2008/5/12

  2008年5月12日(月)
  強気論の2つの条件。
   金融機関の評価損が拡大から縮小へ。
   新規の政府系ファンドが株式市場に流入。

(一)不景気の株高。

(1)イングランド銀行総裁と米国財務長官が先週、相次いで金融不安は最悪期を脱したと述べた。3月のベアースターンズ救済以降、一部に強気論が台頭していたが、今回の米英の政策責任者の発言には格段の重さがある。
(2)米国は。財務省が30兆円の資金枠を設けてサブプライムローン破綻者の救済に当たり、FRBが30兆円の資金枠を設けて投資銀行を救済した。
(3)30兆円という金額はサブプライム関連の証券化商品で世界中の金融機関がこれまでに計上した全損失額に匹敵する巨額である。最高責任者である米ポールソン財務長官の発言は凡百のエコノミストの弱気論に勝る。
(4)しかしエコノミストは、金融不安が最悪期を脱したとしても、景気と業績の実勢悪が今から始まると合唱している。
(5)エコノミストの弱気論が「不景気の株高」を誘発したのだ、と私は思う。不景気でも、大幅減税を断行し、金融を緩和すれば株式の需給関係が好転して、株価は上がる。エコノミストが弱気論を主張すればするほど中央銀行は過剰流動性をばらまくから、不景気の株高が進行するのである。
(6)株高は、企業の資金調達と設備投資を誘発し、個人の消費と住宅投資を誘発して、景気を好転させる効果がある。

(二)仕手色が強い局面。

(1)現在は強気論が台頭する一方で弱気論が巻き返す局面だろう。
(2)強気が少数意見、弱気が圧倒的な多数意見であることは信用取引の取り組みを見れば歴然としている。
(3)信用取引の買い残は昨年11月以来減少を続けていたが、直近ではわずか25%に激減した。一方、売り残は増勢一途で、3市場全部の取り組みは1.2倍に急接近した。日証金に至っては大半が株不足となり、逆日歩銘柄が続出している。
(4)大多数の個人投資家は直近の上昇局面を戻り売りの好機と捕らえたのである。
(5)しかし過去1ヶ月間に関する限り、信用取引の空売りが急増して、安値で取り残された売り方が不利となっている。

(三)新規買いの主役はサウジアラビアか。

(1)そこで大きな疑問が生まれる。
 第1に、過去1ヶ月間に個人投資家は大幅に売り越した。
 第2に、機関投資家も、内外の投資信託が大量の解約に見舞われて資金量を減らしているから、大幅に買い越す余力があったとは思えない。
 第3に、にもかかわらず外国人投資家は過去1ヶ月間に、大幅に買い越した。一体外国人の中で、誰が大量に買ったのだろう。
(2)私はかねてから、政府系ファンドが急増しており、買い出動は時間の問題だろうと述べてきたが、7日付け日経夕刊がさもありなんと思われる記事を掲載した。すなわち「サウジアラビアが5,600億円の政府系ファンドを設定し、日米欧企業に重点的に投資する計画だ」と報じたのである。
(3)サウジアラビアは中東産油国の中では運用手法が最も保守的で、これまでは通貨庁(中央銀行)が米国国債を中心に40兆円を運用してきた。今回は財務省が通貨庁とは別枠で政府系ファンドを立ち上げて、財務大臣が自ら運営に当たるというのである。
(4)私は、サウジアラビアの政府系ファンドこそ直近の外国人買いの主役であったのではないかと直感した。しかしサウジアラビアの財務大臣はこれから買うと表明したのであって、買ったとはいっていない。それゆえ以下に私の個人的な推測を加えたい。
 第1に、大量に買いたい投資家が、今から買うよと予告するはずがない。サウジアラビアの財務大臣は密かに第1弾の買いを終了した後で情報開示に踏み切ったのではないか。
 第2に、5,600億円という資金量は世界1の産油国であるサウジアラビアの財政規模から見れば小さすぎる。財務大臣が直轄するからには短期間に10兆円単位で拡大するだろう。
 第3に、私はこの点が最も重要だと思うが、新たに巨額の資金を投資する政府系ファンドにとって、現在の株価の暴落は千載一遇の買いの好機となった。

(四)政府系ファンドの資金規模。

(1)政府系ファンドに関する情報は乏しいが、IMF(国際通貨基金)は、現在は2〜3兆ドルであるが、5年後に6〜10兆ドルに急増すると推定している。
(2)世界第2位の経済大国日本の株式の時価総額でさえ500兆円に満たない。もし向こう5年間で400〜700兆円の巨大資金が新たに株式市場に流入すれば、世界の株価の水準は一変するだろう。
(3)金融市場が大混乱に陥った間も、商品市場ではすべての商品が騰勢を加速した。中でも石油の暴騰は産油国に巨額の利益を上積みしている。人口が少ない中東産油国はその利益を「次世代のための基金」として世界の株式、米国国債、不動産で運用して来たが、新たに政府系ファンドが加わった。
(4)中国に次いでロシアも政府系ファンドを立ち上げると見られており、国策による企業買収が横行すれば大変だと心配されていた。しかしシティバンク、UBS、メリルリンチ等の大口増資を引き受けて政府系ファンドは白馬の騎士となった。
(5)石油相場の大暴騰で巨額の利益が転がり込んでくる産油国にとって、世界的な株式と不動産の暴落は千載一遇の好機である。彼らは買い出動のタイミングを虎視眈々と狙っていると考えておくべきだろう。
(6)よって私は前項の仮説が見当外れだと思わない。事実は時間の経過と共に明らかになるだろう。

(五)強気の前提、或いは条件。

(1)第1に、6月までに金融機関の評価損が拡大から縮小に転じる。
(2)第2に、早晩、産油国が、新設した政府系ファンドを株式に投資したという情報が表面化する。
(3)上の2点が、私の強気のシナリオの前提であり、条件である。空振りに終わる可能性がないわけではない。

(六)東芝。

(1)東芝は先週、3年後に売上高を30%、営業利益を2倍強に増加させる中期計画を発表した。
(2)アナリストの間では、特に営業利益の目標が強気すぎるというコメントが多いが、西田社長は、社内目標はもっと高いと胸を張っている。
(3)昨年ウェスティングハウスを買収した効果で原子力発電の受注が30基を超えるという予想がある。この点が強気計画の最大の根拠ではないかと私は思う。
(4)原子力発電がらみで子会社の東芝プラントにも注目したい。