2008/4/21

  2008年4月21日(月)

(一)ナポレオンの栄光と挫折。

(1)ナポレオン・ボナバルトはフランス革命の完成者として帝位に就いた。すなわちナポレオン一世である。
(2)ナポレオン一世はヨーロッパ大陸を席巻し、余勢を駆ってロシアに侵攻した。60万人の大軍で連戦連勝し、首都モスクワを陥落させた。
(3)ロシアのクトーゾフ将軍は連戦連敗して首都モスクワを明け渡した。ナポレオンはロシア皇帝の降伏の使節を待った。このときナポレオン一世は栄光の頂点にいた。
(4)トルストイは大長編小説『戦争と平和』で、ロシアから見た侵略戦争の顛末を活写している。私は学生時代に1週間ぶっ通しで『戦争と平和』を読破した時の興奮と感動を今も忘れない。
(5)冬に入るとロシアの大地は雪に覆われた。雪を待ってクトーゾフはモスクワに火を放つ。雪に補給を阻まれたナポレオンは撤退へ追い込まれた。
(6)このときクトーゾフは初めて反撃に転じ、敗走するフランス軍を執拗に追尾する。ナポレオンがパリに帰着した時、60万人の大軍は5,000人へ、100分の1以下に消滅していた。
(7)このような大逆転のドラマは株式市場ではしばしば起こる。現在も私はクトーゾフ将軍の焦土作戦を思い浮かべながら、史上最大の金融不況の終えんに確信を深めている。
(8)歴史はくり返す。ヒットラーはナポレオンの轍を踏んでロシアの冬に敗退した。第2次世界大戦でドイツが誇る機構師団は長駆してレニングラードを陥落させた。しかし雪の荒野に補給を遮られて機動力を失い、致命的な大敗北を喫した。ヒットラーはナポレオンの歴史的な大敗北を知らなかったのだろうか。そうではあるまい。ヒットラーは自らが構築した機構師団の威力を過信したのだと思う。過信のあまり大勢観を見失う失敗を、私は相場で山ほど経験した。
(9)名声を謳われたグリーンスパン前FRB議長でさえ、今回の金融不況は違う、修復に2年はかかると述べている。悲観論は瞬く間に増幅し、IMFは不良債権の予想を25兆円から92兆円へ改訂した。
(10)しかし人類には英知がある。投資銀行は最先端のノウハウを結集した証券化商品を過信したために窮地に陥ったが、屈しないだろう。彼らは、半年後には破綻を乗り越えるノウハウを再構築し、荒稼ぎしているだろう。
(11)私は楽観論者だから、常に強気の立場で相場を読む。間違いも多いが、底値からの大逆転は見落とさないつもりである。

閑話休題(無駄話はさて置いて)。
(二)大逆転の徴候。

(1)UBS、ゴールドマン・サックス、JPモルガン・チェス、ベアー・スターンズ等、投資銀行のトップが先週、相次いでサブプライム問題は最悪期を過ぎたと述べた。金融不況の直撃を受けた経営者の発言は凡百の評論家の発言よりも重い。
(2)シティバンクとメリルリンチの評価損は10〜12月期が最悪で、1〜3月期には縮小に転じた。大勢は1期遅れて1〜3月期が最悪期となるだろう。
(3)IMFが2年後に92兆円と予想した評価損を私は信じなかった。官民合わせて60兆円に及ぶ救済資金がピンポイントで評価損の発生源に届き始めたからである。不良債権が縮小に転じる徴候を、私は毎週具体的に指摘した。
(4)景気や業績の悪化も、金融不況が原因となって進行した。サブプライム問題を解決すれば金融不況は終わり、景気と業績は底入れする。

