2008/3/24

  2008年3月24日(月)
  【 I 】株価底入れの条件が成熟。
  【 II 】富山化学のTOBが成立。

【 I 】株価底入れの条件が成熟。
(一)信用不安に揺れた金融市場。

(1)2月にサブプライム関連債は、最高のAAA格債が半値に、A格債が80%安にたたき売られた。実体からかけ離れた異常な大暴落であった。
(2)リスクを逃れた資金は、国債や政府機関が保証する地方債に向かったが、2月には地方債の配当を保証するモノライン大手2社が格下げの噂で急落し、地方債がたたき売られた。地方債は税収入を配当の裏付けとしており、国債に準じた高い格付けを持っている。地方債の崩壊はアメリカ経済の破綻を連想させた。
(3)しかしモノライン大手2社が増資等によってAAAの格付けを維持すると、地方債の暴落は収まった。
(4)3月に入ると暴落はサブプライムと無関係の証券に波及し、AAA格債が紙くずのように崩落した。
(5)金融機関はわが身に迫った火の粉を振り払うために資産の圧縮に走り、手持ちの債券や証券を一斉に売り出したが、売り手ばかりで買い手がなく、気配値だけが音もなく下落した。投資銀行の一角に倒産の噂が燃え上がった。
(6)ゴールドマンサックスやベアー・スターンズ等は日本には存在しない投資銀行で、債券の証券化を主要業務の一つとしていたから、特にベアー・スターンズに取り付け騒ぎが集中した。
(7)3月17日にはべアー・スターンズ倒産の噂で世界中の株価が急落した。

(二)ベアー・スターンズ救済のインパクト。

(1)しかしこの時、FRBの金融政策が正確に問題点を補足した。
(2)FRBは先に投資銀行に対して普通債を国債並みに評価して融資する制度を創設しており、ベアー・スターンズが救済第1号となった。
(3)JPモルガン・チェスがFRBの窓口となってベアー・スターンズ向け融資を仲介し、そのまま買収した。買収株価はタダの2ドルであった。ベアー・スターンズの資産は1週間で紙くずとなったのである。
(4)しかし週末にはベアー・スターンズ救済の報道を受けて急反騰に転じた。中でもJPモルガン・チェスが暴騰した。
(5)これまでもFRBは政策金利の引き下げを連発し、流動性を供給したが、必要な資金が必要なポイントに届かなかった。グリーンスパン前FRB議長はもはや打つ手がないと論評していた。
(6)株式市場は現在も疑心暗鬼であるが、私は、FRBの電光石火の資金供給が金融市場にあたえたインパクトは大きいと思う。
(7)FRBは先に高格付けの債券の担保力を国債並みに評価する政策を打ち出し、融資額は即座に3兆円に達していた。NY連銀はさらに住宅ローンを担保証券に追加した。これで投資銀行の資金繰りは正常化し、彼らが組成した証券は信頼を回復するだろう。
(8)株価底入れの徴候は他にもある。

(三)株価底入れの条件が成熟。

(1)第1に、モノライン大手2社がAAAの格付けを維持した結果、2月相場で最大の悪材料となったモノライン問題は解消し、今では話題にもならない。
(2)第2に、政府系住宅ローン大手ファニーメイとフレディーマックの資金枠が米政府の規制緩和を受けて大幅に増加した。住宅ローンの買い取りや新規融資の資金量は、1.4兆ドルから2兆ドルへ、6,000億ドル(60兆円)も増加する。
(3)第3に、ジャクソン米住宅都市開発長官はサブプライムローンの借り換えを促進するために、国がローンの80〜85%を保証するという救済案を発表した。
(4)米政府の2つの救済策を受けて住宅市場の再建が軌道に乗るだろう。
(5)変わり身の早いヘッジファンドがサブプライム関連ファンドを買い付けたという情報もある。
(6)サブプライムを一部含んでいると言うだけで関連ファンドは50〜80%も大暴落したが、現実に破綻したファンドはない。資産の劣化は限定的で、相場は下げすぎている。
(7)サブプライムと無関係の正常な証券類に至っては、資金繰りがついて償還まで持てば殆ど無傷で回収できる。
(8)政府とFRBの市場対策は総論から各論へ、各論からピンポイントへ進化した。必要なマネーが必要なポイントに届くシステムが機能し始めた。

(四)シティバンクとみずほ銀行。

(1)日本では竹中平蔵氏が金融庁長官に就任した時、銀行の大口融資を片端から不良債権と認定したから、銀行は巨額の赤字を計上し、政府から資本注入を受けた。
(2)しかし2年後には担保不動産の値上がりで不良債権は優良債券に逆転し、銀行は巨額の黒字を計上して、公的資金を返済した。
(3)当時の日本では主として不動産の暴落が銀行の評価損の原因となったが、現在はサブプライム破綻に始まる証券の暴落が銀行の評価損の原因となっている。銀行の評価損が景気と業績に影を落とす状況も当時の日本と似ている。
(4)今回のベアー・スターンズの救済では、FRBが証券の担保価値を国債並みに評価するという新しいシステムが機能した。
(5)投資銀行が救済されたのだから、連銀に口座を持つ銀行の救済ははるかに容易である。金融機関の連鎖倒産が起こらなければ、信用不安は解消に向かうだろう。
(6)それゆえ私は、銀行株を株価反騰の指標として注目したい。
(7)中でも評価損の計上が大きかった米国のシティバンクと日本のみずほ銀行は業績と株価の変化率が下へも上へも大きくぶれやすいだろう。

【 II 】富山化学のTOBが成立。

(1)発行株式数2.4億株に対する応募株式数1.3億株で、TOBが成立した。
(2)応募株式数が多かった理由は、
   第1に、相場環境が最悪で、多くの株主が将来の利益よりも当座の現金を望んだ。
   第2に、上場廃止の事前通告が利いた。
   第3に、様子見していた株主が、成立と見て応募になだれ込んだ。
(3)大規模な買いの主体が賛成派か反対派かが最後まで読めなかった点が、私の不明である。TOBの期間中は関係者の介入が禁じられている。機会があれば遡って大口買いの主体を知りたい。
(4)私は野村證券に現株を預託した上で状況を見きわめる2面作戦を勧めたが、ヘッジしなかった株主は損失が出た。申し訳ないが、損失は限定的だったと思う。
(5)株主に送付された「お知らせ」は今回も難解きわまる悪文で、要約すれば次の如くだろう。
   第1に、遅くとも平成21年初めまでに富士フイルムと大正製薬は100%取得を目指す。
   第2に、東証の上場廃止基準には該当しないが、法令に従って上場を廃止する。
   第3に、その場合、少数株主の持ち株はTOB価格に準じて買い取るが、最終的には裁判所の裁定に従う。
(6)当面、上場は維持されるが、残された株価の波乱要因は T-705 の情報開示だろう。臨床試験は日本では5月にフェーズ2が、米国では5月にフェーズ1が終了し、その後に臨床データの開示が予想される。富山化学は日米政府に T-705 の開発資金支援を申請しており、その結果も開示されるだろう。