2008/4/14

  2008年4月14日(月)

(一)世界の反騰をリードする東京市場。

(1)私は再三、下落過程で東京市場は世界で最も値下がりしたが、反騰課程では最も値上がりするだろうと述べてきた。以下に根拠を示し、ご参考に供したい。
(2)市場性の高さと多様な先物市場の発達によって、東京はニューヨークに次いで大規模なヘッジ売りが可能な市場となった。しかしそれゆえに暴落課程でアジア市場のヘッジ売りが東京に集中した。その結果、東京市場は世界で最も大幅に下落したが、同時に巨大な空売りを飲み込んだ。
(3)しかし空売りは多様な形で潜在している。
 第1に、個人投資家の目に映る空売りは信用取引の売り残であるが、信用売りは巨大な空売りの一部に過ぎない。
 第2に、最大のヘッジ売りは先物市場に潜んでいるが、先物市場は外国証券に占拠されてわかりにくい。
 第3に、オプション市場も有力なヘッジの市場である。そのオプション市場は騰落が最も激しい。
 第4に、借り株市場のスケールも大きい。外国証券は一部市場の大型株から新興市場の新規上場株まで、借りられない株はないと豪語している。
(4)これらの市場を活用すれば、どんなに巨大な売り玉をも即座にヘッジすることができるから、東京市場にアジア市場のヘッジ売りが集中したのである。当然、現在も巨大なヘッジ売りが先物、オプション、借り株等の市場で積み上がっている。
(5)しかしヘッジ売りは相場が反騰に転じると見れば買い戻さなくてはならない。東京市場が最近突如として独歩高を演じるのは、買い戻しが集中した結果であると私は推定している。

(二)投資銀行の最先端技術。

(1)もし借り株を用いた実弾売りを信用取引の空売りに加算すれば、新興市場を含めた信用取引の貸借倍率は圧倒的な売り越しとなり、逆日歩ラッシュとなるだろう。
(2)しかし借り株市場は主として外国証券と信託銀行の相対取引で実体が開示されていないから、特に新興市場の小型株が突然の急落、暴落に直面する。借り株を用いた売り崩しは姿を隠した不公平な敵である。
(3)借り株市場や先物市場で最先端のノウハウを駆使している投資家は欧米の投資銀行である。ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーやリーマン・ブラザーズのような投資銀行は日本には存在しないから実態が知られていないが、投資銀行のノウハウの根底には数学がある。
(4)異なる株式市場。異なる業種と銘柄。現物と先物。オプションと借り株。それらの異次元にまたがる空間を利用して瞬時に大規模なヘッジ売りを実行するために、数学は不可欠の武器である。
(5)そのために欧米のヘッジファンドは30年前から理数系の学生しか採用していない。といっても欧米では経済学部が理数系学部で、経済学はとっくに数理経済学の時代には移っている。ノーベル経済学賞の受賞者も大半が数学者である。東大や京大にマルクス経済学が残っていることが世界の経済学部の奇跡である。
(6)野村證券がバブル時代の末期に世界1の利益を計上した時、私は、田淵会長は今こそ野村證券を肉体労働から頭脳労働に転換させる好機だと述べたことがある。それから20年がたった。世界の証券業務は昔も今も高度な知識集約型産業であるが、日本の証券界は数学を持たないために東京の先物市場でさえ外国証券に占拠されて手も足も出ない。

(三)投資銀行の誤算。

(1)しかし今、欧米の投資銀行は株式市場と同様に債券市場であまりにも先端的なノウハウを駆使し過ぎたために窮地に陥った。すなわちサブプライム問題である。
(2)サブプライムローンはアメリカの住宅ローンの10%にも満たないが、その破綻が世界の金融市場を揺るがす大事件に発展した。投資銀行が組成した住宅ローン証券は、サブプライムローンをわずかしか組み込んでいないにもかかわらず、半年で80%も大暴落した。これをきっかけに住宅ローンと無関係の自動車ローンや銀行ローン等で組成したすべての証券が連鎖して大暴落したのである。
(3)投資銀行は先端的なデリバティブのノウハウを駆使しているから買い手の金融機関には内容が把握できない。金融市場は疑心暗鬼に陥って投げが投げを呼ぶ恐慌状態に陥ったのである。
(4)IMFは先週、証券化商品の不良債権は2年後に92兆円に達するだろうと発表した。昨年10月には24兆円と推定していたから爆発的な拡大である。被害はサブプライムの領域を超えてすべての証券化商品に拡大し、世界の株価を暴落させたのである。
(5)巨大な不良債権を抱えた金融機関の不信感は発売元の投資銀行に向かい、先ずベアー・スターンズが資金繰りに窮した。