(三)相場の先見性。

(1)私は相場の先見性を重視する。
(2)米国では多くの銀行が史上最大の赤字を計上し、悲観論が株式市場を覆い尽くしていたが、銀行株はとっくに底入れしていた。マスコミは住宅不況の報道を競い合っているが、住宅株はとっくに反騰に転じていた。
(3)私は相場の先見性を重視する立場から、躊躇せず金融と不動産を反騰の指標業種に掲げた。
(4)個別銘柄ではシティバンクとみずほ銀行を推奨株のトップに掲げた。両社は米国と日本でそれぞれ最大の評価損を計上したが、相場の先見性を信頼すれば、評価損は評価益に一変するからである。
(5)例えば、日経は20日の株式欄で3月決算を確かめて株を買えと助言しているが、数字を確かめた時には相場のおいしい局面は終わっている。
(6)先見性を欠いた相場観は、相場観とは無縁の結果論、或いは結果の解説に過ぎない。毒にはならないが薬にもならない。

(四)需給関係こそ相場の決め手。

(1)私は、株価を決定する最大の要因は景気や業績よりも需給関係だと思う。
(2)株式相場は暴落したが、商品相相場は暴騰した。商品市場では石油相場が錬金術の壺となって日夜を問わず、巨大なキャッシュを噴出している。
(3)石油の騰勢は衰えるどころか鉄鋼、非鉄、貴金属、穀物等、すべての商品相場に波及した。唯一出遅れていた米相場もタイ米が直近3ヶ月で2倍に暴騰した。
(4)中東産油国では「次世代のための基金」が国家予算の中核を占めているが、増勢一途の資金を活用するために別枠で「政府系ファンド」を新設している。
(5)株式市場では買い手不在、資金不足が弱気論の根拠となっているが、水面下ではオイルマネーが100兆円単位で積み上がっている。商品市場で積み上がった資金は早晩、必ず株式市場に流入する。100兆円単位の新規資金を運用することができる市場は株式市場以外に存在しないからである。
(6)需給関係を無視する弱気論者には大相場の到来が見えない。

(五)逆転する需給関係。

(1)信用取引の取り組みが極端な買い長となっていたみずほ銀行が、あっという間に株不足となり、逆日歩がついた。借り株の買い戻しによる実弾買いが集中した結果だろう。
(2)銀行は金を貸すのが商売である。金融不安が後退すれば銀行の資金繰りが好転し、最大の資金の取り手である不動産に資金が回る。不動産相場は反騰に転じるだろう。
(3)買収ファンドには無制限の資金需要が潜在している。TOBは昨年を凌ぐ活況を呈するだろう。
(4)大暴落した新興市場銘柄にも出番が回ってくるだろう。特に借り株によって一方的に売り崩された銘柄の反発力に注目したい。意味不明の暴落を演じた野村マイクロも底値圏を脱出したように見える。半導体市況の好転も株価を刺激するだろう。
(5)世界の株式市場の中でも東京市場の反発力が最も強い。暴落課程でアジア株のヘッジ売りを一手に集めた反動が表面化した。
(6)これらの逆転現象はすべて私が予想した通りに進行している。背景には共通して需給関係の逆転がある。
(7)これまでは巨大な空売りが東京市場の需給関係を破壊したが、今や買い戻しが需給関係を改善する局面に転じた。

(六)富士フイルム。

(1)渡り鳥の季節が過ぎたにもかかわらず、韓国で新型鳥インフルエンザが広がっている。発生源がわからないところが不気味である。
(2)富士フイルムが富山化学から引き継いだ鳥インフルエンザ特効薬 T-705 は日米で臨床試験が進行している。臨床データの開示が株価の波乱を呼ぶだろう。
(3)新しい四季報は富士フイルムの医薬品部門の売上高を10年後に1兆円と記載している。私は当然の目標だと思う。
(4)売上高2.8兆円の巨大企業にとっても、新規分野の1兆円は株価に十分なインパクトを与える金額である。新薬の利益率が格段に高い点も要注目である。
(5)新型鳥インフルエンザがパンデミック(爆発的流行)に発展すれば、世界の経済は麻痺し、株価は大暴落するだろう。
(6)富士フイルムは攻守両面を備えたヘッジ銘柄として、ポートフォリオに採用する機関投資家が増えるだろう。需給関係の好転も好材料となる。