2008/4/7

  2008年4月7日(月)
  株式相場は大底を入れたか。

(一)急騰したオプション。

(1)チャートは日経平均12,500円、4月11日決済のコールオプションである。
(2)オプションになじみのない人は赤い囲みの中の値動きをご覧願いたい。先週、1週間で290円から950円へ、3倍以上に暴騰した。
(3)私は自分の強気の相場観を試すためにコールオプションを買ってみたところ、1週間で1枚につき30万円が90万円台へ、3倍以上に大化けした。
(4)もちろん、先週にはすべてのオプションが急騰した。このような急騰は大きな相場の転換点で起こりやすい。
(5)弱気論者にとっては安心売りとなっていただけに、虚を突かれた売り方の打撃は大きい。空売りはオプションに限らず、先物、信用、借り株のすべてで空前のスケールに達していた。オプションの急騰は売り方が踏み上げた結果である。
(6)空売りの主役はヘッジファンドである。東京市場は市場性が高く、先物市場が発達していたために、アジア市場全体のヘッジ売りを浴びた。マスコミは日本経済の弱点探しに熱心であったが、私は東京市場には空売りが積み上がっているから、反発力も大きいと予想していた。買い戻しと踏み上げは簡単には終わらないだろう。
(7)個別銘柄でも、私が相場逆転の指標にあげたみずほ銀行とシティバンクが予想通り大幅に高騰した。
(8)これらの事実から私は相場の基調が逆転した可能性が高いと思う。その根拠を次項で再説したい。

(二)底入れの指標が鮮明に。

 第1に、ファニーメイ、フレディマック等の政府系住宅ローン会社が新たに30兆円の資金枠を得て、ローン債券の買い取りと新規資金の供給を大幅に拡大する。これで住宅ローン市場の資金不足は解消する。
 第2に、サブプライムローンの低利借り換えを促進するために、政府が担保住宅の80〜85%を保証する構想を発表した。これでサブプライムローンの破綻は激減する。
 第3に、FRBは投資銀行に3兆円の融資を実行していたが、さらに30兆円の資金枠を追加した。投資銀行はサブプライム関連や様々な仕組み債を証券に組成していたから、その証券の大暴落で窮地に陥った。FRBは投資銀行が保有する債券等を国債並みの条件で担保に取ると発表していた。
 第4に、FRBによる救済の第1号はベアー・スターンズとなった。投資銀行はウォール街に集中しているから、FRBの資金はニューヨーク連銀を窓口に、JPモルガン・チェスを経由してベアー・スターンズに注入された。ベアー・スターンズの債務は事実上政府が保証した。
 第5に、FRBは投資銀行に対する検査機能を財務省から肩代わりする。これによってFRBは投資銀行の資金繰りを直接把握することができる。投資銀行の資金繰りが安定すれば投資銀行が組成した証券は反騰に転じ、金融機関がこれまでに計上した巨額の不良債権は優良債券に復元する。
 第6に、75兆円の債券を運用する米ピムコが、リスクが最も高いMBS(不動産ローンの証券化商品)を静かに買っている。キング・オブ・ボンド(債券王)と呼ばれるピムコの最高投資責任者ビル・グロスが、社内会議で「FRBがMBSを買うだろう」と述べたという。売り一色の債券市場でついに有力な買い手が登場したのである。債券相場の反騰を予感させる有力な情報である。
 第7に、2月にはモノライン大手の格下げ説で地方債が暴落し、株価暴落の引き金となった。しかしモノライン大手がAAA債の格付けを維持して信用不安は消滅した。にもかかわらず暴落は他の債券に飛び火し、3月には信用不安が投資銀行に集中したが、FRBは断固としてベアー・スターンズを救済した。私は、ここに至って債券相場は根拠なき暴落からの脱出へ踏み出したと思う。
 第8に、一方で私は、政府系の投資資金が今年は500兆円を超えるから、一旦株式相場が底入れしたと見るや、巨額のホットマネーが流入する可能性があると指摘している。新規資金の動向にも注目したい。

(三)人の行く裏に道あり、花の山。

(1)私は、金融不況は最悪期を過ぎたと思う。株価底入れの根拠に挙げた前項の情報はすべて日経等から拾い出しており、インサイダー情報はない。
(2)しかし不可解にも、エコノミストは強気の情報には見向きもしない。弱気の先入観にとりつかれた人には強気の指標が見えないらしい。或いは、優等生は勉強し過ぎて多数意見に洗脳されやすいのかも知れない。
(3)弱気論者は今、金融不況が解決に向かっても肝心の景気が悪化すると主張している。確かにバーナンキFRB議長は議会証言で景気が悪化する可能性を示唆したが、同時に下期に回復すると述べている。
(4)株式市場は先見性を競う場である。景気悪化論はすでに周知の事実で株価が十二分に織り込んだ。景気が下期から回復するとすれば、株価は先見性を発揮して反騰に転じるタイミングを迎えたと私は思う。
(5)先人が語り伝えた相場の格言は無数にあるが、大半は少数意見が勝つと語っている。すなわち故人いわく、「人の行く、裏に道あり、花の山」と。

(四)水清ければ、魚住まず。

(1)漢の将軍班超は西域に遠征し、広大な西域の大半を版図に組み入れて、洛陽に凱旋した。
(2)代わって西域の総督に任命された任尚は出立に先立って班超に会い、西域統治のノウハウを尋ねた。班超は「水清ければ魚住まず」と答えた。つまり中華の文明が及ばない辺境では清濁を併せのむ度量がなければ、統治は難しいと教えたのである。しかし秀才官僚の班超は中華の論理を押しつけたから、西域諸国はたちまち離反した。
(3)チベットの反乱をみて、私は即座に2200年前の故事を想起した。ダライラマに帰依した仏教徒を共産主義の論理で統治するには無理がある。
(4)かといって世界最大の面積と人口を持つ超大国中国自身もまた、自由主義、民主主義によって統治することは不可能に近い。
(5)春秋戦国時代には中国大陸に小国が乱立していたが、対立抗争していたゆえに君主は徳望を積んで人材を集め、国力を高めた。しかし秦が中国を統一して以来、巨大国家は例外なく独裁政権であった。「政治は一党独裁の共産主義。経済は自由競争の資本主義」、という二重構造は3000年の歴史が生み出した中国人の知恵だろう。
(6)チベットに対する中国の強行策を自由民主主義の視点から批判するのはやさしいが、中国自身もまた、いま国家と国民を共産主義の呪縛から解き放つために苦悶し、試行錯誤している。
(7)真の自由主義、民主主義が機能している国家はアメリカだけだろう。大統領選挙は2年間にわたる長丁場で、口先だけの思想や、信条はことごとく見破られてしまう。その大統領が内閣を組織し、官僚を更迭して、国政に責任を持つのだから、私は、ブッシュ政権は初体験のサブプライム不況を克服する力があると信じている。