMF(国際通貨基金)は今後2年間に不良債権が3倍の90兆円に激増するという予想を発表し、多くのエコノミストが追随した。今後5年間、株式市場は立ち直れないと主張した大学教授もいた。
(5)悲観論の極めつけは昨日の朝日テレビであった。共産党の志位委員長が登場して「マルクスの資本論」「資本主義社会の限界説」が亡霊のようによみがえった。
(6)しかし驚くには当たらない。不良債権が90兆円に達するということは、正常な住宅ローン、銀行カードローン、自動車ローン等が片端から破綻し、世界経済が恐慌に陥ると主張したも同然である。マルクスもびっくりするような恐慌論を口にするエコノミストや日経は一体どんな歴史観を持っているのだろう。
(7)もちろん米国はケインズ理論に従って不況対策を強化している。3月初めまでに米国政府はサブプライムローンの救済に、FRBは投資銀行の救済にそれぞれ30兆円の資金枠を設定した。「30兆円」はこれまでに発生した不良債権を全部肩代わりする金額である。この時私は金融不況の終息を確信した。
(8)3月のベアースターンズ救済を境に市場心理は変化した。強気は依然として少数派であるが、バフェット氏が企業買収に乗り出し、ゴールドマン・サックスが保有証券を増やすなど、先見性に定評がある面々が投資を積極化した。
(9)4月に入ると株価は充満する弱気論をはね返して上昇した。相場の先見性を信頼すれば、金融機関の不良債権は縮小に転じるだろう。
(10)不良債権が縮小したという事実が表面化したとき、弱気論者は沈黙し、株価は本格的上昇期を迎えるだろう。その時期は4〜6月期決算が具体化する7月かと私は思う。

(四)富士フイルム。

(1)富山化学は16日、アルツハイマー型認知症治療薬 T-817MA のフェーズ II を米国で開始したと発表した。
(2)同社のホームページによれば対象患者は世界で1,800万人だが、2025年には3,400万人に倍増する。富山化学がもし他社に先駆けて開発に成功すれば、潜在患者数から推定して、史上最大の超大型新薬となるだろう。
(3)現在は、エーザイを含む複数の製薬会社が認知症の「進行を止める」薬品を販売しているが、「治療する」薬品はまだない。
(4)本格的な治療薬は現在、世界中で開発競争となっているが、フェーズ I をクリアしたのも、フェーズ II に進んだのも富山化学が第1号である。
(5)富山化学は、鳥インフルエンザ特効薬 T-705 でもフェーズ II が進行中である。新型鳥インフルエンザがパンデミック(爆発的大流行)に発展すれば、世界で数億人の死者が発生すると予想されている。
(6)パンデミックに備えて世界中の国家がロシュ社のタミフルを備蓄しているが、富山化学はフェーズ II でタミフルとの比較臨床テストを行っている。 T-705 の優位が証明された場合は国家備蓄の入れ替えだけでも巨額の需要が見込まれるから、富士フイルムは早くも100億円を投じた新工場の建設計画を発表している。
(7)T-817MA と T-705 は共に人類が待望する大型新薬である。その双方で富山化学はフェーズ II に入った。
(8)最終のフェーズ III をクリアするまで楽観は出来ないが、現在の株式市場で2つの新薬開発に匹敵するほどの大材料を私は見つけることが出来ない。