(四)転機を迎えた不良債権問題。

(1)しかしここにいたって、信用不安が転機を迎えたと私は思う。
(2)米国政府はサブプライムローンの救済に30兆円を拠出し、FRBは投資銀行の救済に30兆円の資金を供給した。ベアー・スターンズはJPモルガン・チェスに救済合併された。詳細については前回のクラブ9を参照されたい。
(3)第1の火元であるサブプライムローンは新たな破綻が急減する。第2の火元である投資銀行の資金繰りにめどがつく。火種を消せば、金融不安は解消に向かう。
(4)景気や業績も金融不安が解消すれば、好転する。政府と中央銀行の対策が軌道に乗ると見れば、株価は先見性を発揮して反騰に転じる。
(5)悪材料を織り込んだ後には巨大な空売りが残る。東京市場と同様にニューヨーク市場とナスダック市場も史上最大の空売りを抱えている。拡大一途の政府系資金も買いのタイミングを計っている。
(6)私は大相場が始まる条件が熟していると思う。特に銀行株は決算悪が買いの好機となるだろう。

(五)富山化学を買収した富士フイルム。

(1)富士フイルムが富山化学の買収に成功した。富山化学の新薬開発力を高く評価してきた私は、富士フイルムが富山化学から新薬の開発情報を聞いて飛びついたのは当然だと思う。私としては不本意ながら、電光石火の行動力に敬意を払わざるを得ない。
(2)新薬開発情報の第1弾として、5月に新型鳥インフルエンザ特効薬 T-705 のフェーズ1がアメリカで、フェーズ2が日本で終了する。6〜7月には臨床データの開示が予想される。米政府から開発資金が交付される可能性もある。
(3)第2弾のアルツハイマー治療薬、第3弾のリュウマチ治療薬等の大型新薬も続いている。開発の進捗状況が開示される度に、時価総額が大きな富士フイルムの株価にも十分なインパクトを与えるだろう。
(4)富士フイルムは主力の写真フイルムが斜陽化したにもかかわらず、今期に史上最高益を大幅に更新するのだから、経営力が傑出している。利益剰余金は1.9兆円。どこから見ても文句のつけようがない超優良企業である。
(5)富山化学は終始開発資金の調達に苦労したが、キャッシュリッチの富士フィルムが惜しみなく資金を投じれば、開発効率と開発時間が短縮される可能性がある。
(6)富山化学のように株価10倍の夢は期待できないが、富士フイルムの現在の株価は1株当たりの純資産を割り込んでおり、理論面でもチャート面でも底値圏にある。リスクが小さく、果実は大きい。
(7)特に富山化学の株主に、乗り換えによる夢の持続を勧めたい。

(六)金融(日銀)と財政(財務省)の分離は当然。

(1)日銀総裁人事で、福田総理は「大蔵省出身のどこが悪いか」と民主党の小沢代表に食ってかかっていたが、私は一貫して「悪い」と主張してきた。
(2)欧米の中央銀行は金融危機に際して密接な政策協議を重ねているが、世界第2位の経済大国の日銀は相手にされない。さもありなん。0.5%の公定歩合では協調利下げの余地がない。
(3)エコノミストは、日本は外需頼みで内需をおろそかにしていると批判するが、もし定期預金の利息を欧米並みの4%にすれば、日本人は年間20兆円の利息収入を得るから、即座に消費や住宅投資が活発となり、景気が好転する。
(4)しかるに日銀が金利を上げないのは、財務省の顔色を見るからである。その財務省は700兆円の国債発行に責任がある。日本の長期金利が1%上がるたびに国債の利払いが7兆円増えて、財政に大きな穴があくことを恐れる。
(5)現実には、利上げによって国民が年間20兆円の利息を受け取れば、消費が増えて景気が好転し、税収入が増えるから、国債の利払い負担を補うことができる。
(6)しかし財務省の秀才官僚は将来の景気好転よりも現在の財政均衡を優先するから、日銀の公定歩合引き上げを許さないのである。
(7)サブプライムローン問題は幸いにも対岸の火事であるが、例えば明日関東大震災が起こって日本の首都が壊滅した時、日銀は公定歩合の大胆な引き下げによって国家存亡の危機を救うことができない。
(8)日銀は早期に日本の金利体系を国際水準に整合させる責任がある。当然の責任を果たすためには、財務省の天下りを断固として排除する必要がある。